第29話 ヒビ
さて、お仕事初めてから2週間ほど経った。
最近の私の1日だが、
7:00 起床、朝食と掃除か洗濯をする。
9:00 午前の授業開始
12:00 お昼ごはん
13:00 午後の授業開始
14:30 授業終わり、放課後
16:00 子羊亭でお仕事
19:30 お仕事終了
20:00 学校に戻ってきて寝るまで自由
23:00 就寝
と、まぁ意外と忙しくやっているのだ。
特に放課後が短くて、買い物に行くのが忙しい。
せめて、ママチャリが欲しいと思うのだった。
そして今の時間は19時、お仕事もそろそろ終わりである。
「いらっしゃいませ、空いてるお席へどうぞー、ってアルベルトさん」
「やー、食べに来たよ。肉巻きと山菜スープの定食でー」
「はーい」
私は滑舌に意識して大きな声で注文を通す。
「オーダー肉巻き定食」
「あいよー、コトネ今日はそれ出したら上がっていいぞ」
今日はいつもよりちょっとお客が少なくて、少し早上がり出来た。
私は、アルベルトさんのメニューと自分のミックスジュースをトレーに載せて運んでいく。
「お待ちどうさまー、肉巻きと山菜スープ定食です」
テーブルに定食を置くと、向かいにジュースを持ったまま座る。
「さぁ召し上がれ!」
「まぁ、言われずとも頂くけどな」
ニッと笑い、手を擦りながら食事に目を落とす。
アルベルトさんは黙々と、肉、野菜、スープ、パンを順序よく、バランスよく口に運び、的確にかつスピーディーにお腹に収めていく。
見ていて、気持ちのいい食べっぷりだ。
「そういえば、先生が来てないけど」
と言うと、アルベルトさんは食べるのを一時中断して、
「谷口は今日は用があって、俺が代わりに迎えに来た。言うの忘れてたけど」
「あー、よろしくおねがいします」
私はアルベルトさんの見事な食べっぷりを見ながら、ジュースをすすっていた。
そしてふと思い出したように、先生が荒れていた頃があった話を思い出して聞いてみた。
「谷口先生がコッチ来た時ってどうだったの?」
アルベルトさんはちょっとだけ考えて、
「じゃ、本人に聞いてみるかい?」
と言って、残りのご飯をかき込むと、
「ごっそーさん、おあいそ」
と言って、店を出た。
そして、学校ではなく騎士団詰め所に向かって歩き出した。
「詰め所に行くの?」
「まぁ、谷口の事知るには丁度いい」
そして騎士団詰め所奥にある、修練所では谷口先生と他の騎士が手合わせをしていた。
「谷口にはこの世界に無い、剣の戦い方を教えてもらっている」
「先生、剣も教えてるの?」
意外だった。
騎士団詰め所に着いた。
ここは王城と王都を守る騎士団の拠点で、医療室から騎士団員の寮、稽古場まで完備した警察署みたいな物だ。
元々はうちらの学校が詰め所だったけど、手狭になって新築されただけあって、新しい詰め所の建物はでっかい。
そして、そのうちの道場にやって来た、直径10mほどの円形の部屋だ。
真ん中で二人の木剣を持った男が打ち合い、回りを他の団員達が見物していた。
アルベルトさんは、回りの騎士たちに私を紹介して見やすい前に通してくれた。
よく見れは、片方の男は先生だわ。
そのうち、回りの騎士たちも私に話しかけてくる。
「谷口の教え子なんだってな? もしかしてお嬢ちゃんも強いのか?」
とか、
「谷口の教え子か、もっとゴツい奴を想像してたぜ」
なんて言われてる。
「これ見てみろよ、これ谷口がやったんだぜ」
と見せられた盾は、ベッコリと凹んでいる。
この騎士が言うには、ジョーカーを捕らえに部屋に踏み込むと、そこには笹とジョーカーが居たそうだ。
そして、突然空中が歪み、谷口先生が現れたそうだ。
そして暴れる先生は、木刀で金属の盾を凹ませ、騎士たちを散々蹴散らしてくれたそうだ。
その有様から、騎士団ではオーガ谷口とも呼ばれるに至ったほどだ。
そのせいでジョーカーを取り逃がしたが、騎士団は先生と笹を保護した。
先生は騎士団にスカウトされたが、この世界に貴族のための学校しか無いことを知ると、学校を作るため断ったそうだ。
今はアルバイトで、剣道なるものを騎士団で教えているのだそうだ。
先生は、私が来ているのに気が付くと、鼻の頭をポリポリと掻いていた。
学校への帰りは、先生とアルベルトさんと私三人で歩いて帰った。
「先生、おやすみなさいー」
と先生とは一階で別れ、アルベルトさんと階段を登っていく。
階段を登り切った辺りで、彼は私の肩に手をかけ、
「コトネ、谷口は素晴らしい先生だ、しかし張り詰めていると言うか頑張りすぎている。見ていると危なっかしいのだ、変わったことが有ったら教えてくれ」
と私に小声で告げたのだ。