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第28話 初仕事

 学校に宿直室が出来た。

 谷口先生はもう半ば私室と化した職員室で寝泊まりしているので、誰がこの宿直室を使うのかといえば、タキさんとアルベルトさんだ。

 元々騎士団詰め所だったこの学校は、まだまだ部屋が余っている。

 一階は教室と食堂とキッチンと職員室でいっぱいだが、二階には6部屋あり2部屋が物置に私と笹さんで2部屋使っていたが、まだ2部屋余っていた。

 そして、最近何かと事件が増えていることもあって、学校の警戒の為誰か警備の人を置くことになったのだ。

 授業が始まる前に、私とタキさんアルベルトさんの3人は、倉庫になっている部屋を開けた。

 元騎士団で使っていた布団を引っ張りだすためだが、まともな順に布団は持って行かれており、ここにあるのは残り物だった。

 これはひどい、どうしてこんなになるまで放っておいたんだ…タキさんは青ざめタフなアルベルトさんさえも口元を抑える。

 私は問う、 

 「ほ、ほんとうにこの中から持っていくの?」

 「これ…は、どうでしょう使えるんでしょうか」

 「使えるか使えないかではなく、使うんだ」

 アルベルトさんは断言する。

 その顔には、新しい布団を買うお金など無い!と書いてある。

 「僕は、宿直を引き受けたことを、今始めて後悔してるよぉ」

 「奇遇だな、俺もだ」

 部屋には色とりどり布団が、黒・黄色・茶色・緑色、私は二人には悪いが後ずさりしてその場を離れた。

 授業中、所々カビで黒と緑の斑が入った布団が中庭に干してあった。

 あれで妥協したか…

 

 放課後、谷口先生とタキくんがまだ布団と格闘していたが、私は親の心子羊亭へと向かうのだった。

 「こんにちはー、お世話になりますー」

 「おう、明日からは裏から入るんだぞ」

 と角刈りでガタイのいいナイスミドルが答える、店長のスミスさんだ。

 「あら、エプロンが出来たからちょっと来てみて頂戴」

 カウンターで裁縫をしていた優しそうな女性が立ち上がる、出産はまだだがお腹が少し大きくなり始めてる奥様のミミュさん、

 「やー、今日からよろしくねー。学校って楽しそうだよねぇ」

フライパンで何かを炒めながらコッチに挨拶するボウイッシュな女性のフィルさん。

 「フィルー、少し火を通しすぎだ調理中は集中しろー」

 「すいません、おやじさん!」

 慌ててフライパンを火から下ろすフィルさん。

 「まかないだってちゃんと作らにゃ練習にならねぇぞ」

 と言いつつフライパンにスプーンを突っ込み、すくって口に入れる。

 「んー、65点。具がだまになってる、すこし焦げてる。もっと精進しろ」

 「ふぁい」

 そんなやり取りを横目に私はエプロンに袖を通す。

 「おー、ぴったりです奥様」

 「良かったわー、でも奥様は照れるわ。ミミュでいいわよ」

 「はい、ミミュさん」

 「これからは店を切り盛りしていく仲間ですもの、何でも気兼ねなく言ってね」

優しく微笑むその顔は、私には女神様の様に見えた。

店はお昼の混雑が終わって、夕飯までの暇な時間、皆が遅い昼食を取っていた。

私も少しだけ頂くと、常々不思議に思っていたことを聞いてみる。

 「店長、調味料塩しか使わないのに、なんでこんなに複雑な味を出せるんですか?」

 「うん? 俺っちには普通の事なんだが、味は素材が持ってるだろう。その組み合わせで料理の味は決まるんじゃねぇのか?」

 なるほど、こっちの野菜類は妙に癖の強い味が多いと思ったが、これは材料兼調味料なんだな。

 野菜の味を複数混ぜて、好みの味に仕立てるのがこちら風の調理なんだ。

 となると、買い物の前から作るものを決めて、それに合わせて材料を揃えいてかなくてはならない。

 安いのを買って適当に調理していては、上手く行かないのも道理だわ。

 こちらの料理を覚えるのにも、このお仕事は丁度いいかもしれない。

  夕飯時は戦場だった。

 昨日見学して知ってはいたけれど、予想以上に戦場であった。

 注文を告げる時も大きな声を出さないと注文は通らず、言い直しなどしようものなら同じ料理がダブってしまう。

 一度できちんと相手に伝えないと混乱に輪をかけることになる。

 紙が高価でメモ紙が無いので、注文は木の札を掛けてメモにする。

 しかし定番料理じゃなくて木の札が無いものは、全て記憶しておかなくちゃならない。

 折角記憶してても、会計の暗算している間に忘れちゃったりとか、もう頭はパニックになる。

 これでも、ミミュさんが居るから回っているけど、出産が近くなったらそうも行かない、私が、一人で、この戦場を回さなければならないのだ…

 数ヶ月先のことを思うと、胃が痛くなりそうだった。

 上気した顔をしてフラフラとしている私に、ミミュさんが冷たいお茶を差し出す、

 「コトネちゃん、初日おつかれさま。今日はもういいからカウンターで休んでなさい」

 「いえ、お仕事ですから。時間までは」

 「立ちっぱなしで足も痛いでしょ、明日もあるんだから、ねっ」

 私はお言葉に甘えてカウンターの椅子に座る。

 ぷらんと宙に浮いだ足の裏には、一気に血液が流れジーンとしてちょっと変な感じがする。

 店内にもうお客さんは少なくなり、フィルさんは食器を黙々と洗い続けていた。

 やっと手が空いて一息ついた店長のスミスさんが、カウンター越しに話しかける。

 「どうだい、やっていけそうかい。フラフラしてっけど」

 「頑張ります」

 出来るとは、私は言い切れなかった。

 「まっ、出来る範囲でいいさ。無理ならお客断っちまえばいいんだから」

 と言ってカラカラと笑う。

 これは親父さんなりの気の使い方なんだろうなぁ、ちょっと元気が出た。

 「こーんにちはー、佐渡迎えに来ましたー」

 「おぅ、谷口。今日は飲んでいかねぇのかい」

私を迎えに来た先生に、スミスさんは親しげに返事を返す。

 「今日は迎えだけですよ、毎日飲んでるみたいに言わないでくださいよ」

 「そっか、最近は学校で忙しくて飲みに来てないな。また向こうの話してくれよロハで飲ませてやるから」

 「考えときまーす。さて、佐渡帰るぞ」

 「先生、毎日飲んでたんですか?」

 「いいから、行くぞっ」

 学校までの帰りに聞いたけど、先生も人の子この世界に召喚された直後は、荒れた生活をしていた時期もあったんだそうな。

 でも、自分は教師だから学校を作り、この国で教師をしたいと思った時、立ち直れたのだと。来年春を目処に学校を立ち上げ、教鞭をとるため準備中なのだそうだ。

 

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