回想3 お姫様爆誕
午後二時。下山する時間になった。
おれは今、時子とカイリスに挟まれながら坂を下りている。
そのちょっと先を杏子、香ちゃんは、柳が談笑しながら、一緒に歩いていた。
今日は柳がいた為に、屋敷への入庭許可が下りなかったので、休憩無しになってしまうが、このままアヒル荘へと戻る。
今後もこういう事があるかもしれない。
香ちゃんは意外に健脚だし、俺を含め、全員が香ちゃんをおぶっても支障はなさそうだが、それでも彼女は小学生だ。
「なぁ、トキ。柳の奴の身元調査を寿太郎さんに頼んでおいてくれないか?」
「そうですね。そうすれば、今後は、柳さんも屋敷へも、入りやすくなりますからね。屋敷の調査部の方へとその旨を伝えておきます」
と、すぐにおれの意図した事が伝わった。
「ところで、屋敷は大丈夫? 変態弟が、嫌がらせとか、何かしでかしてない?」
「そうですね、平和そのものです。リズちゃんが杏子さんと設楽寿太郎に苦情を言いに来た時はちょっとざわつきはしましたが」
「そんな事をしてたのか、カイ子。そういう時は、おれも連れていけって」
「かえって、貫一が一緒の方が騒ぎになる。こんな事は貫一が知らないだけで、今までも、しょっちゅうあった事だ」
カイリスは悪びれるでもなく、そう言った。
「しかし、貫一、ドンマイ。勝負は三位になったな」
「貫一さんは優しいです。柳さんもさすがは貫一さんのご学友、お優しい方ですね」
「あーーー、うーーー、えっと、うん。まぁ、トキのその勘違いは、そのままでいいや。けどやっぱり香ちゃんのバイタリティには適わない」
香ちゃんは昼飯を食べながらも、おれと柳にとどめを刺すべく、サンドウィッチ片手に、ポイント最上位を女性陣三人にも承認させ、そこら中を駆け回っていた。
杏子やカイリスからその都度行儀を注意されたが、終始ソワソワと落ち着かない様子だった。
柳とも、昼食後には完全に打ち解けていた。
「それにしても、美味かったなぁ。トキの味付けもよかったし」
「ありがとうございます!! ……でもリズちゃんの方がまだまだ上手ですからもっともっと、修行します!」
時子が闘志を燃やし、カイリスがその闘志を受けて立った。
「昔から、二人とも料理は上手かったのか?」
っと何気ない質問だったのだが、二人は顔を見合わせ、ちょっと黙った。
ん? なにか、規制とは違う感じのような、何か時子がイタズラっ子ぽい目でカイリスを見て、カイリスはちょっと憮然としている。
「ん? どうした?」
「なんでもないよ、貫一。料理は……そうだなぁ、幹部に一人めちゃくちゃ料理が上手い幹部がいた。あの人のは、本当に美味しかった」
「あ~~~、そうね。……名前はお教えできませんが、確かに彼女の料理は素晴らしかったです」
「他の幹部の情報ってまだ伝えたらいけないのか?」
「名前はダメだけど……そうだな、別の子だけど、一番変わり者はこういう子だった~とか、前はこういう幹部だったとかいうのならいいよ」
「マジで!? じゃぁ聞かせてくれよ!!」
「そうですねぇ、ではリズちゃんが言った、一番の変わり者の娘の話をしましょうか」
「是非頼む!!」
マジか! 聞いてみるモンだ!! でも、アレ?
「てか、二人とも、前に二号室で使った以心伝心の通話術みたいなのを、今使ってるのか? 二人とも同じ奴の事を思い浮かべてる?」
「術は使ってない」
「ええ、私も使ってませんわ」
「じゃぁ、その人の特徴を、せーのでいってくれ、いくぞ?せーーーのっ!」
「カシラカシラ」
「シチョウヘイ」
「……………、……………?」
おれには分からなかったが、二人は互いにやっぱりといった感じにうなずき合っている。
「……当たったよ。貫一、思い浮かべたのは、同一人物だ」
「カイ子のカシラカシラは全く意味分からないし、シチョウヘイ?」
「ええ、あの、兵站担当の後方支援部隊、輸送担当の兵です」
「ああ、輜重か」
「そう、その変わり者はね、貫一。リオン様その人ではなく、純粋にリオン様の力に惚れて、敵国の輜重兵のしかも、文官だったんだけど、その国を飛び出してリオン様の軍に入って、一兵卒から、私達幹部の地位まで、のし上がったんだ」
「リズちゃんの言った、かしらかしら。は……詳しくは彼女の能力に関係してしまうので情報規制がかかりますが、あの子の、口癖ですの」
「うん、杏子と一番仲が良かった。でも変わり者だった。敵国の時は、武官じゃなく文官として誰にもその力をずっと隠していたし、幹部になってからは、『力を顕示するんじゃありませんでしたの!』とか全力で嘆いていたし」
「嘆いて?なんで?」
「それは、あの子が出世しすぎてリオン様の方面軍司令の一人になったからですよ。司令官になったので主力のリオン様の軍とは別方面での戦場を受け持つ事が多かったものですから……。あの子が言うには、リオン様の親衛隊くらいでよかったのに、との事です」
う~~~~~~~~~~~~~ん、確かに変わり者っぽい。
「じゃぁさ、料理上手って人は?」
「あの人も幹部ですわ。私より四つほど上の、とても落ち着いた方でした」
「あっ!!」
そう、カイリスが声を上げ、おれを見た。
その後に意地悪そうな表情を浮かべ、
「一番、すごいスタイルの持ち主だった。ボン!!キュ!ボボボンって」
そう言っておれの反応を窺うカイリスの頭に、おれは拳骨を落とした。
それでも、へっへ~~んっと、カイリスは悪びれる様子もない。
「カイ子くらい、料理上手だった?」
………………。
………………。
二人ともなぜか急に黙り込んだ。
「リズちゃん、私から言っていいの?」
「ダメ」
「なんだよ?どうしたんだ?」
「なんでもないの!! ほら、貫一、次の質問は?」
「え~~~? あーーー、トキ、他に情報与えられるか?」
「そうですね、他にはアベンジャーと言われる、これは情報規制のため、二つ名だけしか。今の貫一様にはお教えする事ができません」
「…………二つ名? あっ!!そうだよ、ナイスだ、トキ! 二つ名だよ!!!」
おれは湖畔での時子との会話を思い出した。
「カイ子、お前の二つ名はなんていうんだ? トキは教えてくれなくてさ」
………………。
………………。
………………。
………………。
………………。
………………。
「え?なんだ?どうしたんだ?」
「私からお教えしていいの?」
「時姉!!、それはダメだ!!!」
「何が? え?二人ともなんなんだ?」
「え~~~~~、貫一さん。リズちゃんは、二つ名を貫一さんにお教えしたくないのです」
「え? なんで!?」
「時姉は、昔からこの二つ名に関しては、私の事をからかうんだ。ううん、時姉だけじゃなくて、杏子も、他の幹部達も!! だから、貫一もきっとからかうから教えない」
「それは規制?」
「……規制じゃないけど……」
「じゃ、からかわないからよ~~、カイ子教えてくれ。あ、良い事考えた。さっきからかった罰として、カイ子の二つ名を教えることを命ずる!!」
前を行く、香ちゃんと柳に万が一にも聞かれないように、歩調を弛めた。
「う~~~~~~~~~、ドSが過ぎるぞ、貫一!」
「リズちゃん! 貫一様に向かってなんですか! 命令ですのよ!?」
「ああああ、違う。トキ、こんな他愛のない軽口をそんなに真剣に考えないでくれ!」
時子は、はい!!っと嬉しそうに返事を返し、う~~~っと、カイリスはうなったままだ。
「絶対に笑わないな?」
「笑わない」
「時姉もだぞ」
「もう知ってるし、笑わないわ、リズちゃん」
わかったとカイリスは言って、何やら葛藤し続けている。
そして遂に決心が付いたのか、再度「笑ったらダメだぞ」と念を押し、息を大きく吸い込んだ。
「姫騎士、あとは時々は、姫将軍、姫総司令とかも、言われてた」




