第45話 休校
ひとまず学校は休校となった。
帰る手立てはナブォさんに任せるとして、タキさんを先生に私と兄だけが定期的にこの世界の言葉を習っていた。
日本からあらたに召喚されないとなると、日本語をこの世界の人が習得する意義が薄れたからだ。
しかし、兄が来てからという物、タキさんとイチャコラ出来なくてストレスが溜まってきた。
目の前に居るのにくそぅ、兄はわざと空気を読まないで邪魔をしに着ているに違いないんだ。
その証拠に、タキさんと私が隣り合うことは無い、必ず間に奴がいるのだ。
その姿はまさにバスケットボールのマークマンの如きだ。
いい加減うんざりして、朝の教室で二人きりの時文句を言ってやった。
「お兄ちゃん、あまりくっついて来ないでくれる? ウザいんですけど」
ショックを受けつつも兄は、
「ジョ、ジョーカーが100%転生しないと決まったわけでもないし、護衛は必要だろう?」
「あー、ジョーカーから守っていたのか。誰から誰を守っていたのか勘違いしていたわぁ」
「ジョーカーにかぎらず、琴音を全ての危険から守っていたんだ」
何故か張り切って、意気揚々と告げる兄を見て、ムショウに腹が立ったので、
「そういうのストーカーって言うんだっけ」
と言ってしまった。
「コトネさん!それは言い過ぎですよ」
いつの間にか教室に入ってきていた、タキさんにたしなめられる。
よりにもよって、タキさんにだ。
奴の角度からはタキさんは見えていたはずだ、ハメられたと気付き下唇を噛むが後の祭りだ。
「ごめんなさい、お兄ちゃん」
と、言いつつ両手は握りコブシなのだった。
それはそうと、親の心子羊亭のバイトは再開することにした。
たとえ日本に帰るとしても、ミミュさんの出産が終わってお店の留守を守った後でだ。
電気もガスも水道すら無い不便な世界だけど、3ヶ月近くも居ると愛着だって湧いてくる。
そのうち谷口先生も復帰して、本格的に学校も始まるだろう。
午前に勉強会をすると、中庭に作った日時計で時計を合せ先生の時計合せ兼見舞いに行く。
そのあとはバイトに行って、帰ったらもう夜だ。
あれ以来夜は苦手だ、ジョーカーや笹の事を考えてしまう。
ジョーカーも、いや彼女も被害者だったんだ。
笹に殺された事や、それまでの悲しみや苦しみを精算するために笹を召喚したんだ。
そして、その笹の不登校の原因はイジメだったそうだ。
イジメから不登校、そして復帰からクラスの馴染めず遠藤恵の世話になり、ストーカーに及ぶ。
最初は些細なきっかけだったのだろう、それが時間が経つごとに振幅が大きくなり取り返しの付かない事になってしまった。
笹をイジメた奴らは、何の被害も受けず反省もせずのうのうと日本で暮らしているのだろう。
きっとジョーカーは不幸にも悪魔に転生した時、笹だけでなく助けられなかった先生や、それどころか只の人さえも憎んで居たんだと思う。
亡くなった二人のお墓は、街を挟んで東西に分けて埋葬された。
明日、遠藤さんのお墓に参ってみよう。