第6話 知ってる人に会ったよ
「先生、なんでこんな所にいるんですか?」
谷口博巳先生、私のクラスの担任で、学年主任もやってる厳しくて熱血な教師。
生徒に慕われ、特に女子から人気がある。
彼氏にしたいとか付き合いたいとかではなく、理想のお父さん先生として。
でも、今は無期限謹慎中。
謹慎を食らったのは、女子更衣室を盗撮していた別な教師を、見つけぶん殴ったからである。
不幸だったのは、彼が現代国語の教師にありながら、体育教師と見紛うような体格と、それに見合う腕力を持っていたことだ。
殴られた先生は、意識不明で3日生死を彷徨い、やりすぎとして谷口先生は処分されたのだ。
そんな自宅で大人しくしてるはずの先生が、よりにもよって異世界に。
「んんー、お前も召喚された口か、佐渡」
「はいー、昨日こっちに来ました」
「そうか、俺は2ヶ月前にコッチに着てな、今はここで先生してるわけだ」
「2ヶ月前って、謹慎食らった直後じゃないですか」
びっくりした、そんなに前から先生は居なくなっていたのかと、
「力が有り余っててな、庭で木刀を素振りしてたら召喚されちまったんだ」
「ああー、イライラしてましたもんね」
「まぁな」
「でも、女子一同みんな感謝してたんですよ。私も写ってたらしく、警察で話聞かれました」
「そうか、もっと早く気付ければな」
先生はこんな人だ、人に厳しく自分にはもっと厳しく、でもその動機は優しさなんだ。
だから、見た目がゴリラで中年で厳ついけど、生徒みんなに慕われている。
ん?ここで先生をしている?と言ってたな、
「先生、もしかして、ここで異世界語教えてるんですか?」
「おおっ、そうだ日本語と異世界語両方出来る人材は少なくてな、佐渡もまた俺の生徒だ、しっかり勉強しろよ」
「あぅ、ふぁはい」
先生の授業は厳しい、ちょっとした体罰は許容する先生なのだ。
全力で頑張ったらギリギリ出来る程度の宿題が、明日から出るだろう。
出来なければ、45分の授業が終わるまで跡が消えないデコピンを食らう。
鬱だ。
谷口先生は、後ろで見ていたタキ君に、
「タキ先生もお久しぶりです、まだお師匠様はお戻りになられていないですか?」
「はい、まだ旅に出て1ヶ月、永い時は年単位で出かけますから、うちの師匠は」
とか、話をしてる、
「タキ君、先生なの?」
と聞くと、
「タキ先生と俺がお互いに言葉を教え合って、言葉が通じるようになったんだ。
だからお互い、先生と呼んでいるわけだな」
と聞いてない先生からお答えを頂いた、さらに
「大体、佐渡! タキ先生は17歳だ、歳上には敬語を使わんか」
「マジで!」
思わず言葉が出てしまった。
「本当です」
と、タキさんが言う。
てっきり同じ位と思ってたよ、やばいな可愛いとか思ってた、いや私言っちゃってたカナ?多分言ってないはず。
「えへへへへへへっ」
照れ笑いでごまかす私。
「大丈夫ですよ」
察するタキさん。
「ここは旧騎士団詰め所で、部屋は開いてるから、何処か適当な所に部屋を作っていいぞ」
と言われて、今日から私はここで寝泊まりし、勉学に励むことになった。
異世界に来て、また学生に戻るなんて夢が無いけど、今冒険とか出たら確実に死ねると思う。
だから、これで良かったんだと自分に言い聞かせるのだ。