第10話 暗がり
う、うぇ。
あのサラダは美味しくなかった、私は虫じゃありません!って言いたくなるほど不味かった。
しかし、先生に見張られていたとはいえ、完食した自分を褒めたい。
明日からは野菜を買う時、興味本位で買わないようにしよう、と心に誓った。
食堂でアルベルトさんと別れ、先生と学校へ歩いて戻っていた。
この時間には、街の活気も落ち着いて、家族団らんの笑い声が、民家の窓から聞こえたりする。
「佐渡、家族と離れ離れになって辛いかもしれんが、何かあったら遠慮なく言え。
先生は、出来る限り力になるからな」
「はい」
本当は、ありがとうとか言いたかったんだけど、気恥ずかしくてそれしか返事出来なかった。
学校に着くと、先生はまたドアノブに手をかざし呪文を唱える。
「ガチョン」
今度は玄関の鍵が開いた、身近な人が魔法使うと、やっぱりテンション上がる!
つい癖で、腕時計を見ると04:00、一度合わせないと使えないな。
そもそも1日24時間とは限らないなぁ、
「先生、時間ってこの世界どうなってるんですか」
「おお、一応時計はあるぞ、王城に行けば一つだけな。
でも勉強で習っただろう、時間は元々太陽の動きから来ている。
日時計を作って、つまり棒を立てて陰が最も短い位置が正午だ。
時計を12時に合わせて、陰が最も短くなって伸び出したら、時計を進めるようにすれば時刻合わせが出来る」
「おおー、流石先生。でもってこの世界1日24時間なんですかね?」
「俺の時計は1日10分ずつずれていたな、たしか遅い方に」
「じゃ23時間50分くらいなんですね、この世界の1日って」
「そうなるな、まっ俺の時計も狂ってきてるし、あすの昼間に日時計でも作るか」
「はい」
と職員室の前まで来たので、ランプを受け取り、
「先生、おやすみなさい」
と、言って別れた。
今日も、しこたま歩きまわって疲れたので、直ぐに寝つきそうだ。
そこで、私は気がついた、布団干しっぱなしだ。
恐る恐る、中庭に出て布団を触ると、いい感じに夜露を吸って、しっとりひんやりぺたぺたする。
あぅ、これは寝れない。
すると、ランプの明かりに気がついて先生が、
「だれだー、どーした」
「せんせー、布団干したままで・・」
「あー、しょうがねぇ、先生の布団でよけりゃ持っていけ」
「いえ、いいです。我慢します」
私は、流石に先生の布団を奪ったらダメだと思ったし、他人の男の人が使った布団で寝るのは、抵抗があったのでお断りした。
布団はこのまま干して、明日の昼に取り込もう。
部屋に戻ると、固い木の寝台に、来てきたスエットの上下を引いて、その上に寝転ぶ。
・・・狭い、はみ出すと固くて痛い、ベストなポジションを探しつつ、暗闇でゴソゴソしている間に、私はいつの間にか寝ていた。
・・・
・・
・
身体が痛い、腕の感覚がない。
私は深夜に、身体の痛みから起きてしまった。
腕は体勢を変えると、血流が良くなりジンワリピリピリとしだす。
真っ暗だと思っていた室内は、夜目が効いてくるとぼんやりと見え出す。
石で出来た壁のでこぼこ、太い木の梁が通った天井、木製のクローゼット。
コワイ、また泣きそう、明かりを付けたいけど火が無い。
そして、私は目が覚めたのは身体の痛みだけではない事に気がついた。
そう、尿意である。
部屋の中で、朝まで振るえて日の出を待つ、と言う選択肢は消えた。
私は前に歩き出さなくてはならない、それもあまり余裕がなく。
真っ暗なトイレとか、死亡フラグにしか見えない。
某ゲーム、デッ◯スペースでも、トイレでイヤという程泣かされてきた。
よし、先生を起こそう。
私は、手で壁伝いにユックリと階段を降り、一階の職員室の扉を叩いた。
トントントン、トントントン、ドンドンドン、ドンドンドン!
「んああ、佐渡かぁ、どうしたこんな夜中にファ~」
アクビをしている先生に、
「トイレ、トイレ付いてきて下さい」
恥ずい、でもそれ以上に恐怖が勝った。
先生はランプを付けると、スタスタと先導してくれた。
「先に帰らないで下さいね、あとランプも貸してください」
私はランプを奪い、暗闇の中に先生を置いてトイレに入った。




