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死刑囚の母  作者: TAKIMARI
18/22

30年間の苦悩の日々

第30章 テレビ画面の白い文字


私はいつのまにか長年通い続けた東京拘置所で当たり前のように面会の手続きを難なくこなすようになってしまってました。その頃に面会中にはあまり喋らない息子が面会終わりに私の顔を見て

お母さんもうこれが最後かも知れない

と言いました。

ん?どうして?

と問いかけると又、更に違う事を話し始めたのです。

僕は毒の特効薬が作れるんだよね

だから罪滅ぼしに特効薬の科学記号を書くよ。だからお母さんがどこかの大学病院に持って行ってよ。だからヨガ教室のみんなは特効薬を注射してるから毒の中毒にならなくて平気だったんだよ。わかるでしょ。だから書くよ。ね。

面会でこんなに話してきたのは長い年月で初めてのことでした。

わかった。必ず持っていくわね。

と答えました。

そのまま面会は終わりました。刑務官の方から帰りに会計課に立ち寄り宅下げ窓口で宅下げがあると伝えられていましたので、もらって帰ろうと宅下げ申請を書いて待っていました。名前を呼ばれて取りに行くとかなりたくさんのものがありましたので1度外に出て大きなカバンを買い、再び拘置所の会計課にもどり宅下げを済ませました。本当にたくさんの本や洋服など身の回りのものが下げてありました。

この時、鈍感な私は

息子の最後かも知れないという言葉にも

たくさんの持ち帰って来た荷物にも

何も考えず何も感じていませんでした。

その数日後ニュース速報の音と白い文字で流れるテレビ画面を見て

息子やその他のヨガ教室の生徒さんたちが色々な拘置所に分散して移管された事を知りました。

ニュース速報の後の番組で死刑執行の日が近いという事を繰り返し聴いていると気持ちが遠い遠いところへ飛んで行ってしまうような表現できない心境でした。

宅下げが多かったことも

最後かも知れないと言ったことも

科学記号を書くと言ったことも

やっとこの時になって私の中で

繋がり始めたのでした。

息子がどこへ移管されたのかどうやって教えてもらえるのかを考えていると、ご丁寧にニュース番組の中でそれぞれの顔写真と行き先を日本列島の地図で詳しく解説していたのでその日のうちに何の努力もなく移管先は簡単に知ることができました。逮捕された時は被疑者として逮捕されたので親でさえもいくら教えて欲しくても教えてくれず、死刑囚になるとマスコミメディアでこんなに詳しく報道されてしまうんだとつくづく思いました。

新しく移管された拘置所へも面会に行きました。

この面会から息子は私に話をたくさんしてくれるようになりました。

何日待っても科学記号を書いた手紙は届きませんでした。

書くと言ったのに…

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