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虹の背中  作者: シュウ
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第1話、2話、3話

初めての執筆のなで拙い文章となりますが、最後まで書く事を目標にゆっくり書いていきます。

<虹の背中1>



    第1章




男はいつも淋しかった。

「オレのことを解る奴なんて誰もいない!」

そう、いきがって生きていた。


男の名前は鳴海亮平。

もう39歳にもなるのに未婚で、友達もいない、家族もいない。

休みの日に外出する事もなく、虚しい日々を送っていた。

ただ夢だけは持っていた。

「いつか起業して一流の経営者になってやる!」

その夢だけのための毎日忙しく働いていた。



ある夜、滅多に鳴らない家の電話が鳴った。

「はい、鳴海です。」

「お忙しい所恐れ入ります。丸商興業の都築と申しますが今お時間よろしいでしょうか?」

都築と名乗った電話の相手は、人当たりの良さそうな声の女性だった。

「あぁ、時間なら大丈夫ですよ」

と答えると、

「来週の日曜日なんですが、梅田三番街のエリートという喫茶店でお会い出来ませんか?」

と言う。

鳴海は首を傾げた。

(丸商興業という会社は知らないし同窓会の誘いでもないようだが、一体何者だ?)

女性から誘われる事など滅多にない鳴海は、警戒しながら訊いてみた。

「どういうご用件なんですか?」

「お会いした時にお話させて頂きますので・・・」

女性の電話で話す感じの良さに警戒感を少し解いた。

「あの、まさか借金の取り立てじゃないですよねぇ」

「まさか(笑) 鳴海さんにお聴きしたいことがあるだけなんですよ」

そう言われて、男はあることを思い出した。

(そういや、木下が見合いをしたって言ってたっけ。)

木下健司は、課長をしている鳴海が一番可愛がっている係長だった。

(彼の縁談について調査している探偵かもしれないな。あいつの為なら一肌脱いでやるか。もし、変な勧誘だったらお茶だけ飲んで帰ってくればいいし。時間だけはあるからな・・・)

「わかりました。ほな、お会いします」

そう言った鳴海は何か浮ついている自分に驚いていた。

(喫茶店で、女性と二人っきりで話すなんて何時以来だろう?)

「ありがとうございます。では、午後二時にお待ちしておりますので。宜しくお願いします。」

「わかりました。では・・・」


電話を切った鳴海は、久しぶりに訪れた非日常が心地よかった。

(たまにこういうのがあると、人生悪くないと思えるな)

シャワーを浴び床についても一時間程寝返りをうってばかりだったが、さすがに仕事の疲れで夢に落ちた。



<虹の背中2>



長かった夏もようやく終わりを告げ、初秋の風が色づきかけたポプラ並木を揺らしていた。

真っ直ぐに北へ向かう道路は上り坂になって古い国道に繋がり、道路の両側に等間隔に植えられたポプラは電柱と同じくらいの高さがある。

柔らかい日差しは、道路の東側に幾何学的な模様を描いている集合団地の屋上を照らし始めていた。


ここは大阪市のベッドタウン・池島市にある緑が丘団地。公団住宅である。

鳴海は、この団地のにもう14年住んでいた。

1LDKの部屋は、一人暮らしの鳴海には丁度良い広さであるし、静かで、何と言っても部屋代が格安であった。

共益費を入れても3万円程のこの部屋代のお陰で、もうすぐ起業をするために貯めて来た預金が2千万になろうとしている。


鳴海が勤めているのは、東亜電機という総合電機メーカーであった。

大阪の電機メーカーとしては有名なその会社で、鳴海は設計の仕事をしている。

他人との関わりが比較的少ないこの仕事を気に入っていたが、昨年課長という立場になって以来管理職としての仕事の煩わしさを感じ始めていた。

「リリリリ~~~~~ン!!」

静寂を切り裂く目覚ましの音が鳴海の部屋に響き渡った。

(ん?あ~、もう10時や・・・)

いよいよ日曜日を迎えていた。

休みの日はいつも眠れるだけ眠るのだが、さすがに直ぐ目が覚めた。

ゆっくりとベッドから起きると、冷蔵庫の牛乳パックを取り出しゴクゴクと飲む。

(そろそろ用意して、出かけんとな・・・)

いつもより入念にヘアースタイルを整え一張羅のスーツを着込んで、鳴海は部屋を後にした。

関急電車の池島駅から急行に乗ったのは11時頃だった。



その頃、木下はベッドで煙草を燻らせていた。

バスルームではシャワーの音がしている。

若い女の鼻歌がバスルームから僅かに聞こえていた。

シャワーの音が止まって、若い女が木下に話しかける。

「ねぇ、この部屋ほんまにええ部屋やねぇ。お兄さん、何の仕事してはるの?」

面倒臭そうに木下が答える。

「普通のサラリーマンだよ」

「へぇ~っ。ほな、IT関係の仕事なん?」

「いや、違うよ」

「でも凄いなぁ。うち、こんなええ部屋今まで入った事ないわ~」

「・・・」

未成年にしか見えない若い娘は、やっと身なりを整え始めた。

「また呼んでな。桃花やで、忘れんとってな」

丸っこい名刺を差し出しながら言うと、身を翻して玄関へ向かう。

デニムの超ミニから伸びた生足が妙にエロチックだった。

「ほなね、お邪魔しました。さよなら~」

若い女が出ていくと、木下はベッドから起き出し玄関をロックした。

ベッドに戻った木下は、また眠ろうとしていた。



<虹の背中3>



暫くまどろんだ木下はうなされて目を覚ました。まだ12時だった。

額の汗を右手でぬぐいながら、ベッドから身を起こした。


木下健司は32歳。東亜電機では鳴海の下でシステムエンジニアをしている。

182cmの長身でスリムなのに筋肉質な上半身は小麦色に輝き、甘いマスクと穏やかな表情が育ちの良さをうかがわせていた。

事実、東京のおぼっちゃま学校・京南学園を卒業で、父親は西東京の大手運送会社を経営しており、4年程前から市会議員まで勤めている。

あまりに干渉してくる両親を嫌ってか、木下は就職の際には最初から大阪勤務を希望し、父親が税金対策で購入していたこのマンションを自宅として使っていた。

そんな環境で育ち優れた容姿を持っているにもかかわらず、木下はおごった所がみじんも感じられない礼儀正しさで社員から絶大な人気を得ている。

もちろん仕事にも誠実そのもので、客先や上司からの受けも良い。

木下がこの年齢まで独身でいるのを『東亜電機の七不思議』として語る噂好きの女子社員もいた。


木下は南側の窓に向かうと、40畳以上はあるリビングの全てのブラインドを開いた。もちろんリモコン操作である。

本町の東側にある35階建てマンション『本町ガーデンシティ』の31階のこの部屋からは、天気が良い日は西はUSJから大阪湾、南は関空まで一望出来る。

木下はここから下を行く車や人間をぼ~っと見るのが好きだった。人間の存在が如何に小さいかが実感出来て、仕事のストレスを一瞬にして昇華させる事ができた。

日曜日の午後は、月曜日の定例会議の資料をまとめるのが常となっていた。係長をしているため残業代が付く訳ではないが特に苦にはなっていなかった。

軽くシャワーを浴び、紺のアルマーニに着替えてエレベータを下りる。駐車場のシルバーのアウディ3.2クーペに乗り込みサングラスをかけると、一気に堺筋を会社へ走らせた。



鳴海は待ち合わせの時間調整のためにパチンコをやっていた。普段全くやらないために玉が全く入らない。ただ漠然と天釘を眺めて玉が弾かれていくのを見送っている。

気が付くともう玉が無くなっていた。

2時10分前だった。

(そろそろ行かんとな)

指定された喫茶店『エリート』はここから5分もあれば行ける。通勤路に近いので、入った事はないが何度か前を通ったことはあった。


ネクタイを締め直すと喫茶店の扉を引く。

「チリ~ンチリ~ン」

「いらっしゃいませ~っ」

割と広い喫茶店だった。入り口はそうでもないが奥に行く程広くなっており、夜はスナックになるのだろうか4人掛け・6人掛けのテーブルが並んでいる。

左奥にはカラオケの小さなステージもある。

都築という女性を捜した。

(丸商興業の封筒を持っているということやったよなぁ・・・)

窓に近い一番奥にそれらしい女性を発見して近づく。

「あの、都築さんですか?」 丸商興業の封筒がテーブルに置いてある。

「あ、はい。鳴海さんですね。今日はお手数をおかけします」

椅子から立ち上がった女性は、小柄で色白の少しぽちゃっりした女性だった。

薄いピンクのブラウスにグレーのツーピースというシックな装いで化粧が薄く、まるで就職活動中の女学生という雰囲気である。

(電話でのしっかりした感じとはちょっと違うな)

鳴海の何の根拠もない期待は、それでもまだ膨らんでいた。


辛辣なご意見も甘んじて受け入れますので、忌憚のない感想をお願いします。

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