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シャブ中。

作者: 勝賢舟

 俺が通っている高校の同級生には『アホの坂上』と呼ばれている男がいる。


 野球部に所属していた坂上は、まあ典型的な勉強嫌いで、運動好きな男だった。この坂上は呼び名の通りとんでもないアホで、例えば受験勉強で頑張っているはずの坂上に『英語で一月から十二月まで言ってみろよ』とでも言おうものなら『は? 楽勝だし。January, February, Library, Dictionary…何だっけ?』とか言ってくるレベルだ。図書館で英和辞書を開いてこいとでも言いたくなる。


 しかし、坂上はこんなアホでも憎めない奴だった。誰よりもまっすぐで、自分がやりたいことを、後先、善悪を考えずにやってしまうような人間。道ばたで捨て猫を見かけると、学校まで持ってきてしまう奴で、道ばたに捨てられたエロ本も校則を無視して学校まで持ってきてしまう奴だった。それがどうして、あんな風になってしまったのか……。




 ◆◆◆




「ふう」


 秋の夕暮れ。オレンジ色の日差しが街を照りつける季節。受験勉強が佳境を迎える季節でもある。妹から『バカアニキでも頑張ればもっとレベルの高い大学を目指せるんじゃないの』というありがたいメールを受け取ってから、居たくもない学校に放課後も残って勉強を続けるようにしている。


折角学校で嫌になるほど勉強したから、家に帰ってからは息抜きに遊ぼうか。そんな事を考えながら校門を後にすると、珍しく坂上の姿を見かけた。俺はさりげなく話しかける。


「坂上、全国統一高校生テストの点数どうだった?」


俺の言葉に坂上は振り返るが、その顔はしかめっ面だった。


「岡崎……別に、わかりきったことを聞くなよ。話がそれだけなら先に行く。頭を使うと腹が……腹が減って仕方が無いんだよ」


参考書が山ほど詰まっていそうな鞄をどっしりと肩に掛け、坂上は足早に去っていてしまった。前は『俺も知らねえ! 知っているのは鉛筆だけだ!』なんて笑っていたものだったが……。坂上の『わかりきったことを聞かないでくれないか』というのは、そう言う意味ではなく、『良い点を取っているに決まっているだろう』という意味だろう。


 夏休み中は会わなかったけれども、坂上はいつものアホ面を見せてくれると思っていた。しかし夏休み明け、教室の扉を開けた時、そこに居たのは重そうな鞄を持つ今の坂上だった。かつてのアホらしい言動は無くなってしまい、口から出るのは勉強の事ばかり。一体何があったのか? 坂上に変わってしまった理由を聞いても、


『俺だって賢くなりたかった。だから勉強をした。それだけだ』


 と、無愛想に答えるだけだった。


 夕暮れに照らされる坂上の背中を遠目に見ながら、俺はそんなことを思い出していた。一体何故、坂上は変わってしまったのだろうか。ふと、家に帰ってからの遊びがどうでも良くなってくる。俺は、坂上の後をつけてみることにした。




 坂上は街の商店街を足早に突っ切っていた。本屋に寄るでも、塾に通うでも無く、ただひたすらにどこかへ向かって早歩きをする。遠目にも急いでいる様子を感じられた。家に帰るのかとも思ったが、坂上の家はこっちの方じゃない。一体何処へ向かっているのだろうか。


「あっ」


 まっすぐに商店街を突き進んでいた坂上が、急に進路を路地裏の方へと変えた。慌ててそれを追いかける。坂上が足を進めたのは、人二人分くらいしか通れない幅の、少し薄暗い路地裏だった。汚れたエアコンの室外機が並んでいて気味が悪い。もしも坂上に引き替えされでもしたら尾行がばれてしまうが、坂上は一向に後ろを気にする様子は無い。ただ、まっすぐに路地裏の奥へと突き進んでいく。一応、ある程度の距離は取り、忍び足で追いかけていると、路地の奥の方から男の声がうっすらと聞こえてきた。


「お、来たね」


 坂上の向かい側に人が居る。俺は身体を横にしてエアコンの室外機の影に隠れた。声の主はどうやら坂上を待っていたらしい。室外機の影からちらりと様子を見ると、男は黒いパーカーを頭に被っている、いかにも怪しげな売人のスタイルだった。その男に、坂上は声をかける。


「ああ、来るさ。当然だろ。もうアレがないと生きていけないんだ。さあ、早く売ってくれよ。早く俺の頭をスカッとさせてくれよ……鼻にツンとくる感じもたまらないんだ……」


「ああ、もちろん。ここにある。頂くための道具もあるぞ。ちょっとここで一発やっていかないか?」


 怪しげな男はアタッシュケースのようなものを身体の陰から取り出した。まさか。不穏な予感が頭の中を奔る。そう言えば昔、週刊少年誌で見たことがあった。勉強に嫌気が差したある学生がストレス解消の為にそれをやると、急に頭が冴えてきて勉強が出来るようになったという。しかし、その学生の末路は……。


「やめろ坂上! そんな薬に頼るんじゃねえ!」


 気がつくと、俺は室外機の影から飛び出していた。坂上は振り返り、突然の事に驚いているようだった。チャンスは今しか無い。俺は一気に距離を詰め、怪しげな男が持つアタッシュケースを蹴り飛ばした。


「岡崎!?」


 坂上が驚嘆の声を上げる。蹴り飛ばされたアタッシュケースは蹴りどころが良かったのか悪かったのか、蓋の鍵が外れていた。顕わになる中身。中から飛び出してきたのは……薄いピンク色の物体。それが空中に散乱していた。それは一瞬のうちに、ペタリと地面に落下してしまった。


「えっ、何だ、これ……」


 こんどはこっちが戸惑ってしまう。アタッシュケースから飛び出してきたブツは白い粉でも注射器でも無く、どう見ても牛薄切り肉にしか見えなかったからだ。


「おい岡崎! どういうつもりだ! 俺の唯一の楽しみ、『勉強に頑張った自分へのご褒美』を滅茶苦茶にしやがって! 弁償できんのか? 神戸牛のしゃぶしゃぶを弁償できんのか!? ああッ!?」


「そうだぞ。折角鍋まで持ってきたのに。ぼっちゃんが弁償してくれるんだろうなあ?」


 激昂する坂上と強面の聞いた売人、二人に詰め寄られる。ええと、麻薬中毒者のようにいつもイライラしていた坂上が、路地裏に駆け込んで、怪しげな売人と話していて、一発やるとか頭がスッキリするとか言って、状況だけ見たら完全にクロなのに。何だ、これは。


「……なんじゃこりゃあ――!!」


 突然の不可解な出来事、そして手痛い出費。俺は、その場でただただ叫ぶ事しかできなかった……。




『シャブ中。 ~とあるしゃぶしゃぶ中毒者、坂上(さかがみ)(よう)の変態的欲求と、岡崎(おかざき)貴之(たかゆき)の苦悩~』




 どうしてこうなってしまったのか。その経緯を、俺は坂上の部屋へと押しかけて聞いていた。


「まあ俺だって、いつまでも馬鹿にされるわけにはいかないと思っていた訳よ。だけど俺は勉強が大の苦手だ。とてもがんばれねえ。じゃあ、どうするか。これはもう、『頑張った自分へのご褒美作戦』しか無いと思った訳だ!」


 座布団に胡座を掻きながら身振り手振りで話をする坂上は、以前の通りの『アホの坂上』だった。坂上は普段の不機嫌さが嘘のように話を続ける。


「俺の大好物はしゃぶしゃぶ。一日本気で勉強をする度に、神戸牛のしゃぶしゃぶを食べる。勿論俺のポケットマネーでだ。ただ、商店街で買うと人目に付くだろ。俺が無駄遣いしていることが母ちゃんにばれたらどうなることか。だから、肉屋のオヤジに路地裏まで肉を持ってきてもらっていた訳だ! 納得したか?」


 自陣満々に話し終える坂上。しかし、俺はため息がこぼれる。


「なるほど……お前がアホだって事は納得した」


「アホじゃねえ! 俺だってやれば勉強はできんだよ!」


 坂上は軽くキレていた。お前のアホはそう言うことじゃ無いんだけどな……もしも路地裏で誰かに見つかっていたら余計に怪しまれるとは思わなかったのだろうか。いや、思わないんだろうな。『カレーは素手で食う物』とか言って何の疑問も持たずにカレー鍋に手を突っ込んだことのある男だ。


「で、なんで日中はあんなにイライラしていたんだ?」


 しかし、頑張った自分へのご褒美があったのなら、学校内であそこまで不機嫌になるだろうか。俺が尋ねると坂上はさっきの怒りを忘れたのか、再び楽しそうに話し始める。


「おう! しゃぶしゃぶがあまりにも美味しくてな、学校じゃあ食えないからイライラしてたんだ! お小遣いも日に日に無くなっていってよー、マジ困ったぜ!」


 ――買う物は麻薬じゃ無くても禁断症状は出てるんかい。


「それって、何気にヤバイだろ。完全に禁断症状じゃん。お金が無くなったらどうするんだ?」


「そうだなー、そこまで考えてなかったぜ!」


 勉強が出来るようになったのにこのアホっぷりである。しかし、笑い事では無い。このまま坂上が毎日神戸牛を買い続けると、坂上のお小遣いはすぐに底を尽きてしまうだろう。そうなった時、イライラが止まらない坂上はどうなってしまうのか。人を傷つけたり、肉を買うために強盗したり、挙げ句の果てには本当のシャブシャブに手を着けたりしないだろうか……? 不安になった俺は坂上に尋ねる。


「なあ、ちなみに、しゃぶしゃぶを食べないとどうなるんだ?」


「え。怖いこと言うなよ……。前日の夜にしゃぶしゃぶを食べた次の日の学校でも手足の震えを我慢しているのに。まあ、三日喰わなかったら発狂するかな。ちなみに、今は食べたばかりだから機嫌が良いぞ!」


 迷いは消えた。こいつはやるときはやる男だ。


「坂上……禁しゃぶしよう」


 坂上の両肩に手を置いて、ずばっと言ってやる。しかし、坂上は納得のいかない様子で俺をにらみ付け、おもちゃを取り上げられた子供のように大声で叫び始めた。


「なんでだよ! しゃぶしゃぶを食べると勉強ができるんだよ! 頭がスッキリするんだよ! なんでだよ!」


「だから、それが危ないんだって! 何かに頼らないと生きていけないってのは危ない! 幸い、ニコチンとか、成分的に身体が求める物は無いはずだろ、何か代用品を探せ!」


「なんでだよ! 俺はしゃぶしゃぶが良いんだよ! なんでだよ! しゃぶしゃぶを食べるとマンモスうれぴ~気持ちになるんだよ!」


「だあああああ落ち着け!」


 涙を流しながら怒り続る坂上に一括をする。しかし坂上は、地面に突っ伏してうんうんとうめき声を上げ始めてしまった。ちょっと禁しゃぶの話をしただけでこれは、大変よろしくないだろう。


「……そう言えば、何もしゃぶしゃぶ自体を止めなくても良いんじゃ無いか。神戸牛じゃなくても、安い肉でも――」


「ダメなんだよおおおおおお!! 刺激が足りないんだよおおおおおお!!」


「うおっ、いきなり顔を上げるな! 刺激、刺激ねえ……」


 俺の提案を、坂上は間髪入れずに否定する。そこまで神戸牛のしゃぶしゃぶが好きか。あまりにも贅沢な悩みに呆れてしまうが、禁断症状でうなだれる坂上を放っておくわけにもいかない。何としてでもしゃぶしゃぶの代用品を考える必要があった。この部屋に、何か坂上が好きな食べ物のきっかけになるような物はないだろうか。坂上の部屋を見渡してみる。しかし何てことは無い、至って普通の、健全な男子高校生の部屋だ。床にはページが開きっぱなしの週刊少年誌が所狭しに散乱していて、ゴミ箱の中には何日掃除されていないか解らない紙くずが押し込まれている。そして部屋の壁には、幼げなグラビアアイドルのポスター……。


「例えば、例えばだぞ。女の子の使用済み靴下でしゃぶしゃぶをするのはどうだ?」


 くだらない、ただの思いつきだった。しかし、坂上の身体の震えがピタリと止まる。坂上はゆっくりと立ち上がると、言葉を待つように俺を見る。その顔は何を考えているのか解らない、冷たい無表情だった。


「汗の酸味がきいた臭いがするのか、はたまた無臭なのか、それはわからない。だけど、その靴下を箸でつまんで鍋に投入する。どんな味と香りがしみ出てくるのか……」


自分で言っていて頭が痛くなってきたが、坂上はどうだろう。俺の言葉を聞いた坂上は一回深呼吸をして、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。


「……試してみないと解らないな」


 試さなくてもほとんど結果のわかる反応だった。


「いや、お前、マジか? アイデアを言った俺が言うのも難だけど、正気か?」


「正気? 何を言ってるんだ岡崎、俺の顔は正気そのものだろう。女子中学生の使用済み靴下。その甘美な酸味を想像していたら心が晴れやかになってきたよ」


 顔は正気だが、言っていることは狂気だった。今度からコイツのあだ名は『変態の坂上』もしくは『ロリの坂上』にしよう。


「そうか、このグラビアアイドルのポスターを見て思いついたのか? ふふっ、言い趣味してるぜ。お前も胸が小さい方が良いタイプか?」


「やめてくれ……知ってるだろ、俺には妹が居るんだ……」


「そうか、じゃあ妹の靴下くれよ」


「無理に決まってるだろ!!」


「何でだよ! 何でダメなんだよ! うおおおおおおおおおおおお!!」


 また坂上の禁断症状が発症していた。しかし、坂上をしゃぶしゃぶの魔の手から救う手がかりを掴むことができたかもしれない。問題は新たな禁断症状、それも、とびきり法律に引っかかりそうなものを生み出してしまったのかもしれないという事だ……。




 ◆◆◆




「はあ……もう我慢できねえよ……夜まで待っていただけでも発狂しそうだぜ……」


 そして、その日の夜。ダウナー系から一気にアッパー系になった坂上に連れてこられて、俺は地元で有名な女子中学校の寮の前に居た。その寮とにかく、大きい。U字型に連なった三階建ての建物は、高級住宅街のマンション、さらには年季の入った小学校を連想させる。俺たちは勿論、いきなり正面入り口に近づいたりはしない。建物から少し離れた曲がり角から顔を覗かせて様子を窺っている。『靴下しゃぶしゃぶ大作戦』の言い出しっぺとしては付いていかなければいけないだろうか、見つかったときのリスクを考えるとさすがに気が乗らなかった。既に鼻息が荒い坂上は捕まったときのリスクなんてこれっぽっちも考えていないだろうが。


「なあ、ここは止めようぜ……。ここの噂を知ってるか? 私立でもトップレベルの学力、警備体制、おまけに通っている女生徒の五割がアリス、四割が黒猫を名乗っているらしい……」


「は? つまりどういうことだよ? 中二病の集団か?」


「違う! 要するに、ちょっとお高くとまったお嬢様が多いって事だよ! 危ないって! バックにどんな奴がいるかわからないぞ!」


 俺の制止は、坂上には届かなかった。むしろ、『お嬢様』という単語を聞いてから、坂上の鼻息がより荒くなったように感じられる。


「はっ、だから良いんじゃねえかよ……。普段は高潔で清楚な女学生。そんな奴らのアンタッチャブルな世界、禁断のスメルをしゃぶしゃぶするんだぜ。たまんねえよなあ……。そんなことよりお前、随分とここに詳しいな。やっぱりロリコンかよ」


「やめてくれ……本当にやめてくれ……」


『詳しいも何も、ここには俺の妹が通っているんだから当然だろう』とは決して言えなかった。部屋にあってあったグラビアのポスター。そして女子寮前でのこの反応。こいつは間違いなく妹属性がある。『靴下しゃぶしゃぶ症候群』を発症したこいつに妹の使用済み靴下を四六時中要求され続けたら……考えただけで背筋が薄ら寒くなった。


 俺の妹――岡崎(おかざき)芽生(めい)はヘアバンドが似合う、可愛い妹だ。俺と違って頭も良い。高い偏差値と高い学費の私立中学に、授業料免除の特待生待遇で入学するほどのものだ。頭だけじゃ無い、運動神経だって抜群。中学ではバレー部に所属して、エースアタッカーをやっている。明るくて活発で、だけど気が強いところが玉に瑕で、そんなところも可愛いんだけれども。美貌に知性に体つき。そんな三拍子が揃った完璧な妹の靴下を要求され続けたら俺は……。


「岡崎……何ぼうっとしてんだよ……、俺は行くぜ」


 坂上の言葉にはっとして、正気に戻る。どうも妹の事を考えるとぼうっとしてしまう。俺が夢想している間に、坂上は今にも曲がり角から飛び出しそうになっていた。


「いやいや、待てって! もう消灯している時間だぞ! 入り口や窓には当然鍵が掛かっているだろうし、どんな警備体制かもわからないだろ!」


 いくら夜とは言え、女子寮に忍び込むのは困難だろう。しかし、坂上は平気な顔で笑う。


「勉強が出来るようになった俺を甘く見るなよ。女子寮の中に入らなくても使用済み靴下を手に入れる方法はある」


 そう言った坂上は、ゆっくりと女子寮へと近づいていった。自信満々なその背中を見ていると意図も容易く成功してしまいそうだが……。


「はあ……」


 一応、妹に電話を掛けて女子寮の様子を聞いてみようか。いや、しかし、そんなことを聞くのはいかにも『僕はこれから女子寮に侵入します』と聞くようなものだ。何というか、怪しすぎる。


「だけど、坂上をわざわざ無駄死にさせる訳にはいかねえよな……」


 俺は携帯電話を取りだして、電話帳から『あ岡崎芽生』と登録された部分を選択する。『あ』から始まるので電話帳の先頭だ。いつも夜遅くまで勉強していた妹は、おそらく今もまだ起きているだろう。予想通り、一回のコールで芽生は電話に出てくれた。


『もしもし、こんな時間にバカアニキから電話だなんて、どういう風の吹き回し? こっちは勉強中なんだけど』


 夜でも眠気を一切感じない、活発な声。聞いているだけでこっちの目が冴える声だ。


「ああ、その、女子寮はどんな感じだと思ってな。怖い先輩とか、怖い警備員さんとか、怪しい監視カメラとかは大丈夫か?」


「え、突然アニキぶってどうしちゃったわけ。バカアニキらしくも無い。別に、先輩も優しいし、いい寮だけど。寮の警備員さんも優しいし、監視カメラも部屋にはついてないから大丈夫だよ。って言うか、そんなことを聞くなんて怪しいんだけど。女子寮に侵入するつもり? 止めた方が良いと思うけどな~。まあ、もし侵入するんだったら、バカアニキの恥ずかしい勇士は部屋からゆっくりと見物させて貰うよ」


 まさか本当にその通りになりそうだとは、いくら頭の良い芽生でも想像していないだろう。姪の話では予想通り警備員が居て、『監視カメラも部屋には付いていない』ということは部屋以外には付いているのだろう。しかし、坂上は女子寮の中に入らなくても使用済み靴下は手に入ると言っていた。それなら大丈夫かもしれないが、一体どんなミラクルを起こすつもりだろうか。妹に誤解されるのもいやなのでフォローを入れるが、乾いた笑いもこみ上げてしまう。


「はは……そんなわけ無いだろう……。ああ、それと、まあ、もう一つ聞きたい事があって。唐突な質問で悪いんだけどな――」


「何? 学校の勉強? バカアニキの受験勉強くらいならわかるかもね」


 そんなに情けないことを聴けるわけが無いだろう。


「――もしも、俺の友達が芽生の使用済み靴下を欲しいって言ったら、くれる?」


 言葉の後に、嫌な間が開いた。『バカ』とか『無理に決まってるじゃん』とでもすぐに言ってくれれば良かったが、何の返答も帰ってこなかった。僅か五秒ほど、しかし、それ以上に長い時間が経ったように感じる間だった。そして、芽生は言う。


「バカアニキ……そんなに妹の靴下が欲しかったんだ……」


 電話を切られた。俺は、ただただ、その場にうずくまる事しかできなかった。嫌われてしまったのだろうか……。しかし、落ち込んでは居られない。警備員と監視カメラの厳重警備があることが解ったのは良しとしよう。何とか別の手段を考えて、坂上を止めなければ。俺は女子寮に近づいていく。


 しかし、時は既に遅かった。


「岡崎―助けてくれー!! 警備員に追われてるんだよー!! ゴミ捨て場なら使用済み靴下があって、尚且つ監視体制も甘いと思ったのに、近づいただけで警備員が寄ってきたんだよー!!」


『アホの坂上』は勉強が出来ても『アホの坂上』。坂上が起こそうとしていたのはミラクルでも何でも無い、ただのハプニングだった。そこは監視カメラがありそうな場所トップテンに入りそうなスポットだろうに……。


「って坂上、こっちに来るな! 俺まで共犯みたいだろ!」


 坂上の後ろにはガタイの良い警官が警棒を片手に追いかけてきていた。芽生が言う優しい警備員にはとても見えない。この警備員に捕まったら最後、事情も聞かずに強制連行されてしまいそうな程に。


「何を言う! アイデアマンはお前だろう! ここまで来たら一蓮托生じゃ無いか! なあ! 岡崎貴之S県立経済大学付属高校三年二組出席番号六番!」


「この状況で何故俺のフルネームと身元を大声で叫ぶんだ馬鹿野郎!! 道連れか!? 道連れなのか!?」


「どうするんだ岡崎貴之! このまま捕まるか、それとも覚悟を決めて女子寮に潜入してから捕まるか、どっちにするんだ!」


 こいつ、それが目的でこっちに逃げてきやがったか! どうする。どうすれば良い。焦りで混乱していく脳内に、ふと妹の顔が浮かんだ。これ以上は考えるまでも無い。


「くそっ、坂上! 手短に言うから詳しいことは聞くな! もしかしたら俺たちを庇ってくれるかもしれない人がこの女子寮に居る。そいつの部屋に向かうぞ!」


 可能性は低いが、何もしないよりはマシだ! 俺は携帯電話を取りだして、坂上を追いかける警備員にライトの光を浴びせた。今は消灯の時間。深い暗闇の中、突然表れた光に驚いた警備員は一瞬だが目を覆い立ち止まる。網膜に残る光の残像で、ほんの少しの間だが俺たちを追えなくなるはずだ。坂上を放っておけば一人でも逃げられたが、捕まってから禁断症状を発症したら何をするかわからない。だったら、どうしても放っておくわけにはいかないだろう。


「今だ坂上! 女子寮に行くぞ」


「ああ~何するんだよ岡崎~!! 目が、目が~!!」


 お前も立ち止まってどうする! 俺は目を覆う坂上の手を無理やり引っ張り、女子寮の方へと走り始めた。




 ◆◆◆




「岡崎、俄然、乗り気じゃないか!」


「誰の所為だと思ってるんだよ……」


 大急ぎで警備員を振り切り、俺たちは門を乗り越えて女子寮へとやってきた。しかし、これからどうするか。監視カメラに写るのはこの際仕方が無いとして、芽生の部屋へ行くには女子寮の中に入らなければならない。しかし、この警備体制だ。鍵をかけ忘れた窓があるとはとても思えない。


「岡崎、どうやって侵入する? 窓を壊すか?」


「アホ! そんなことをしたらそれこそ少年院だろ!」


「だけどよお……あ、そうだ。折角侵入するならついでに使用済み靴下をくすめるっていうのはどうだ?」


 頭を抱えたくなるピンチにも関わらず、坂上はポジティブだった。もはや尊敬に値するアホだ。そのキラキラした瞳で靴下の幻覚でも見ているのだろうか。


「……勝手にしろよ……」


「よし、じゃあ二手に分かれるぞ! うっ……香りが、しゃぶしゃぶのような、甘酸っぱい靴下のような、そんな鼻に来る香りが……」


「何なんだよ、その香りは!」


 俺の制止も聞かずに、坂上は一人で門の正面――U字型の内側中央にあある女子寮の正面玄関へと突っ走って行ってしまった。さすが元野球部。あっという間に先に行ってしまい、俺の足ではもはや追いつくことが出来なかった。そこからどうする気なのか……。俺はとりあえず坂上を放っておいて、U字型の外側から芽生の部屋を探す。なんとか庇って貰えれば、ちょっとくらい暴走した坂上のこともなんとかできるだろう。多分。希望的な観測でしかないが。


 U字型の女子寮の周りを沿うように走りながら、部屋の様子をチェックしていく。窓が一部屋に一つ付いている構造のようだ。消灯時間だからだろう、はっきりと確認できる灯りは無く、どっしりと佇む女子寮からは威圧感すら感じられた。


「芽生の部屋、芽生の部屋……そうだ! わざわざ侵入しなくても、芽生にどこかの窓を開けて貰えば良いじゃないか!」


 幸い、さっきの電話で芽生が起きているのは確認済みだ。どんなに堅固な城でも、中に内通者が居れば侵入するのは容易い。さっそく、走りながら携帯電話を取りだして芽生にコールをかける。しかし、今度はすぐに出てくれなかった。


「芽生、どうしたんだ……早く出てくれ……」


 焦りが携帯電話を握る手を熱くする。しかし俺の願いも虚しく、結局芽生は電話に出てくれなかった。『勉強中』と言っていた芽生が、電話の後にすぐ寝てしまったとは考えにくい。つまり、あまり考えたくは無いが、思いつく原因は二つ。芽生が突然病気で倒れたか、俺がさっきの電話で芽生に嫌われてしまったからだ……。


「くそおおおおおお!!」


 兄としてショックは隠せないが、今はそれどころでは無い。とにかく、何とかして女子寮に侵入し、庇って貰うため、そして何とか誤解を解くためにも、芽生の部屋へ行かなければならなかった。しかし、俺からの電話が駄目ならどうするか。


「部屋の窓を片っ端からノックするか……?」


 もしも芽生の部屋をノックすることができれば、なんとか入れて貰えるかもしれない。しかし、芽生の部屋以外の窓をノックしてしまったら。それこそ考えたくない自体だ。いよいよ見知らぬ女子中学生の部屋に侵入する変態になってしまう。とは言え、既に女子寮の周辺をうろついている時点で傍から見たら変態か。だったら……やるか?


「いやいや! 俺だけが捕まるのはまだしも、坂上だっているんだぞ!」


 そう、何とかして芽生に庇ってもらい、少しでも警備員に話を通して貰わなければならない。見知らぬ女生徒の部屋に侵入でもして余計に罪を重くしたら、いくら芽生でも庇いきれないだろう。走りながら考える俺の前に、ふと、周囲を照らす光が見えた。


「こちら女子寮北側、現在不法侵入者を捜索中。応援求む」


 間違いなく警備員だろう。どうやら無線のトランシーバーで会話をしている様子だ。これだけ広い女子寮の警備員が一人ということはないだろう。今はまだ人数が少なくても、応援が来たらいよいよ見つかってしまう。人数が少ない今のうちに、なんとか良い方法を考えなくては。警備員の懐中電灯を見た俺は、一つのアイデアを思いつく。


「光、そうか、もしかしたら……」


 芽生はまだ勉強をしている。つまり、いくら消灯時間といえども、部屋の中には灯りが必要なはずだ。それも、字の読み書きが出来る程度には。だったら……。


「カーテンの隙間。 中は覗けなくても、隙間から漏れる光くらいなら……」


 俺はきびすを返し、部屋の窓に掛かるカーテンの隙間を片っ端からチェックし始めた。全ての部屋には小さなベランダが付いていてあまり近くには寄れなかったが、カーテンからこぼれる光くらいは見えそうだった。大急ぎでU字型の女子寮をさっきとは反対方向に回る。それにしても、広い。広すぎる。このまま走り続けたら体力の限界はすぐに訪れる。もう少し、芽生の部屋がある場所に見当を付けないと、埒があかないだろう。何か部屋のヒントは無いか。たとえば、さっきの芽生との電話。寮の中について話していた。もしかしたら、そこに何か、芽生の部屋の場所を特定する会話があったかもしれない。


「思い出せ、思い出せ、妹の言葉だぞ。忘れるなよ……」


 警備員がいる、監視カメラがある。それはいい。確か、その先。『バカアニキの恥ずかしい勇士は部屋からゆっくりと見物させて貰うよ』だ。俺の勇士を見物出来る場所。この女子寮はU字型だ。つまり、建物の外側じゃ無くて、内側にある部屋じゃないだろうか? 尚且つ、見物が出来る位置は、三階。 確証は無い。確証は無いが、今はそれに賭けるしかないだろう。俺は建物の内側、U字型の中へと走る。そしてベランダの柵に足を掛け、二階のベランダへ、そして三階のベランダへと高く飛ぶ。


「うおおおお!! 壁登りだああああああああああ!」


幸い、広く見えた寮も高さは意外と低く、高く飛んでから手を伸ばせば上の階のベランダの縁に捕まることができた。息の上がった身体に鞭を入れ、何とか三階のベランダまでたどり着くことが出来た。ここまで来れば、あとはベランダからベランダへ飛び移りながら、一部屋一部屋のカーテンをチェックしていけば、いずれは芽生の部屋に到着できるはずだ。


「光、光……あった!」


 飛び回りながらの捜索。体力は限界に近かったが、すぐに見つけることができた。俺の予想は正しかったのだ。ここの窓をノックすれば、音に驚いた芽生はきっとカーテンを開けてくれる……いや、待てよ。U字型の内側、その三階、カーテンから微かな光が漏れる部屋。本当に、それが芽生の部屋だろうか? 他に勉強で夜更かししている女子中学生が居ないと、本当に言い切れるだろうか……? そう思った、その時だった。突然、俺の身体が光に照らされる。円形の、懐中電灯の光だ。女生徒を不安にさせないためか、警備員が静かにトランシーバーで誰かと会話をしながら、俺の身体を照らしていた。もう、逃げられない。ここまで来て、もうお終いなのだろうか。ここで俺が捕まったら、坂上は……。


「いや、まだだ。まだ諦められねえよな……!!」


 この部屋に、おそらく芽生は居る。後はカーテンを開けて貰うためのノックをするだけ。だけど、俺は芽生の部屋だという確証が欲しい。俺の携帯電話で芽生と話せれば話は早いが、そうもいかない。だったら。俺は携帯電話を取り出した。


「『さ』だ、『さ』行……出ろよ、坂上!」


 指先が震えて携帯電話を落としそうになるが、携帯電話を握る。通話ボタンを押してからの数コール。永遠のように長い時間。女子寮に侵入を試みて居るであろう坂上は、奇跡的に電話に出てくれた。


『岡崎、電話してる場合かよ! お前、どうするんだ! 俺からでも場所が見え見えだぞ!』


 普段は電話に出ない坂上がすぐに出たのはなるほど、俺が見えていたからか。坂上もU字の内側に居るのだろう。


「そうか、俺が見えてるなら話が早い。坂上、お前の携帯電話を俺に向かって投げろ!  理由は聞かないでくれ! 説明している時間は無い! 元野球部だろ、思いっきり投げてくれ! それとも、出来ないって言うのか?」


 最後の賭け。最近は運動をしている姿を全然見なかった坂上。だけど、あいつがひたむきに野球を頑張っていたのはクラスも誰もが知っていた。俺の言葉に、坂上はゆっくりと答える。


『岡崎……アホだった頃の俺にも長所はあったんだぜ。俺はなあ……』


 耳元から坂上の声が消えたと思った次の瞬間。


「ピッチャーやってたんだぞおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 電話に耳を向けるまでもなく、坂上の声が暗闇に響いた。あのアホ……それじゃあお前の場所も丸分かりだろう。声が聞こえた方向から、携帯電話がまっすぐに飛んでくる。俺はそれをキャッチして、その方向を見下ろした。薄暗くてよく見えなかったが、坂上はガッツポーズをしているような気がした。時間が無い。坂上の携帯電話の通話終了ボタンをを押して、すぐさま新しい電話番号を入れる。俺の携帯電話を確認するまでも無い。俺が妹の電話番号を、忘れるはずが無かった。見知らぬ電話番号からの通話、頼む……出てくれ。


『はい、もしもし』


 祈りが届いたのか、今度はワンコール。外で何が起こっているかは知りもしない、明るい声。体調が悪い様子は微塵も無い、いつも通りの妹の声だった。すこしほっとした俺は、さっさと本題に入る。


「もしもし、俺だ、バカアニキの貴之だ。さっき電話で言ったことを謝るから、とにかく部屋の窓を開けてくれないか」


『バカアニキ!? えっ、どうしたの!? 窓を開けろって……』


 驚いた妹の声。すぐに、おそるおそる、目の前の窓を覆っていたカーテンが取り払われた。窓が開く。部屋の中には、パジャマを着た愛くるしい妹の姿があった。


「よお……さっきはすまなかった。とりあえず中に入れてくれないか」


 ようやくここまで来られた。安堵から、急にどっと疲れがこみ上げてきた。早く中に入れてくれ。しかし、芽生は携帯電話を手からこぼれ落とす。そして、俺の姿を見てこう言った。


「へ、変態――――――――――――――!!」


 ……あれ?




 ◆◆◆




 出会って三秒で変態扱いをされた俺は芽生に蹴落とされそうになったが、何とか事情を説明した。芽生も最初は全く信用していないようすだったが、最終的には何だかんだで俺に協力してくれるようだった。結局は坂上を捕まえていた警備員を説得してくれて、俺と坂上がどれだけアホか、今後このようなことが無いようにしっかりと教育するから許してくれないかだなんて言ってくれて、俺たちは無事に解放されることになった。そんな説明で俺たちの行動が厳重注意で済まされるんだから、我が妹がどれだけ周囲から信用されているかがわかる。全く、どっちが年上か解らない。


 そして、寮の談話室。ガタイの良い警備員のお説教から解放された俺たちは、芽生に坂上の事情を解決する方法がないかと相談をしていた。


「ふーん……信じられないけれど、女子中学生の使用済み靴下でしゃぶしゃぶすれば、その禁断症状が治まるわけ?」


 芽生は冷たい眼差し、まるで変態を見るような目で、坂上を見ていた。まあ、確かに変態なんだが。


「……多分だけどな。要は『頑張った自分へのご褒美』かつ『刺激の強いもの』なら何でも良いんじゃ無いかと思う」


「イライラする……そろそろしゃぶしゃぶしねえと……しゃぶらねえと……」


 俺たちの心配はそっちのけで、坂上は机に突っ伏して貧乏揺すりをしていた。それにしても、靴下をしゃぶしゃぶしていのかか、しゃぶるりたいのか、どっちなんだ。息を荒くする坂上を見て、芽生はいたずらに微笑んだ。そして俺に言う。


「ねえ、バ……お兄様、ちょっとこっちに来て」


 俺の手を引いて、芽生は談話室から俺を連れ出した。談話室の扉を閉めてから、芽生は俺に言う。


「靴下、履いてるんでしょ。それも、私の部屋を探すために必至で運動をしたときの汗がしみついた、すんごいヤツが。それ、脱いでくれる?」


「え、お前、まさか……」


 何かを察した俺は、芽生の目を見た。その目は、さっき警備員に説明をしていたときの大人びた眼差しとは違う、いたずらを思いついた年相応の中学生の目だった。


「そのまさか。いくらバカアニキといえども、自分の兄をこんな酷い目に遭わされちゃったんだから、坂上さんにはちょっと罰を与えなきゃね」


 俺が靴下を脱ぐと、その靴下を芽生は指先でつまみ、再び談話室の中へと戻る。そして、満面の笑顔で坂上に話しかけた。


「坂上さん、禁断症状が出て辛そうで可哀想……私の靴下で良ければ、是非とも使って下さい。私、バレー部員ですから、きっと汗も染みてますよ」


 芽生の言葉を聞いた坂上はバッと顔を上げて、芽生がつまむ靴下――俺の靴下を見る。坂上の目はとろけきっていて、ある意味、今までで一番危ない表情をしていた。


「芽生ちゃん……良いのかい、本当に良いのかい? 君には感謝をしてもしきれない……。沸騰するお湯にしゃぶしゃぶして、ごまだれに一漬けしてから口の中に頬張って、汗がしみ出たしゃぶしゃぶしたお湯も全部すすり飲んで……そんなことをしても良いのかい?」


 やめてくれ……吐きそうになる。俺の気を知ってか知らずか、芽生は天使のような笑顔で答えていた。


「ええ、勿論。好きなように使って下さい。そうだ! これからは毎日バ……お兄様に私の使用済み靴下を渡しておきますから、それで元気を取り戻して下さい!」


「芽生ちゃん……君はこの地上に舞い降りた天使だ……!! ありがとう……ほんとうにありがとう……」


 坂上は大人げなく、大粒の涙を流し始めてしまった。女子中学生から靴下をもらって泣くアホの図だ。その様子を見た芽生は、俺を一瞥してにやりと笑った。ああ、そうか、そう言うことか。これは坂上への罰だけじゃ無くて、俺に対する罰でもあったんだな……。可愛い天使のような妹の顔が、俺には悪魔の微笑みにも見えた。




 ◆◆◆




 それ以降、坂上は学校でも夏休み前のアホさ加減を取り戻していた。加えて勉強もすっかり出来るようになっていて、まさに敵無し。今まで以上の人気者になった。そんな坂上に毎日使用済み靴下を渡す俺は思う。何事も中毒症状が出るまでやってはいけない。酒も、タバコも、パチンコも、俺はたしなむ程度でやめておこうと、本気で思うのだった……。

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