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黒竜の頭上で、大気の温度は2000度に跳ねあがった。黄金の両角に灼熱地獄への道標があらわれる。気体が燃焼しているのではない。妖気の一部が登頂の極所で圧縮され、金色に発光しているのである。中心部はほとんど色が飛び、妖気の供給がさらにすすむと巨大な天体の爆弾が造形された。
――バカが、人界をふっとばす気か!
暴走する圧倒的な自殺願望を、白竜は愕然と見あげた。相殺する攻撃をもってのぞむのも可能だが、戦場は蜘蛛の糸のようにはかない世界である。迎撃するもしないも、このさい超新星爆発には変わりない。
故郷の戸籍をいっさい抹消し、義務も責務もすべてに背をむけて、世界の秩序から身ひとつで逃亡した男が、最終的には損な性格にさいなまれ、みずからみじめな道を選択しようとしているのかもしれなかった。
いきなり、白竜は黒竜にからみついた。己を喪失した紅眼の死神は大気をゆるがす咆哮をあげ、肉体戦を回避しようと激しく重量感ある身体を転じている。白竜は断固としてゆずらず、その場にしがみついている。黒い火花が白銀の絹肌を焼きこがして、悲痛な音が散った。
その時、天空に巨大な碧いオーロラが出現した。
光の幕は一対の神々を覆い、壮麗なるラピスラズリのシャワーが全天にふりまかれた。
鮮血に染まった下界の石像は、心拍をひどく乱して神聖なエンドロールにはりつけられている。
そうして互いにもつれあいつつ、狂乱の怒号を鳴り響かせ、二頭の天竜は膨張しきった殺戮兵器とともに、この世界から途方もなく遠い場所へと消えていた。