第3話 戦闘を見たよ
私は丘を降りて、街へ案内してもら事になった。
でもですよ私、家のドア開けて宅配の荷物受取る気軽さで、ここに来ちゃってますから、部屋着にサンダル履きなのですよ!
風は強くて肌寒いし、足元は危ないし、変な草のタネがスエット生地にもっさりくっついて来るし。
そしたら、腕を抱えて寒そうにしてる私に、アルベルトさんがマント外して貸してくれた。
「あ、ありがとうございます。アルベルトさんは寒くないですか?」
すると、
「さっきまで戦ってたからな、今は暑いくらいだ。使ってくれ。だそうです。」
とタキ君が通訳してくれた。
そのままでは、長すぎで地面に引きずるので、二つ折りにしてマントを羽織る。
街は丘からも見えてはいたが、道が悪くて1時間位かかるそうだ。
私が遅いからもっとかな?なんて慣れてきた頃に、やってしまった。
岩場で足が滑り、サンダルからはみ出した足を、ザックリ切り裂く。
ドクドクと、びっくりするくらい血が出てくる。
ズキンズキンと、心臓の鼓動に合わせて痛みが走る。
クウッ、鼻の奥がツンとする、不覚にも泣けてきた、駄目だ我慢出来ない。
「うっぅぇ、ううぇぇん、ズッ、うぁぁん」
自分の心なのにままならない、悲しいやら情けないやらわけがわからなくなってしまった。
タキ君が
「大丈夫、足を見せて、大丈夫だからね」
と励まし、アルベルトが足の大きな血管がある所を抑えて止血している。
タキ君は、でっかい軟膏を取り出して足に塗ってくれる、また痛い!
グズグズと鼻を鳴らしていると、アルベルトさんが小さな声でタキ君に何か言う。
二人の間の空気が変わった、ヒヤリとした物が背筋を走り、泣いてる場合ではないと感じる。
タキ君は
「絶対に声を出さないで、じっとしてて下さいね」
私はもう泣き止んで、緊張で身を固くしてジッとしているしか無かった。
「ゴフッゴフッ、グガーガーガ。ギッガガ」
明らかに人と違う声帯から発せられる、獣の様な声。
それでいて、鳴き声のようではなく、意味のある会話をしているようだ。
アルベルトさんも、タキ君も、身を潜め声の方をうかがっている。
「ギャギャッ」
今までと明らかに違う、警戒の色を含んだ鳴き声。
アルベルトは盾を持ち、剣を抜いて、潜んでいた岩陰から飛び出した。
醜い妖魔が3匹、手にはそれぞれ錆びた武器を持ち、身を低くして飛びかかってきた。
アルベルトの振るう剣は一匹を完全に捕らえ、肩口から胸までを切り裂いた。
いきなり一匹殺られて、戦意を喪失するどころか、凶暴性が増す妖魔。
一匹が体当たりするものの、アルベルトは盾でガードする。
しかしもう一匹の攻撃は、アルベルトの身体を捕らえる。
身体を捻り、鎧の表面で相手の剣を滑らせ回避するものの、接触した衝撃を食らう。
よろめくアルベルト、しかし彼は既に仕事を終えていた。
十分に時間を貰ったタキは、詠唱を済ませ、杖を掲げる。
妖魔達の胸をエネルギーの矢が貫くと、胸に大きな穴を開け後ろに吹き飛ぶ。
倒れた妖魔から煙が立ち上り、鼻を突く嫌な匂いがする。
その様子を見ていた私は、異世界に来た実感とともに、ここでは死が身近にある事を感じたのだ。