30年の苦悩の日々
第16章 手紙
毎日毎日郵便受けを見ては
ガッカリする日が10日ほど
続きました。
11日目の火曜日の午後に
息子からの手紙が届きました。
白の封筒で内側にムラサキ色の
二重になったものでとても分厚く
開けてみると便箋7枚にびっしりと書いてありました。
読んでもいないのに涙が出て
ぽとぽとと便箋を丸い粒で濡らすほどでした。
嬉しいのか情けないのか
悲しいのか懐かしいのか
なんの感情なのかわからない
でも涙が後から後からこみ上げて
流れ出てきました。
前略
お母さんお元気ですか
から始まり7枚に渡る長い手紙は
他人行儀な感じの書き方でした。
ヨガ教室のことや
逮捕された具体的なことは一切
触れていませんでした。
ただ先生のことが心配と
何度か書いてありましたので
読み終えた時には
腹立たしい気持ちがこみ上げて
きていました。
私に対してお元気ですかと
書いてくれていましたが
お父さんの身体の心配すらしていない事を思うととても腹立たしい気持ちになりました。
どれだけ親に悲しい思いをさせて
どれだけ世間に迷惑をかけて
何が先生のことが心配ですとか
よくも書いて来れたものです。
あの先生に出会わなければ
こんなことにならないでいたのに
と思うと更に腹立たしい気持ちと
情けない気持ちで心がかき乱され手紙を握りしめていました。
手紙が来たら、お父さんにも読んで聞かせてあげようと思っていたのですがそんな気持ちも
無くなってしまいました。
刑事さんが言ってた通りでした。
息子の洗脳はまだ溶けていませんでした。
洗脳とは本当に恐ろしいものです。
逮捕されて警察署の中で過ごし
その後拘置所へ移動させられても
なお、親よりも先生先生先生と
書き並べた手紙を母親の私に宛て
送ってくるのですから。
この手紙の返事をどう書けばいいのかわからないので手紙なんかもう書きたくないとまで思ってしまいました。
初めて届いた息子からの手紙を読んで
私は洗脳の恐ろしさに、がく然と
させられました。
息子の部屋の写真に写っている
息子と先生の顔
先生の悪魔のような作り笑いの顔
憎んでも憎みきれません。
こんなことになる前に
連れ戻したかったから
毎日毎日行ったのに
こんなことになる前に
何にもできなかった親ですから
アホな親と言われても仕方ありません。
こんなことになってしまうまで
想像はしていませんでした。
まさかこんなにもこの子に苦しむなんて夢にも思っていませんでした。
でも私が産んだ子なので、見捨てる事もできません。
こんなアホな親だからと言われながらも
先生の事だけが心配と手紙を書くアホな息子のために返事の手紙を書く準備をし始めました。
世間の方はさぞかし笑うと思います。
育て方が間違っていたのかもしれません。
どんな育て方なら良かったのか
今では全然わかりません。
子供なんか産まなければ良かった
私が生まれて来なければ良かった
夫と結婚などしなければ良かった
どこまで戻せば元に戻るのか
何にも戻ることなどありません。
心の中がぐちゃぐちゃに
張り裂けそうな気持ちでした。
どこにもぶつけるところもなく
誰にも相談もできず相談に乗ると言われるとお金をたくさんとられだまされてばかりでした。
もう何千万円も騙されてしまいました。
お金ももうありません。
相談することも怖いですし、親も兄弟も親戚も友人もみんな離れてしまいました。
何もかもがこんなことになって
どうする事もできませんでした。
親としても、人間としても
私が最低だからこんなことに
なってしまったのでしょうか?
息子の1人さえもきちんと育てられずよそのお母さん方はできているのに私にはできていなかった
だからこんなことになってしまった。
やっぱり私の育て方が間違っていたのだと最後はいつもそこに
たどり着くのです。