第19話 とりあえず掘ってみた
「先生、私お風呂に入りたいです!」
夕飯を食べていた谷口先生にそう話しかけた。
「唐突だなー、まぁわからんでもないが。
実は俺も入れるものなら入りたい、しかしこっちには温泉も無いらしいぞ
ましてや風呂桶なんて無いしなぁ」
「ですよねー」
やっぱり無理か、でも髪の毛をお湯で洗いたい、ふやけるまで湯に浸かりたいー。
「まぁ、暖かいうちは川で我慢しろ」
「川かぁ、焼けた石とか叩き込んだらお湯にならないですかねぇ」
私は思いつきでそんな事を言う。
「!? 明日にでも、やってみるか」
「いいですねー」
次の日、私たちは街の近くの川へやって来ている。
異世界の風呂文化を見せてやると言う体で、無理やり課外授業だ。
本当は岩がゴロゴロしてるような上流が良いのだが、そこまで行くとモンスターも出て危ないと言うので、妥協して街から少しだけ離れた上流に来たのだ。
まずは風呂桶を掘る、こっちの世界のスコップは先が小さくでその割に重い。
ツルハシも兼ねてるのかな。
川辺りは石の混ざった固い土で、掘りにくそうだ。
アルベルトは、
「なんでこんな事を・・・めんどくさい」
なんて言いながらも一番長く掘ってた。
逆に、
「ごめん、もう無理!」
タキさんは一瞬で体力がなくなってた、ここ来るのにもだいぶ汗かいてたからね。
ウィリアムは見学、ルルがそんな事させるくらいなら自分が、と袖を捲るので止められていた。
そろそろかなと、石を組んで焚き火を始め、焼石を作る。
これを風呂桶に張った水に入れて、お湯にするのだ。
あとは先生とアルベルトさんが掘り終わるのを待つ。
必死の二人をよそに、焚き火を眺めながら、焼き菓子を食べお茶を頂く…ぷちキャンプだねぇ。
お茶してたら風呂桶が完成、川から水を引き込む水路を掘っていく。
が、水路に流れてきたのは川底の泥を吸い、黒々とした水。
排水路を掘って水の入れ替えをしても、入ってくるのが泥水なので風呂桶に入ってる水の透明度は上がらない。
風呂桶に満たされる泥水、もはや今回の事が失敗なのは誰の目にも明らかだった。
泥は粒子が細かいのか一向に沈殿する気配はない。
焼け石を入れてみると、対流で泥が舞い上がり益々手が付けられなくなった。
風呂に入るつもりで頑張った、無駄に汗臭い男三人。
悲惨な結末に絶句していると、
「で、今日の催し物は何だったの?」
とウィリアム君は言う。
ルルさんに耳打ちされて一言、
「それなら、うちの風呂入ればいいんじゃない?」
そう、王宮にはお風呂あったのね。
以降私たちは、王宮にお風呂を借りに行くことで、この問題を解決したのだった。




