ダークエンドホワイト
どーも、ダークエルフのリュートです。
今、私の住む森の近くの村に、「勇者様御一行」が来ています。
魔王を倒すための旅の途中だとか。
そう、いるんですよ。この世界にも魔王と呼ばれる存在が。
数百年前に起こった戦争がきっかけで、世界の力の聖と魔のバランスが崩れ、十数年か前にと呼ばれる強い力を持った魔族、「魔王」が産まれました。
「魔王」の力は日に日に増していっています。
この世界は聖と魔のバランスで維持されています。
世界が魔に包まれれば世界が崩壊することを意味します。
これまで幾度となく魔王を倒そうと様々な国が軍隊を送りましたが、魔王を倒すことが出来ませんでした。
このまま、世界の終わりを待つしかないのかと、皆が絶望したその時。
そう、聖なる加護を受け、伝説の武器を携えた魔王と対を成す「勇者様」が現れたのです。
そして、勇者様はこれまた選ばれし仲間と共に魔王を倒すための旅に出たのでした。
勇者様たちは旅に必要な道具や食糧を補給するために先々の市町村に立ち寄っているのだそうで。
近くの村に勇者様御一行がいると聞きつけた私は、興味津々で見に行きました。
それが、大きな間違いだったんです・・・・。
ドアをコンコンと叩く音がしたので、扉を開けると男が一人立っていた。
「こんにちは。リュート。」
「・・・・こんにちは、さようなら。」
開口一番の言葉としては失礼だと自分でも思うけど、この男にはこれでも十分過ぎる。
「今夜も泊めてほしいのですけど。」
「ダメ。帰って。」
「今からだと宿に着く前に夜になってしまいます。」
今は、夕暮れ。
空は茜色でもうすぐ紺色の空で埋め尽くされる。
「それに暗い道は、怖いから嫌です。」
可愛い女の子ならまだしも、大人の男が言うセリフじゃない。
「大丈夫。急げば間に会うよ。」
ビシッと帰り道を指差す私。
「―――じゃあ、リュートが宿まで送ってくれたら帰ります。」
男は少し考えて後、何かを思いついた顔をした。
嫌な予感しかしない。
「あっ、でもそれだと今度はリュートが戻る時に暗くなりますね。リュートに夜道を歩かせるなんて危なくて出来ませんから、宿の私の部屋に泊まることになりますね。」
そして、男は一旦言葉を切ると笑顔でこう言った。
「リュートはどちらがいいですか?」
「・・・・・・・・・・・・・。」
選択する意味ある?どっち選んでも同じじゃん?
かの有名な“返事はハイかyesしか認めない”を繰り出され、とっさに言葉が出ず固まってしまった。
紹介が遅れましたが、この“頭がちょっとオカシイんじゃないの”な男はショームといって勇者様御一行様の1人なんです。
腰までのサラサラとした金髪に、金色の瞳、透けるような白い肌。
身長は高く、すらっとして筋肉が少ない華奢な感じです。
私はエルフの中でも比較的小柄な方なので、ショームと話す時は常に上向きなので首が痛いです。
ショームの顔立ちは中性的で美形というより美人系です。
でも、顔が良いのは当たり前です。
だって、彼は私と同じエルフ族ですから。
・・・くやしいことにショームはエルフ族のなかでも美形部類に入ると思います。
私は彼と違ってダークエルフなので銀の髪に銀の瞳、褐色の肌なんですけどね。
それに、彼はそこらのエルフとは違います。エルフ族でも桁外れに強い力を持ち、上位に当たる、『ハイエルフ』なんです。
世界中でも数が少なく、居住地不明、滅多に会えないプレミアエルフ。
そんなレアキャラが仲間になるなんて「勇者様」ってすごいですね。
つまり、ショームは勇者の仲間、のちの英雄の1人、伝説になるかもしれない人物のハズ・・・です。
「考えているリュートも可愛いですけど、早くしないと日が暮れて、『私を泊める』選択肢しかなくなりますよ?」
何を血迷っているのか連日、こんな感じで私の家に押しかけて来るんです。
結局、本日もショームに完敗した私は、彼を家に泊めることになりました。
私がショームを追い返すことに成功したのはショームが初めて私の家を訪ねて来た時だけどね・・・。
最初だけは、「知らない人を家に上げることは出来ない」って言ったら引き下がってくれたけど、次の日からは「昨日会ったから、もう知らない人じゃないですね」とか、「道に迷った」とか、「人間の宿だと落ち着かなくて眠れない」その他、色々な理由をつけて泊まって行こうとするです。
そもそも、私たちエルフは森で生活している種族だから、迷う事なんてほとんどない。
寿命も長いから例え1ヶ月以上眠らなくても別に問題ないし!
ショームは毎日毎日巧みな話術で私が断れないようにしてくる。
それが分かっていながらなんやかんやで押し切られてショームを泊める流れになっているから腹立たしい。
それに、ダークエルフの中に、白いエルフってすごく目立つ!
その上、私の家に通い妻しているもんだから村中に噂が飛び交っていて、仲間の好奇な視線がとても痛い。
「リュートに大切な話があります。」
「なに?」
「旅の道具や武器の補給が終わったので明日、私は仲間達と共にこの地を出発します。」
「そうなんだ!」
やった!!
これで、やっと通われ妻生活から解放される!
超嬉しいんですけど。
心の中でひそかにガッツポーズを決めた。
「そこで相談ですけど・・・私と一緒に行きませんか?」
「それじゃあ、気をつけて―――えっ?」
ショームを見ると真剣な顔をしていた。
私の聞き間違いかなぁ?それか幻聴?
「私と一緒に来て欲しいです。」
2回言われた!
「大事な事だから2回言いました。」
「心を読むの止めてよ!」
「ふふ、顔に全部出ていますよ?」
顔を読むのも止めてほしいんですけど・・・。
私は、小さくため息をついてショームに向き合う。
ここで、はっきりときっぱりと断らなければいつもと同じ様に流されてしまうことは確実だ。
「私は、貴方とは行きませ「貴女が好きです。」
好きぃ!?
いや、この際だから言葉の意味については後に回しておこう。
「一緒に行き「愛しています。」
うぐっ。
負けるな、挫けるな、出来るだけ早口で言えばどうにかなるさ。
「お断わ「離れたくないんです。」
さっ、最後まで諦めるな。「お断りします。」は言葉が長かったのよ。8文字あるし。次はもっと短くして言えば大丈夫、そう!「嫌」とか、2文字だし。
いける、頑張れ自分!
「い「貴女が欲しい。」
2文字くらい言わせてよ!
無理かな・・・パト○ッシュ、1文字で私の気持ちは伝えられないのかな・・・。
(言葉が無理なら、逃げるしかないっ。)
しかし、生憎と家の扉はショームの後ろにあって、逃げ口として使うには難しそうだ。
裏口というドアも私の家には存在しない。
(ドアがダメなら、他の選択肢は1つ!)
私は、真横の方向へと走り出した。
ドアから逃げ出せないなら、残りは窓しかない。
ここは1階、家の窓は外へ向かって開くタイプで今日は鍵もあえて外していた。
これなら走ったそのままの勢いで開くことが出来る。
万が一を考えて準備しておいてよかった。
神様、どうか私をお助けください!
全速力で走って、片手を突き出して窓を開いて、窓の縁にもう片方の手と足をかける。
(よし!これで逃げ―――)
足に力をいれ窓から外へ飛び降りようとした瞬間、腕が強い力で後方に引かれ、私はバランスを崩し背中から後ろに倒れこむ。
窓はそんなに高くない、私が飛び越えられる位だし。
とはいえ、背中から落ちたら息詰まる位は痛いと覚悟はしていたが、その衝撃が来ない。
「痛・・・・くない?」
反射で瞑っていった目を開いてみると、ショームの顔があった。
目だけを動かして周りを確認してみると、私は床の上に仰向けになっていて、その上からショームが覆いかぶさっている事が分かった。ご丁寧に私の下にはショームが上から羽織っていたローブが敷かれている。
恐らくっていうか確実に、後ろから引っ張ったのもショームで、落ちそうになった私を受け止めるかなんかしたんだろうな。
「お願いですから、逃げないでください。」
消えそうなくらい小さく聞こえた声がしたのでショームの顔を見ると、泣き顔と怒った顔が混じった表情をしていた。
「ショー・・・ム?」
今まで笑っている顔しか見たことなかったから驚いた。
「私はもう貴女の事以外考えられません。」
ショームは私の首に額を埋めて縋る様な声で呟いた。それを聞いた私は―――。
「いやいやいや、他の事も考えようよ。今日の夕食何にしようかな~とかさぁ。
そもそも、あんた魔王を倒す旅の途中でしょ?世界のバランスを安定させるというすごい使命があるでしょうが。そのために色々考えることいっぱいあるだろうし、しなきゃいけないこともいっぱいあるじゃん。愛とか恋とか一時の気の迷いだって。いい加減目を覚まさないといけない頃合いだよ。ここで立ち止まらずに歩き続けなよ。後で振り返ってみると少し恥ずかくなるけど良い思い出だったって話せる日がくるから。だからさ、早くそこからどいて帰れ。」
我ながら熱血に溢れた説得だったと思う。最後に本音がぽろっと出てしまったがそこはご愛嬌。
きっとこれでショームの考えが変わってくれればいいのだけれど。
「ふぅ・・・押してダメなら、情に訴えてみたのですがそれでもダメでしたか。」
私の首から顔を上げたショームはいつもと変わらない笑みを浮かべていた。
「問題です。押しても引いてもダメなら、残る1つは何だと思いますか?」
その笑顔を見た私は背筋がぞくっとした。
「あ、諦めるってのはどうかな?」
「残念ですが不正解です。ああ、そうだ。せっかくなので選んで頂けますか?」
どうしよう、嫌な予感しかしない。
ショームの瞳に私の引きつった顔が映っているのが見えた。
「選ぶって、な、何を?」
聞きたくないけど、聞かないのはもっと怖い!
「このままの固い床と、ベッドのどちらが良いですか?」
わぁ、笑顔が眩しいほど輝いている。
「好きな方を選んでください。大丈夫、どちらでも優しくしますから。」
私がその後、どうなったかは言いたくないから言わないんですが・・・・最悪的にしつこくて粘着質だった。
最終的に私、ダークエルフのリュートは勇者御一行様と一緒に旅に出ることになりました。
ロリ系ダークエルフが書きたくなりました。外見は少女でもエルフなんでリュートの年齢は200歳以上の設定です。もちろんショームはそれ以上の年齢です。




