第25話 方針
そろそろ私がこの世界に来て、一月が経とうとしていた。
来た時は朝晩が肌寒い初夏であったが、今ではすっかり真夏である。
あれから変わった事と言えば、笹か学校に移り住むようになった事、みんなお互いの言葉が上手くなって、普通に会話出来るように成った事、先生が言語以外の授業も取り入れようと言い出した事くらいか。
そう、私は魔法を習えるように成ったと喜び勇んだものだ。
しかし、魔法は授業には含まれず、歴史と文学と数学と体育を増やすと言うのだ。
歴史と文学はともかく、数学と体育は嫌だなぁ。
なにせ真夏だし、体育館無いし、クーラーも無いし、死ぬかもしれないよ。
教室は石造りだったのでいくらか涼しかったけど、外はヤバイでしょ。
と言うわけで体育は秋から、それ以外は先生の教科書ができ次第になるそうだ。
でも私がこれを聞いて思ったのは、先生は元の世界に帰れない時にこっちで永住出来るだけの準備を私達にさせているんだ、と言うことだった。
それを考えると少しさみしい、こっちの人たちも好きだけど、家族や今までの友達が居るのはやっぱり向こうの世界なんだ。
タキさんとはあれから恋愛的な進展は無いけれど、毎日会ってるせいか親友、みたいな感じになった。
親友になったって言うなら、他の皆も同じだったけどね。
あと笹だけは未だになんか浮いた存在だった、
そんなある日、私は谷口先生に呼ばれて職員室に行った。
「おぅ、佐渡。まぁ座れ」
なんか悪い事したっけ? と構えてしまう。
「そんなに構えるな、今日はお前の進路について少し話をしておこうと思ったんだ。こっちに来て俺は3ヶ月お前は1ヶ月位になるだろうかな、王国の方で帰る方法を探ってくれては居るそうだが、何の進展も無くてな。まぁ、こっちに永住って形になるのも、覚悟しなくちゃならんと思い出したわけだ」
「は、はぁ」
「向こうには義務教育なんて物があったが、こっちには無いんだ。お前や笹の学費は国の援助で成り立っている。いつ打ち切られるか解らないから最低限のコッチの言葉だけでもと、一ヶ月で無理やり叩き込んだわけだが、幸いなことにまだ援助は続けて下さるそうだ」
「ほっ」
私は胸を撫で下ろす、でもイキナリ放り出される可能性もあるって事なのかぁ。
「そこでだ、授業と並列してこれからは、ここで生きる術を身につけてもらいたい。さしあたっては、働いて現地の仕事の雰囲気だけでも掴んで欲しい。まずは何時もの食堂で夕方だけ働け」
「え、私働くんすか? バイトもしたこと無い中学生ですよ」
「だからだ、経験したこと無かったら躊躇するだろ、まず顔見知りの所で働いて、自信をつけてこい、わかったな」
「う、うぇぃ」
「なんだその返事は、まかないが出るから夕飯作らなくて良い分少しは楽になるんだぞ」
先生は笑い気味に言う。
そう、私は今だにコッチの材料でまともな料理を完成させたことは無かったのだ。
店の料理してる所見て、少し真似してみろ、と言う意味も含めた職業案内だったみたいだ。
「わかりました、やってみます」
「ん、素直でよろしい! みんな佐渡みたいに聞き分けの良い子だといいんだけどなぁ」
私以外って笹しか居ないじゃん、奴は仕事拒否したんだな。




