第40話 先生の足跡
谷口先生の失踪に気がついたのは翌日の朝だった。
普段から捜索などで深夜まで帰らないことがあったので、その日に帰っていなくても異常だとは誰も思わなかったからだ。
谷口先生はどんな時にでも先生であろうとしてきた。
日本にいる時は、国語教師であり学年主任と剣道部顧問をもしていた。
異世界に来てからは、一から学校を作ってまで先生になりたいと願っていた。
そんな先生が、授業を無断欠勤するのは珍しい事だった。
そこで、騎士団に問い合わせた所、昨日の捜索にも参加していなかった事が解り、失踪が発覚したのだった。
その時私は学校で報告を待っていたのだが、教室に大人たちがドヤドヤと入ってきて、なにか在ったのかと思ったのだ。
タキさんとアルベルトさんと中年の騎士が1名、それに中年の男性が1名、合計4名が入ってきた。
おもむろに教壇に一人の騎士向かうと、話しを始めた。
「騎士団長のファニールと申します。今回の事に付き説明を申し上げに参りました」
多分、ここの生徒の中にウィリアム王子が居るからの配慮なんだろうな、と察することができるくらいの丁寧な口上から説明は始まった。
「谷口殿は、昨晩は珍しく笹殿の捜索に現れませんでした。しかし、任意での協力であったためそれ以上の詮索は致しませんでした。
聞けば、そちらのご兄妹は昨晩に谷口殿の姿を見ているとの事ですので、お話を伺いに参りました。」
私は昨晩仕事の帰宅中に兄と二人で谷口先生を見たこと、距離があったので特には気が付く点は無かった事を説明した。
すると変わって、一緒に入ってきた中年の男性が代わりに話し始める。
「私は魔術師ナブォ、タキの師匠になります。長い説明になりますが、まぁよろしく。
さて、今回の笹殿失踪から谷口殿失踪の件もジョーカーの仕業で間違いないでしょう。
私はジョーカーと言う存在をここ3ヶ月程調べていたのですが、これと同じ悪魔は実はこれ以前には存在しないのです。
この調査には、かなりの時間を裂いたので間違いないでしょう。
調べて理解ったのは、この国で笹殿が発見された時初めてジョーカーはこの世に出て来たという事です。
外観から初代ジョーカーはインプですし、2代目ジョーカーはレッサーデーモンです。この事から悪魔の精神に寄生するか乗っ取るタイプの精神体である可能性があります。
ジョーカーの能力は異世界よりの召喚、洗脳やマインドコントロールは取り憑かれた悪魔の能力でしょう。その証拠に前回より洗脳の強度が上がっている。
そして、このことに気がついたのはタキなのだが、この世界にジョーカーと言う単語は存在しなかったが、そちらの世界にはかなり近い存在としてジョーカーと言う単語が存在していたそうですな。
何者にもなれて、単一の特別な存在ジョーカーとして。
つまりは、ジョーカーもそちらの世界からやって来たと言う事ですな」
私は思わず反論する。
「えっ、でも私の世界には人間だけで悪魔とかモンスターすら居ない世界なんですよ」
「それは、居ないと思っていただけで実は居たか、ジョーカーも人間だったかのどちらかでしょうな」
騎士団長ファニールは、
「これまで、我が世界の悪魔の被害に合われた異世界人であったあなた方ですが、これからはそちらの世界の悪魔の被害に合われた異世界人が、たまたまこちらの世界に居たと言う扱いになるのです。
これまでのような支援は受けられない可能性もあります。」
「そんな…せめて捜索は継続して貰えるんですよね?」
「捜索の規模は縮小しますが、続けられます」
そんな騎士団長の言葉を遮るようにナブォが話す。
「私も捜索に加わります、これからは量より質になるわけです。ご安心なさい、必ず見つけますよ」
ファニールはナブォを強烈に睨みつけるが、ナブォはそっぽ向いて相手にすらしていなかった。
ファニールは声を荒げて、
「この学校についても、管理者不在につき…」
「僕が管理する!」
と手を上げてウィリアムくんが言う。
王子に口答え出来るわけもなく、ファニールは押し黙ってしまう。
「ファニールよ、いい加減谷口に嫉妬はやめておけ。お主が見せねばならんのは剣の腕ではなかろう、団長としての度量を見せぬか」
ワナワナしていたファニールだったが、教室の扉を乱暴に開け閉めして出て行った。
私は見たままの感想を述べた。
「なんか凄い人だったねぇ」
「まったく、血筋だけで騎士団長の地位に居るのに口だけは達者なんだよなぁ。少しは自重してもらいたいもんだよ」
とナブォがぼやく。
ああ、そういう人なんだね。
「それでも、ハッキリ言えるのは師匠くらいのもんですよ。でもまぁ、ちょっとスッキリしました」
「タキさん、どんな人なの?」
「自分より強いのを根に持って、アルベルトにイチャモンつけて謹慎言い渡した人」
アルベルトはムッスリとして
「あの性格知ってからはちゃんと負けているのに、いつまでも覚えられてて」
「さて、話は逸れたが君たちの先生と同級生を迎えに行こう」
ナブォさんは頼もしい口調でそう告げたのだ。




