初めてのちゃんとした特異な力
そう言われ、調子をコイていた時も、ありました。
その後の杏子の指摘により、自分のボードの右下が怪しいと言うことまでは分かったが、それ以上は遅々として進まなかった。
なんの変化もないままに一週間が過ぎ、春休みとなった。
夏、冬休みと同じように、一緒にいる時間が増え天国度合いは急に高まったが、やはりそれでも、芸能活動、アルバイト、屋敷の仕事とそれぞれ忙しく。
おれはそれ以外の時間はまぁ暇で、暇で。
しかも暇であるのにガイドの発掘はいっこうに進まない。
その間に柳との賭けに勝ったり負けたりしたおれは、柳が嫌がる決まった時間に海岸を犬の散歩にやってくるという美人三姉妹の内、上品な長女と三女と面識ができたり、柳が屋敷での時子の姿を見たいといいだし、屋敷の調査も済んでいたため入館を許可されて、二人してドキドキしながら時子の働く姿を見ようとストーキングし、柳から奪った材料で家での菓子製作の機会が増えたり、おれの我慢の目盛りが増減したりと、色々あった。
今日も気分を変えて、浜に出て、偶然、立派な秋田犬と三姉妹の長女さんと会った後、そのまま長椅子に腰掛けて探索を続ける。
ガイドのある場所は分かっているのに、どうにもうまくいかない。
その該当箇所の宝石が回り出さない。
何千回、何万回と繰り返してきた事だが、今日もうまく行かない。
ふと、リオンが居たときのボードの様子を思い出した。
なんか、今とは違う。
たしか……そう、宝石が動いていた気がする。回り出してはいたが、ボードの、なんと言えばいいか台座自体が確か動いているように見えた!
そうだ!!!各宝石の場所が浮き上がるような感じで、上下するような感覚と各場所が全体と違う速さで回っていた!
そうだ、宝石はただ、回っていたわけではなかった!
右上は右上で宝石自体とその周辺の宝石が台座事小さく円を描いていた気がする。
それを意識するようにして、二次元的に魔力を流すのではなく、その宝石の裏側からこちら側へ浮かせるように押し出すよう……
宝石が輝きだし、光りを放ち始めた!!!
いよっしゃ!!!! 思わず大声を上げて、拳を振り上げながら立ち上がる。
そして、自分のしていた行為に気づいて慌てて周りを見渡すと、余程自己に埋没していたようで、浜の奥まで行って駅へと戻る長女さんがハンサムな秋田犬と共に散歩から帰ってきたので、ウキウキした気分そのままに「どうも!」っと声をかけるが……、
……無視された。
長女さんは、おれを一瞥する事もなく、三十分前には一緒に座りながら、色々と喋っていたの長椅子の前を通りすぎる。表情も別に怒っているように見えないのが、思っているよりも深刻な粗相をしたのでは? という考えに繋がった。
え!?、さっき話した時に、なんか粗相したっけ!!?? カイリス、杏子、時子にしているようなセクハラ発言が自然に口をついたか!? マジか、おれ!?
っとどこがまずかったのかを探ろうか、それとも長女さんに謝ろうかと……すると、事もあろうに、柳が手を振ってやってきた!
まずい!! 偶然とはいえ、柳の紹介で知り合った長女さんに一人で会ったのがバレた!! どうにもならない事だったがとりあえず顔を伏せる。
「あずささん! 今日は一人ですか?」
「えぇ、妹二人は旅行中ですから」
「あ~~、お金持ちっていいなぁ」
「そんなことありませんよ。私は留守番ですから」
っと、これ見よがしに、おれの座る長椅子の隣へと二人は腰掛けた。
あずささん、って言うのか。紹介したときは、名乗らさなかったので、互いに名字も名前も知らない。
その後も、犬の事や色々と話を続けている。
「もういいだろう!! 悪かったよ、柳。あと……すんませんでした!! 何か失言があったようで、何に怒っているのか教えてください!!」
頭を九十度に下げながら、言葉を待つ。
「あ、ところで、前に紹介というか、俺と一緒にいた奴はあれから来ました?」
「ええ、さっきもここで会いましたけど?」
「そうですか! でも気をつけてくださいね、あいつはこの一帯でも有名なナンパ男でして、あずささんたちに会わせたのも、無理矢理なんです」
「まぁ、そうだったんですか?」
「そうなんです! あいつ美人に目がなくて……」
「フフフッ、柳さんったら、口が上手いんだから」
いやいや……と会話を続けていく。
おれは頭を上げた。
無視?……いや、違う。
そう思っておれはゆっくりと二人の座る場所の前に出た。一mもないのに、二人はおれを無視し続けている。 時々、おれの方を見るが、明らかに海の方を見ている感じだ。
慌ててボードを意識する。
ガイド辺りの宝石が光り輝き動いている。
運動能力アップの『パワー』とは違い、勝手に回り続けている感じがある。
ボードへの無意識での魔力の垂れ流しは、いまだに上手くいっていない。
でもガイドに対してはうまくいった。
結論としては、パワーと違い、ガイドは規定量の魔力を流せば勝手に発動するタイプなのだろうか?
ドミニオンを絞るコツで、ガイドを止めようと試みるが宝石は止まらない。
「引き留めて済みませんでした」
「いいえ、コロも人と触れあえると喜びますから」
犬の背を撫でながら、あずささんは立ち上がり、挨拶を交わして駅舎の方へと歩いていった。
柳はそれを見届け、おれの目の前を通り過ぎようとしたので、反射的に足を出す。柳はその足につまずき、おれの足を見て、
首をひねって、また歩き出した。
なんて、術だ、魔術っていうのはこういう事か!?
自分の可視化はできないが、確かにそこにあるボードを注視しながら、柳を追う。
試したいことができた。
しばらく、歩いていると、ガイドの宝石の輝きが急に鈍り始めた。
慌てて、柳の前へと出る。
都合の良いことに、柳は立ち止まっている。
ボードの光りが完全に消えた。
「よう、ラッカン」
何事もなかったかのように、柳が手を上げてそう言った。
「よう、柳。ところで、お前びっくりとかしなかったのか?」
「はぁ? なんでお前に、びっくりしなきゃなんないんだよ」
「ちょっと変な質問するぞ? 正直に答えてくれ。正直に答えてくれたら、今度の勝負はお前が決めていい」
「……意味が、よく分からないけど…………まぁいいか、なんだよ?」
「今、おれはどうやってお前に声をかけたっけ?」
はぁ?狙いはなんだ?と警戒する柳をなだめすかせると、
「後ろから歩いてきて、声かけてきたんじゃねぇか」
っと柳は言った。
次々質問を重ねる。
今日誰かにあったか? 会ってない。
海岸に行ったか? 行ってない。
長女さんに会ってたよな? ラッカン見てたのか、なのになんで寄ってこなかった?
ずっとそんな調子だった。
「ところで、今日は杏子さんは、バイト中か?」
良い事を思いついた。
「杏子の事でちょっと見せたい動画があったんだった、ちょっとこの辺で待っててくれ!」
っと言い残し杏子のバイト先へと駆ける。
後ろから本屋にいるとの返答があった。
杏子のバイト先である信兵衛商会の客足は、さいわい途絶えていたようだったので、店番をする杏子を捕まえ店の奥で事情を説明する。
杏子は驚いて協力をしてくれるという。
ガイドを発動させると、杏子がすごいです!かなりの強度ですっと喜んだ。
こちらがガイド探知を発動してなかったらもしかしたら私でも兄さんに気づかないかもと、おれの手を持ちブンブンと振り回しながら興奮しながらそう言った。
杏子と店に戻る。
店にはいつも通り老婆のたまり場となり、今は二人の近所の老婆が話をいていた。
杏子がカウンターの前の棚にスマホを置いて、動画録画を開始する。
おれはカウンターへ座っている。
録画を開始した杏子がカウンター前へとやってきた。
顔を真っ赤にしている。
「柳さん、見てますか、これからクイズがあります。私も含め、この動画の店内には何人の人間が映っているのでしょうかっというクイズです。正解ですと、この動画を見せに戻った兄さんから、敗北宣言があるとの事です」
では、っと言って、スマホを手に取り、老婆二人を店内を舐めるようにとって老婆を移して、カウンターを撮す。
再度、カウンター前にスマホを固定し、カウンター横に杏子が来る。
「わかりましたか?、では三分後に正解を発表します」
長すぎるシンキングタイムだろうと思った。そんなに長いと自分の首を絞めるぞっと。
ソワソワと赤い顔をしながら、杏子は待つ。
その間に、『杏子ちゃん、なにやってるの』とか婆さん方に色々言われている。
「さ、三分です。正解は…………四人です! 正解しましたか? では、さようなら!」
と言ったと同時に、スマホを手に取り、録画を停止する。
そして店の裏へとおれと来る。
「に、兄さん今のでどうですか?」
「ああ!! 充分だ、助かった!! スマホは帰ったら返す、じゃぁな! バイト頑張れよ」
っと言って、柳のいる本屋へと駆け出す。
「今日は帰ったらお祝いですね! 何かごちそうを作る材料を買って帰ります」
っと背後から杏子が叫んだ。
再びガイドが切れるのを見計らい、本屋へと行ってから、動画を柳に見せる。
柳は凄い喜んだ。
おれも喜んだ。
カメラ目線の杏子のかわいい事、かわいい事。
動画保存を杏子にいいつけよう。決して消さないようにと。
そして、回答待ちの箇所で一時停止をする。
……っと、柳は何度も見直しを要求し、もっともだとおれは同意。最初から再生し、二人でかわいい、かわいいと連呼して本来の目的を何度も忘れた。
あり得ないほど再生した後、ようやく次の巻き戻しをグッと我慢してから一時停止をして、答えを待つ。
柳の答えは三人だった。
杏子からの回答を聞いて、柳は驚き、その後何度も見たが、柳はやはり三人だと言った。
おれが含まれていない。ずっとカウンターに座っているはずなのに。
そうなのだ、おれにも、カウンターに誰もいないように見えるのだ。
答えを知っているのに。
記憶が、いいように改竄というか、記憶が勝手に補完している?
ガイドというのはこういう術だった。