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虹の背中  作者: シュウ
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第31話

<虹の背中31>



葬儀が終了し、帰ろうと寺の門に向かっていた鳴海を、さっきまで遺族席にいた妙が呼び止めた。

「鳴海さん、本日は遠路ありがとうございました」

妙は、前に会った時より幾分やつれた感じがする。

「いえ、小田切さんこそさぞおお淋しいでしょう。それにしても余りに突然でしたね・・・。これから、どうしはるんですか?」

鳴海が尋ねると、妙は気丈にも笑顔を作って答えた。

「前に勤めていた銀行に戻れる事になったんです。木下の父の勧めもあってそう決めたんですが、私の両親も喜んでくれてます」

「それは良かった。少しでも早く事件を忘れて、以前の元気な小田切さんに戻ってください」

「ありがとうございます。では、火葬場へ行く時間ですので、失礼します」

喪服を着て去って行く妙の後ろ姿が小さく見えて、もうすぐ訪れるであろう美奈子の喪服姿を思い描かずにはいられなかった。



塚口・小川両刑事は門の外にいて、葬儀の参列者が帰るのを観察していたが、あまりに人数が多いために参列者の確認さえ出来ない状態だった。

「塚さん、いくら何でもこんな多かったらどうにもなりませんわ」

「まぁ、怪しい人物がおらんかどうかだけでも見とってくれ」

「はぁ・・・」

結局、葬儀では怪しい人物が現れるでもなく、全員が静かに寺を後にした。



数時間後、塚口と小川は木下邸の仏間にいた。

火葬場から帰った木下の両親、宗介・佐和夫妻に話を聞こうと、家を訪れていたのである。

西多摩市の静かな住宅街にある木下邸は、1000坪もある広大な敷地を擁する日本庭園の中にたたずんでおり、門から玄関まで玉砂利を踏みしめて数分かかった。

広い和室の仏間には大きな仏壇があり、亡くなった木下健司の遺骨と遺影が奉られている。

刑事達はまず仏壇に線香を上げてから、木下夫妻に話を聞こうとしていた。


仏間にある応接台を挟んで、4人が座っている。

塚口は、出来るだけ柔らかい口調で切り出した。

「こんな時すみませんが、健司さんは責任感が強い人やったと、皆さんからうかがってます。その健司さんが、責任を取らんとあかんて思わはるような事に心当たりありませんか?」

宗介が気分を害したのか、塚口を一度睨みつけてから言った。

「じゃあ何かね、健司が何か悪い事をしたとでも言うのかね?」

「悪い事とかいうんやなしに、些細な事やのに、健司さんが責任をとらなと思い込んではっただけかもしれません。どうですか?」

宗介はその質問に考え込んでいたが、

「いや、思い当たらんなぁ。君達は健司の事件を怨恨の線で捜査してるそうだが、そもそも健司は怨恨で殺されたのかね?私はそうじゃないと思ってるんだが」

そう返事した。

「あの子は、小さい時から手のかからない子でした。そりゃあ、反抗期はありましたけど、親孝行で優しい子でした。恨まれるなんて、考えられません」

佐和が涙ながらに訴える。

「木下さんは、健司さんの事件をどう考えてはるんですか?」

取り付く島もない宗介に、塚田は質問を投げてみた。

「私はね、もう20年も前からボランティアで、青少年防犯パトロールをやって来たんだよ。だから、青少年犯罪については詳しいつもりだ。今回の手口だと、通り魔の可能性が高い。手を縛って足を刺し、死ぬまでそれを眺めてる。これは愉快犯だよ」

「ほぉ、お詳しいですなぁ。けど、通り魔やとすると何で健司さんが狙われたんでしょう?」

「犯罪っていうのはねぇ、衝動的にって事があるんだ。私はそういう事件を今まで何度も見てきたよ」

宗介は、自信たっぷりに持論を展開した。

塚口は、何故宗介がそこまで事件を分析しているのか不思議で、続いて質問をしてみた。

「今までの捜査で、健司さんは犯人からラブホテルへ呼び出されたと考えられとります。何で、健司さんはラブホテルへの呼び出しに応じたと思われますか?」

「それは、顔見知りだったということか・・・」

「そうなんですわ。そやから、そういう人物を捜しています」

「・・・」

塚口にやりこめられて、宗介は言葉を失っていた。

「今日はこれで失礼します。またお話を訊かせて頂く事もあるかもしれません。その時は、よろしくお願いします」

塚口と小川は、これ以上の事情聴取は無理だと判断し、次へ向かおうとした。


「刑事さん、お話があります」

玄関口で塚口達に話しかけたのは、健司の兄・隆一だった。

広い庭の隅で、隆一は塚口に話し始めた。

「私は今、西多摩運送の社長を務めていますが、父は弟の健司にやらせたかったんです」

「どういうことですか?」

「私は若い時ちょっとぐれていましてね、かなりやんちゃをしてきました。警察の世話になった事も1回や2回ではありません。そういう私を見て、父は私に期待するのを止め、小さい頃から真面目で優秀だった健司に期待するようなりました」

自分の過去を話し始めた隆一は、ぐれていたというのが信じられないくらい、誠実な人柄に見える。

「ですが、いつの頃からか、健司は父の干渉を嫌がるようになり、就職して大阪へ行ってしまいました。それでも数年は、健司に仕事を辞めさせて運送会社をつがせようと、父は色々画策していたようでした。5年前、私が家庭を持ったのを機に、私に会社を任せてくれるようになったんです」

「それで、隆一さんは何を心配してはるんですか?」

塚口は隆一に訊いた。

「ええ。健司が殺されたのは、私のせいじゃないかと思ってまして・・・」


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