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第42話  扉の前で

 タキさんは師匠に念話で援軍を呼ぶ。

 しかし、この教会は小高い崖上に立っていて、正面入口と地下を抜けて崖下の裏口の2箇所の出入り口がある。

 片方から侵入しても反対側に逃げられるので、師匠達1班が裏口を固めてから私達2班が正面に突入することになった。

 1班が到着するまで逃げられないかドキドキする。

 その時だ、

 「水晶玉が叩き割られた! すみません気づかれたかも知れません」

 タキさんが言うと、一目散にウイリアムくんとルルさんが教会の正門に駈け出した。

 正面ドアを開けて出てきたのは、谷口先生だった。

 しかし、目には光がなく口は中途半端に開き、手には粗雑に剣を携えている。

 ルルはロングスカートの中に両手を入れる。

 そして手を出した時には、両手には2振りのダガーが握られていた。

 右手には大振りの直刀を、左手にはギザギザの複雑な形のソードブレイカーを、それぞれ逆手に持ち顔の前で構える。

 かたや先生は剣を上段に構え、すり足でジリッジリッと間合いを詰めていた。

 遅れて駈け出した私達だったが、ウィリアムくんはこれ以上前に出ないように制した、

 「ルルの邪魔にならないよう離れててね。タキは魔法の警戒を」

 なんだか何時ものぽやんとした雰囲気からは想像の付かない凛々しさだった。


 「うおおぅ」

 先に仕掛けたのは先生だった、上段から迷いなく頭を狙った重い一撃がルルを襲った。

 2本のダガーをクロスさせ頭の上で受け止める。

 ルルはただ受けるだけではなく、膝のクッションを生かし柔らかく受け止めると、身体の右に剣を受け流し間合いを詰めて籠手を狙いに行く。

 先生は狙われた手を剣から離し、柄で剣撃を受け止めると、片手で横薙ぎに払う。

 ルルはバックステップでそれを躱すと、またゆっくりと顔の前で構え直した。

 再び睨み合う二人だったが、次に先手を取ったのは意外な者だった。

 教会の開いた戸の奥から、エネルギーの矢が何本も飛んでくる。

 それはルルを狙って飛んできた。

 先生の脇をすり抜けルルに到達するかと思われた瞬間、魔法で出来た鏡が現れ全ての矢を弾いた。

 タキの防御魔法だった。

 弾かれた矢は周囲に飛び散り跳弾する、近くの木にめり込み地面に当たり土埃を上げる。

 そしてそのうちの1本は先生の方に飛んでいった。

 先生は下がりながら剣で払う。その一瞬の隙をルルは見逃さなかった。

 一気に間合いを詰めると、先生に向かってまっすぐ突っ込んで行く、先生は横薙ぎの剣撃で対応するがそれこそがルルの狙いだった。

 ソードブレイカーは先生の剣をしっかり捉えていた。

 本来ソードブレイカーはレイピアなどの細身の剣を折るためのものだ、しかし今先生が持っいてる剣はそう安々と折れる太さには見えなかった。

 しかし、ルルのソードブレイカーは2本で1つの特別製だった。

 複雑な形のソードブレイカーに直刀のダガーを組み合わせ、ハサミの様な形にしてテコの原理で相手の剣を折るのだ。

 ギンッ

 根本から折れる先生の剣、それを見たデーモンは階段を下り裏口へと向かって行く。

 扉の前には先生が素手で立ちふさがり、追うことは出来なかった。

 タキは先生を無傷で保護するため、眠りの魔法を唱える。

 霧のようなモヤが先生を包み込むと、グラリと前かがみに倒れる。

 いや、完全には倒れなかった、前かがみの状態から跳ねるように一気に前進しルルに襲いかかった。

 ルルはダガーで払おうとするが、無傷で捕えたい欲が出た。

 刃ではなく柄で殴り飛ばそうとしたが、その柄を先生は手で受け止めると、そのまま関節を極めてルルを投げ飛ばした。

 ルルの上に跨ると、先生はルルから奪ったダガーで斬りつける。

 それを救ったのはウィリアムくんだった。

 細身のレイピアで先生の右肩を貫く。しかし先生は止まらず左手でウィリアムくんを掴むと、右手のダガーで切りつけようとしていた。

 「先生やめてぇー」

 私は泣きながら叫んだ。

 先生の動きが一瞬止まり、その間に完成したタキさんの魔法が先生に突き刺さる。

 先生は、雷に撃たれたようにビクリと身じろぎすると、仰向けにバタリと倒れた。

 

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