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虹の背中  作者: シュウ
16/33

第19話

<虹の背中19>



鳴海の所属する公共プラント部は、超繁忙期を迎えていた。

公共事業は予算配分の関係から年末・年度末に集中する傾向は依然として続いており、その反面上半期になかなか事業が展開されてこない。

政府の公共事業削減政策が図られている現在、繁忙期に上半期の分まで稼ぎ出さなければ存亡さえ危ぶまれるだけに、真夜中までフロアの照明が消えない日々が続いていた。


鳴海は、仕事に対する一時のスランプのようなものを抜けて、忙しさを楽しんでいた。

あんなに虚しく感じていた毎日が、充実していると感じる事ができるように変わっていた。

新しい仕事『西多摩プロジェクト』の成功によるものもあった。

昨日、東京にいる北島から、『西多摩中央下水処理場』の受注を知らせる電話があったのである。

西多摩市の電気設備は、大手電機メーカー・鴻池電器が主催する談合グループ『如月会』によって利権を蝕まれてきた。

今回そこに食い込むという難しいプロジェクトに、殆ど世間話すらした事の無かった間宮事業所長が直接指名してくれた事でやる気を奮い立たせられたし、何より『オレのことを解る奴なんて誰もいない』といきがっていた自分を見ていてくれたのが一番嬉しい事だった。

来年早々から、いよいよ設計に着手予定だ。


多美子もここ暫くは、残業を続けている。

もう残業時間になって2時間くらい経っただろうか、多美子が帰り支度を整えて鳴海に帰りの挨拶をしにやって来た。

「課長、お先に失礼します。あのぅ、明日の忘年会は出はるんですよねぇ?あたし幹事なんで、はっきりしといてくれはりますか?」

彼女にしては珍しく、申し訳なさそうに言う。

「行くで。明後日の土曜日は久しぶりに休めるから、大丈夫や。そやけど、西多摩の中間慰労会があるんでオレと木下は一次会だけになるなぁ。間宮事業部長からの誘いやからどうにもならんわ。ほんまは、そういうの苦手なんやけど・・・」

西多摩プロジェクトの中間慰労会は、北島等の帰阪を待って明日行われる。

「どうせクラブかなんかで飲むだけなんでしょ?課長、酒強くないのに大変やねぇ」

多美子の発言は短いが的を射ていて、聞いている方が冷や汗をかくような場合が多い。

「まぁねぇ・・・、あはは」

多美子が気の毒そうに鳴海を見ていた。




鳴海と木下は公共設計部の忘年会を終え、西多摩の慰労会が行われる北新地のクラブ『瑠璃』に向かっていた。

土日の連休がクリスマスイブと重なる前日とあって、北新地は混み合っている。

二人が店に近づくと、既に北島と岩田は店の前に着いており、北島が大きく手を上げてこちらに笑顔を向けていた。

間宮事業部長はまだ着いていないようだ。

「北島さん、岩田さん、お疲れさまでした」

鳴海は最敬礼してみせる。

「おいおい、こんな所で止めてくれよ。あっはっはっは」

北島は、照れたようなそぶりでみんなを店内に招いた。


店内に入って直ぐ北島は店のママを呼び、仕事の話をするから呼ぶまでは誰も来させないように言いつけた。

「いやぁ、しかし上手く獲れたもんだよ、なぁ岩田」

北島は岩田の肩を掴んで揺すっていた。

「丁度3番手でしたからねぇ、ひやひやでしたよ」

岩田も喜びを隠しきれない様子だ。

「お前達に、鴻池の奴らの悔しそうな顔をみせてやりたかったよ。スマホで動画を撮ってやるんだったな。あっはっは」

北島は上機嫌で、いつもよりテンションが高かった。

ここで、間宮事業部長が到着した。

「やぁ、みんなご苦労さん。今回はよくやってくれた。社長からお褒めの言葉があった。今日は思う存分やってくれ」

いつもは温厚で静かな間宮が、興奮した顔でメンバーに話しかけた。

それを合図に北島は綺麗どころを呼び、シャンパン・ブランデー・ウォッカと、全員が心ゆくまで呑んで弾けた。


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