カイリスの趣味
幹部の話はあの後香ちゃんが歩きたくないと、いい始めたからうやむやになった。
そしてあの日以来、柳は勝者の権利を得ると、毎回アヒル荘への来訪を希望するようになった。
外に出たついでだからと、みんなを帰ってくるのを待とうと柳に提案した。
カイリスに思う存分遊ばせられるし、その上、待ち時間は柳をカイリスから遠ざけられる。
断ったら断ったで、皆の事はどうでもいいのか!っと責めたので、柳の選択はどう転んでも、奴のマイナス点にしてみせる。
柳は、縁石に腰掛けて、おれとダベリながら待つ方を選んだ。
二十分ほどで皆も帰ってきた。柳のおごりは他は香ちゃんの分だけとなり、杏子と時子はまんじゅうを買ってきたのでお茶を沸かすとの事だ。
部屋へ戻ると、カイリスはタイムアタックをしていたようで、リザルトデータにはKairysという自分の名前で上位が埋め尽くされていた。
余程の集中力でやっていたのか、う~~~~んと言いながら、伸びをした。
我が家にはない、最新ゲーム機を堪能した満足感がカイリスの声にも表情にも浮かんでいた。
ついでなのでと、家のゲーム事情を柳がおれに聞いてきた。
あまり情報を与えたくないから、どうしようと悩んでいたら、香ちゃんが教え始めた。
カイリスはゲームが好きでだが、自分では娯楽品は一切買わない。
杏子もそうだ。
だから、おれのアルバイト代から、生活費や調査費にはするなよっと念を押して少ないながらも、こづかいを渡している。
杏子はそれを、読書や甘味巡りなどに使い、カイリスはゲームに使った。
みんなとやりたいのか、カイリスはその少ないこづかいから、人数分のゲーム機を買いそろえた。
もちろん最新機種などは無理だ。
どの中古屋でも千円ほどで本体が買える、三世代ほども前の携帯用ゲーム機を買い、もっと安価なソフトも買いそろえる。
今、偽設楽家で大流行している、モンスターを狩るゲームも、最新作から五作ほど前の作品で、本体とソフトすべて四つずつある。
なぜ四人分かといえば、そのゲーム機本体の最大参加人数が四人であるからだ。
だから香ちゃんと時子も参加する場合は、ゲーム機を順繰りに回しながら、ワイワイとみんなで楽しんでいた。
夏から続いた貧乏暮らしだが、最近は若干の余裕もでき始め、九ヶ月以上経った今、ようやくカイリスの趣味と杏子の趣味が明るみに出た出来事であった。
「へぇ~~~~~」
っと興味を示した柳の目がキラリと光った。
柳のあの部屋に眠っているであろう、そのゲーム機を、今日帰ったら、即時探す気になっているのに違いない。
「それなら、俺も持ってたはずだから、今度持ってくるよ――なぁ、ラッカン。次はいつ来たらいいん――」
「――ほう! それはそれは! お前はなんでも上手いから、さぞやモンパン2も上手なんだろうなぁ!おれ、作りたい装備あるんだけど、その時は是非頼む! だけど、残念だなぁ! 今後はバイト入れまくりだから、しばらくは土日は無理めだなぁ。いやぁ残念残念!」
「なに言ってんだ? 仲間は多ければ多いほどいい! だから平日の――」
「平日は平日で実はお前には言えない、エクササイズというか、運動みたいなのがあってな!?――」
――その後はずっと、この調子で、せっかくの日曜日なのに、三美女・美少女+香ちゃんと朗らかな一日を送る予定だったのに、もう頭に来るくらい柳と揉めた。
三時間後、大家さんが香ちゃんをご飯前の宿題の時間だと引っ張って行ったのを気に、ようやく柳も帰っていった。
どうにか賭けもしてないのに来宅しようと試みた奴の目論見はことごとく破壊できたが、時子と香ちゃんと仲良くなってしまったので、ドローだった。
「貫一。ちょっと話があるからご飯は遅くていいか?」
共同浴場の掃除が終わって、水を張り、竈の前で薪も、とりあえずの分は、くべ終えたおれの所にカイリスやって来てそう言った。
居間へ戻ると全員が揃って座っている。
カイリスと杏子は詰めて座っているが、時子が場所を広く座っているのでおれの座る場所がない。
自分の部屋を開け放とうとすると、
「貫一様。手狭ですので、なんでしたら、向き合うようにして私の膝の上へ――」
――と言いかけ、杏子から物理的ツッコミである。グイッと体を体で押されて俺の座る場所ができた。
「……改まってどうした?」
「マスターには、どうしても思い出して欲しい術がある」
「探知だろ?」
「それもだけれど、並行して、気配を無くす術を使えるようになって欲しい」
「気配を無くす?」
「うん。杏子、説明を」
「はい! 兄さん、いいですか?」
「あ、待って杏子さん!!」
そう言って時子は立ち上がり、杏子を手招きして、もはや三人の自室と言ってもいい、女部屋へと引っ込み……これをという声の後、衣擦れの音が聞こえてきた。
二人は一体どうした?っとジェスチャーだけでカイリスに話しかけると、さぁ?っとジェスチャーで返答してきた。
出てきた杏子と時子は……女教師風に着替えていた。
二人とも伊達眼鏡をして、地味なスーツ、杏子はちょっとサイズが合っていない。
……二人は、指し棒まで持っている力の入れようだ。
杏子と二人、ポーズまで決めちゃって。
杏子の恥ずかしそうな感じポーズと、時子のドヤっとした顔。
意味がさっぱり解らないけれど、両方とも、大好物だった!!
「時子ちゃん、これ以上ふざけるのなら、追い出すよ?」
カイリスが冷え切った声で減点1を言い渡す。
「!! 杏子さん!? 話が違いますよ!? こういった話の時は、貫一様の性欲を刺激するようにすると、貫一様の修得意欲が断然高まって、その効果が期待でき、さらには貫一様により意識してもらえるようになる一石三鳥って杏子さんが言うから!?」
だから、さっきから様子がおかしかったのか。
「「杏子……」」
おれとカイリスの声がハモった。
「ふ、ふふふ、トキさん、かかりましたね。これはブラフです! 見てください! 二人のあきれ顔を! あなたの評価は今、失墜しました」
「杏子、とりあえず座ろうか」
杏子もカイリスの減点1を受け、杏子と時子は大人しく座った。