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虹の背中  作者: シュウ
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第8回

<虹の背中8>



黄色のパーティードレスにゴールドのハイヒールという派手な服装のその女性は毛皮のコートを羽織り、少し寒そうに肩をすくめて両腕を組んでタクシーを待っている。

膝下から見える、細くも太くもなく白くて綺麗な足が印象的だった。

(綺麗な人やな)

そう思いながら通り過ぎようとした時、今まで向こうを向いていた女性がタクシーを探してか一瞬こちらを見た。

鳴海は足を止めると、方向を変え躊躇無く女性の方に歩いていく。

美奈子だったのだ。


「都築さん」

鳴海は向こうに向き直った美奈子の背中から声をかけた。

美奈子は一瞬戸惑った表情を見せながらも、会釈しながら答えた。

「いやぁ~、鳴海さんじゃないですか。お久しぶりです」

以前は就職活動中の女学生風だった美奈子は、前より痩せて実に綺麗になっていた。

それに前会った時は装飾品など身につけてなかったが、今日は胸元には真珠のネックレス、耳には真珠のイヤリング、髪にはティアラ風の髪飾り、羽織ったコートの間からは薔薇のコサージュまで見えている。

披露宴に出席したのだろうからお洒落して行くのは当然と言えば当然と思いながら、美奈子の変貌ぶりに驚いていた。

(女性は恋をすると綺麗になるというが、彼女も恋をしているのか?)

そう思いながら、鳴海は気づかれないように彼女の左手をチェックした。

指輪が左手の中指にあるのを確認して安心し、そんな自分が滑稽にも思えた。

「どうかしました?」

美奈子を見つめて何も言わない鳴海は、そう訊かれて素直に答えた。

「都築さん、ほんま綺麗になりましたねぇ」

「前はださかったでしょ。今日は気合い入れて化粧しましたから」

素直すぎた言い方を反省しながら、その言葉をあわてて否定する。

「そ、そんな意味じゃあないですよぉ」

「いいんですいいんです。あの時はわざとださくして行ったんですよ」

披露宴で呑んだのか美奈子は酔っているようで、前とは違った印象を受けた。

それにしても

(わざとださく・・・とはどういう事だ?)

と疑念を抱いた。

しかし、美奈子が寒そうなのを見かねて場所を変えてゆっくり話したいと思った。

「寒そうですねぇ。どうです?近くにいい店がありますから、この前おごって貰ったお返しをさせて貰えませんか?」

「え?こんな荷物もってますから・・・」

鳴海は、ためらった美奈子の引き出物の袋を持つと、もう歩き出している。

「ここから直ぐですよ」

そう言った鳴海の後ろを、ハイヒールの美奈子は小走りで追いかけていた。


最近本町に出来たホテル『ホリデイ・イン大阪』の最上階にあるラウンジ『ミスティーハウス』の窓際の席に、二人は向かい合って座った。

ここはオープン当時に北島に連れられて来た事があり、パティシエが作る独創的なケーキでグルメ雑誌に掲載される程の有名店である。

夜になるとディナーや酒を求める客でにぎあうのだが、日曜日の昼間と言う事もあってか比較的空いている。

二人はお勧めのケーキと紅茶を注文して、話の続きを始めようとしていた。


「意外やわぁ、鳴海さんてこんな強引な事しはるんですねぇ」

今日の美奈子は大阪弁が可愛かった。

「それに、こんな高い店に連れてきてくれはって・・・」

美奈子は窓の外に顔を向けると、さらに続けた。

「でも、こんな眺めのいいとこにお誘いくれはってうれしいです」

パーティードレス姿の美奈子の白い胸元に見入っていた鳴海は、目線を顔に戻して

「綺麗な人とまたお茶飲めて、俺もうれしいですよ」

と返した。

「お世辞もお上手なんですねぇ」

「お世辞やないって、ほんまに綺麗やって」

恥ずかしそうにする美奈子を見ながら、鳴海は元来不器用な自分が、女性に対してこんな事をしたり言ったりしているのを意外に思っていた。

その時

「あ、虹!」

美奈子は立ち上がって東の空にある、もうすぐ消えてしまいそうな虹を見つめていた。

そして何を言ったのか聞こえなかったが、小さく口が動いた。


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