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    (6)

    ◆ 6 ◆



 二体の恒星は衝突をくり返していた。爆発的な衝撃波が四方へ不規則にはしりくだる。怨念と狂喜がたがいに交錯し、大気を満たすのは壮絶な殺気である。

 ついに視界全体を染めあげた、両者をとりまく妖気の“美しさ”に白夜は思わず放心した。乱舞するのは命を食いちらす死の光彩であるのに、空恐ろしいほどの妖艶(ようえん)な色調で見る者を魅了する。自然界にはけっして存在しない、神秘と精神のスターダストである。


 ――このほの暗い光輝は三界に行きとどくだろうな


 銀髪の長老は胸のうちで頭をかくと、頬がちりと“溶けた”のを合図に乗り物をはるか後方へ蹴りとばし――避難させ、単身、殺到する業火(ごうか)の花吹雪のなかへ身を投じた。


 戦術の比率は両者、攻が200、防は無し、といったところだろう。だいたい戦術と呼ぶには頭が悪すぎる。銀髪の知将に言わせれば「エネルギーをただぶつけ合っているだけ」となる。しかし、両者のそれは量で圧倒的、質はまさに失神級といえる・・・


 情動の温度が沸点に達して脳を動物返りさせたのか、それとも、わざとそうしているのか――いずれにせよ部外漢には知るよしもない。


 突如として出現した予期せぬ訪問者に、理性の廃人達は一瞬攻撃の手をゆるめ、その妖しい紫の光明をちらりと見た。

 しかし、緊迫した空気がやわらいだのは数秒にも満たなかった。互いを切り裂くような視線は再びまじわり、乱射撃の集中豪雨はたてつづけに疾走していく。

 双方のゆがんだ精神内部を垣間見(かいまみ)て、白夜の背筋を伝うものがあった。


「もはや魂を見失ったか」


 答えぬ愛弟子の死滅した横顔は、なお美しい。



 老年の心臓に、(なまり)を沈めた重々しさがある。


 代償は大きそうだが、他に手段がない――


 白夜は目蓋の裏に結論を迷わせた。だが、時は秒殺されていく。のんきに老後の安泰などとふざけて、しょせん身のほど知らずの()れ言だったのだ。この特異な一族と関わった時点で、否、そもそも天界の守護神として生を受けた時点で、隠居生活の極楽など、とうに葬式をあげたも同然だった。


 一度でよいから、神からも死神からも放たれ、宇宙の緩やかな運行だけに呼吸をゆだねて、そうして生きてみたかったものだ――


「俺は潔癖(けっぺき)でな。愛する者の“堕落”していくさまを見るくらいなら――」


 “帰らぬ”弟子の横顔にむけて師は沈々と語りかける。


「――天刑に平伏すほうがましだ」


 次の半瞬、白銀の竜が天空を踊っていた。



 長大であった。

 きらびやかな紫がかった白銀の鱗に、真珠の玉露がたわむれて輝く。すぐに天候が変貌し、突如として快晴の星空がひらけた。のしかかる暗黒の雲海と噴煙の幕は一掃され、無秩序に錯綜(さくそう)していた気流は完全なる天竜の支配下に入ったのである。


 下界の小空間で、理性への生還者がひとり棒立ちしていた。


「白・・・竜だと」


 生涯二度目の神との遭遇は、黒髪の陰陽師に強烈な印象で迫ったようである。蒼白な顔色と血走る三白眼(さんぱくがん)が、彼の心境をしめしていた。


 荘厳な怒号が地底までおののかせ、竜神は踊るように天空を一蹴りした。風の高波がまっさかさまに下界を目指す。軌道上の二人は左右に散って全神経を回避の一点に集中する。その判断は正しい。大気の刃は地上に衝突し、円形に衝撃波が広がった。地表を燃やしていた二色の妖気は跡形もなくさらわれていた。


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