第17話 上書き
私は夕飯をの後、タキさんに貰った粉薬を飲んで、職員室に行き布団で横になる。
タキさんは、布団の枕元の椅子に座っている。
私の左手をタキさんの左手が包み、タキさんの右手が私の頭の上にある。
私はブツブツと呪文を唱えるタキさんを見ていたが、不意に視界が揺れて落ちるように眠りについた。
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私は、みたびまた草原に居た。
息を殺し、妖魔の群れから隠れていた。
震える手に震える手を重ね、奥歯がカチカチとなるのを抑えるため歯を食いしばっていた。
低い草むらに、必死で身を隠すが、お尻や肩がはみ出して、見えていないか気がかりでしょうがない。
見上げれば、草の茂る合間から青い空が見える。
またこの景色なのかと、と苛立つ。
「ギャギャッ」
と妖魔が警戒の声を上げる。
嫌だ、もう見たくないと拒絶するのに勝手に場面は進む。
そして戦う音がする、アルベルトが妖魔と戦っている。
いつの間にか、私の手には包丁が握られていた。
アルベルトは4匹の妖魔に囲まれ、それでも善戦していた。
妖魔の浅黒い皮膚を切り裂き、どす黒い血が噴き出る。
その時、アルベルトの気がつかない真後ろに、一匹の妖魔が武器を構え現れた。
(大丈夫、アルベルトは強い。)
私は気がついている、助けなければ!
(大きな声で、教えてあげるだけで大丈夫)
でも、足は動かない手も動かない、なのに目だけはそれをしっかり追っていた。
(さぁ、大きな声で)
私は叫ぶ!
「アルベルト、後ろに気を付けて!」
身を捻り、後ろからの一撃を躱すアルベルト、盾で妖魔を殴りつけ、剣を妖魔に叩きつける。
良かった、助けられた!
でも、私はあんなに大きな声を出して、草むらに立ち上がっていた。
回りに散らばっていた妖魔達が気付いて、こちらを見る。
(心配しないで)
足が竦んで動けない私の肩を、後ろから掴む者がいた。
(大丈夫、僕も居る)
でもそれは乱暴にではなく、優しかった。
肩から手を離し、私の前に歩み出たのはタキさんだった。
私が背中を見ていると、タキさんはゴニョゴニョと呪文を唱えて、杖を空に掲げる。
杖から出た、大きな丸い光の玉がふわりと浮かび、そこから無数の光の矢が飛び出し妖魔を撃つ。
それか当たると、吹き飛び転げまわる妖魔達であったが、死体は残さず光となって消えていった。
タキさんは杖をおろし、振り返ると、
「ねっ、大丈夫だったでしょ」
と言って、私の頭を撫でたのだった。
朝になった、私が目を覚ますとタキさんはベットに突っ伏して寝ていた。
谷口先生は椅子に座ったまま、行儀悪く足は机の上に、絶妙なバランスを保って寝ていた。
心に乗っかっていた重しが取れたように、すっきりとした目覚めだった。
私はタキさんの髪の毛をいじりながら「おはようございます」と小声で言った。
反応したのは意外にも谷口先生で、ビクッとしたかと思ったらバランスを崩して、背中から床に叩きつけられ慄きながら起きた。
がっしゃー
「ふあぅおっほっ!」
私は可笑しくて、
「あっはははははははは」
煩かったのか、タキさんも目を擦りながら起きて、
「おはようございます、コトネさん。なにかありましたか?」
って、こっちを見た。
目が合うと急に恥ずかしくなって思わず目をそらしちゃったけど。
「ありがとう、助けてくれて」
と言うと、
「どういたしまして」
と返された。
もう、それだけのやり取りで心が満たされる。
これはあれだな、異世界で助けてもらって恋に落ちるとか、私チョロすぎるだろ。
でもうん、私はタキさんが好きだなぁと思ったのさ。
ガタンガタン
しばらく倒れたまま寝ぼけてた先生は、腰を伸ばしながら立ち上がり、
「もう大丈夫そうか、佐渡ー?」
「はい!」
「よし、じゃ今日の授業の準備してこい。昨日の分もしっかりやるぞ」
と来たもんだ。




