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虹の背中  作者: シュウ
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第29話

<虹の背中29>



塚口は桃花の顔をまじまじと見つめた。

「ところで、君ホンマに未成年やないやろな?えらい幼く見えるで」

「あのなぁ、お店では19歳ていう事にしてんねんけどなぁ、うちホンマは24やねん。ほらな?免許証見せたるわ」

桃花は財布の中から免許証を取り出し、名前の部分を隠して塚口に見せながら言った。

生年月日は平成3年7月30日とある。

「ほう、確かに。免許証はしもてくれ。そんでな、いつから我慢してたとか、君の顔を見て何を思い出したとか言うてなかったか?」

「そうやなぁ・・・。かなり前やし、どんな話したかあんまり覚えてへんけど・・・」

桃花は免許証をしまうと、足を組み替え腕を組んで、その時の事を思い出しているようだった。

「えっとなぁ、何年も前からなぁ、何かの責任を取るため、とか言わはったような気がすんねん」

「何年も前から?何かの責任を取る?そう言うたんか?」

「多分、そう言わはってん。ほんでなぁ、うちの顔はなぁ、その責任を取るきっかけを思い出す顔やったらしいでぇ。けどなぁ、詳しい事はなぁ、話してくれへんかってん」

「何年前からで、何の責任を取るか、っちゅうのは喋ってへんか?」

「おっちゃん刑事さん、うちはデリヘル嬢やでぇ。お客さんはなぁ、世間話はするけどなぁ、そんな事まで喋らはらへんて」

「そうか。おおきに。色々参考になったわ。また、何か思い出したら連絡してな」

小川が桃花に自分の名刺を渡した。

「お兄ちゃん刑事さん、ちょっとうちの好みのタイプやんかぁ。今度、うちと遊んでぇな。はいこれ。うちの名刺渡しとくわ」

小川は一瞬にやけた顔をしたが、塚口に見られて真顔を作った。


梅田北署の捜査本部に帰った塚口と小川は、桃花への聞き込みについて菅課長に報告した。

「天野由紀の話を裏付ける証言ですね」

報告を聞いていた清水管理官が、席を立って塚口の方へ歩いてきた。

「そうなんですわ。ガイシャは以前に責任を取らんとあかんような事をして、女性を断って来た。それが、今年9月に解禁になった。そう考えるのが、自然ですわなぁ」

塚口が清水管理官に自分の考えを言うと、清水も同調する。

「私もそう思います。やはり、被害者の過去に何があったか、詳しく調べてみる必要がありますね。それともう一つ。被害者の過去を思い出させたという風俗嬢の顔ですが、写真はありますか?」

それには小川が答えた。

「携帯で顔写真撮りましたよ。今、印刷して貰っていますんで待ってください」


そこへ、大柄な制服の婦警が現れた。

「小川君、頼まれてた写真の印刷出来たでぇ」

180cm以上の長身の上、横幅もたっぷりとある大きな体の婦警は、小川の背後でニッコリ笑っている。

婦警は桜井美鈴といい、梅田北署・捜査一課で連絡係等の内勤をしている。

塚口の相棒の女性刑事が産休に入った今となっては、捜査一課唯一の女性である。

「桜井先輩、ありがとうございます」

小川は、1年先輩の桜井婦警に圧倒されつつ、礼を言って写真を受け取った。

「小川君の頼みやったら、いつでもやったげるわ。捜査頑張ってな」

桜井婦警は、何度も小川を振り返りながら部屋を出て行った。


小川が清水管理官に桃花の写真を渡した。

清水管理官は、その写真をホワイトボードに貼り付けながら言った。

「幼い感じの女性ですねぇ。関係者で、この写真に似た女性はいませんか?」

「いや、おりませんわ。小田切妙・天野由紀とも、こういう感じじゃないです。都築美奈子も、小田切妙に写真を見せて貰いましたが、タイプが違います」

「そうですか・・・。被害者の周辺に、この女性に似た人物が必ずいると考えるべきでしょう。まだ、捜査線上に浮かんでない人物の可能性が高いようです」

「管理官は、ガイシャのSM趣味についてはどうお考えですか?」

「被害者の過去がはっきりしないと解らない問題ではありますが、少なくともSMプレイで殺されたんではないでしょう。119番通報が3回も切られてる事からみても、怨恨の線が強いですね」

山倉署長が清水管理官の意見に賛同した。

「SMに刺すっちゅうプレイが無いのは、今までの聞き込みで解ってますからなぁ。ガイシャには、殺される程恨まれるような過去があるっちゅう事ですやろ。私がこれから西多摩署へ電話して、ガイシャの過去を詳しく洗って貰いますわ」


山倉署長が西多摩署への協力依頼の電話を終えた時、春日・望月両刑事が帰ってきた。

春日刑事は、望月刑事の5年先輩で、梅田北署捜査一課の中堅刑事である。

春日刑事が菅課長に大きな声で報告した。

「課長!重大な事が解りました!」

「なんや?報告してくれ」

「事件現場のホテル従業員に聞いたんですけど、事件当夜、あのホテル満室やったらしいんですわ。それも、現場の305号室に客が入ったんは、最後やないかと思うていう話です」

「そんな大事な事、何で今頃解ったんや?」

「それが、事件当夜に夜勤やった従業員がノロウイルスに感染して入院してて、今日やっと出勤して来てまして・・・。第一発見者のホテルマネージャーは、事件翌日の朝からの勤務やったんで、事件当夜の宿泊状況は把握してなかったという事でした。すんません・・・」

「わかった・・・。他に訊き漏らしがないか、もう1回行ってこい!」

春日と望月は菅課長の一喝に驚き、また走って聞き込みに出かけて行った。


「事件発生は、クリスマスイブ前日の土曜日。犯行時刻の天候は嵐や。ラブホテルが満室やったのは当たり前かもしれん。という事は、ホシはあの部屋を選んだんやなしに、あの部屋しか空いてなかったと考えたほうが自然やなぁ・・・」

塚口は、小さくつぶやきながら考えていた。


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