第32話 親の心子羊亭
今日はタキさんが、子羊亭の仕事に送って来てくれた。
その後、お茶を一杯頂いて、タキさんは帰っていったのだが、店長のスミスさんがこんなことを言い出したのだ。
「なんか、ヒョロヒョロっとしてて頼りねぇな、あんなのにうちのコトネ任せて大丈夫か?」
調理師見習いのフィルさんも、
「そおっすねぇ、私ならアルベルトってあのデッカイ兄ちゃんの方がいいなぁ」
「オメェ、そんな上から目線で選んでると行き遅れるぞ。そもそもオメェに選ぶほどの余裕ねぇだろうがっ」
「おやっさん! ヒドイ」
と鳴きマネするフィルさん、まだまだ忙しい時間までは余裕がある子羊亭なのであった。
「タキさんは、頼りなくないです。だいたい、うちのコトネって、いつの間に私が子羊亭ファミリーに入ってるんですか?」
「えー、仲良くしようよコトネちゃん。お姉ちゃん寂しいよ~」
「そーだぞー、ナミロの実のパイの作り方だって教えてやったじゃないかぁ」
握りこぶしを2つ作って顎の前でくっつける二人、フィルさんはいいけど親父さんのはちょっとキモイ。
大体二人にタキさんの事を知られてしまったのは、ナミロの実のパイの作り方を教えてもらう流れで一部情報を公開した自分のせいでもあったのだ。
親父さんはぶりっ子ポーズを辞めると続けて、
「それに、もう子羊亭にコトネは切っても切れない縁になったからなっ。最近お客さんの中にコトネのファンが出来てきてるの知ってたか?」
「そーそー、私が手空いてて会計でお釣り渡したら、コトネの方チラチラ見ながらがっかりされた時がありましたよ」
「フィル、お前も少しは愛想振りまけ。本当に行き遅れるぞ」
「(`;ω;´)ブワッ」
「大丈夫! 姉さん可愛いよ、姉さんまだ若いー、かも」
フィルさんへのフォローは、やればやるだけドツボにハマっていくのだ。
しかし、そうなのか、気が付かなかったな、私にファンが居たなんて、照れるのだ。へっへー悪い気はしないね。
そうこうしていると、妊娠中の奥さんミミュさんが病院から帰ってきた。
「おかえりなさい、経過はどうでしたか?」
ミミュさんは、親指をぐっとつきだして
「バッチグー」
中途半端に教えた日本語とか日本文化が、子羊亭では今ブームなのです。
私がミミュさんのふわっふわの髪の毛に、何か隠れてる気がしてジーっと見ていると、 ピコッと髪が動いた。
「あら? これが気になった?」
と頭頂部を見せてくれた。
そこには猫の耳そっくりの耳が生えていた。
「言ってなかったわねー、私ちょっと種族が人とは違うのよー」
「か、かわいいー」
漫画やアニメほど、ハッキリピンと立った耳では無かったので見落としていたが、獣耳ってあったんだ。
となると、気になるのが元々人の耳があるべき場所には何があるのかと言う事で、恐る恐る聞いてみる。
「も少し見せてもらっていいですか?」
「いいわよー、ちょっとまってね」
お客さんから見えない厨房の影で、コッチに頭を向け低い椅子に座ってくれた。
尖って頭の上に出ている耳は高さ4-5センチ程度で畳むとパーマがかった髪にすっぽり隠れてしまう、耳の穴の位置は人と同じで、そこから筒状の耳たぶが上に伸びて繋がっている。
つまりは耳たぶが凄い長い、上下で25cmくらいある。
でも、人の耳の位置に何もないとかじゃなくて良かった。
「まだ偏見とか持ってる人も居るから、あんまり言わないでねー」
「はいっ」
なんだろう、家族みたいに認められたから、お互いに秘密も打ち明けて行けるのかな? だとしたらスゴく嬉しいし居心地良く感じる。
おっとと、そろそろお客さんが増えだす時間だ、
「いらっしゃいませー、開いているお席へどうぞ!」