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3 ぬるぬるな訪問者/ベタベタなハプニング

 






 俺は今、自宅のリビングに座っている。


 ふと見渡してみる。なかなか綺麗だ。当然だな、新築なのだから。


 この家は俺の両親が夏休み中に建てた家だ。信じられないだろうが本当だ。半月近く住んでる俺自身ですら、未だに半信半疑であるが、わずか40日という超突貫工事で建てられた家だ。


 肝心の両親は、この家に一緒に住んでいるわけではない。というか、たぶん特定の住まいを持っていない。彼らは仕事で常に海外を飛び回っている身だからだ。


 ・・・いや、我が親ながらも破天荒だなとは思うぞ。だがよ、普通にだ、普通に考えて、息子の『やっぱり少し遠いよなぁ』という、なんでもない、たかだか30分ばかしの電車通学に対する、特に深い意味のない愚痴をだぞ、真に受けて家を建てるか、普通。しかも、賃貸じゃない理由は手続きが面倒くさいからだそうだ。いや、絶対建てる方が面倒くさかっただろ。


 そんなこんなで、俺が通う私立涼嶺高校より唯一高い位置に建った、完全に対通学シフトの我が家である。ちなみに通学時間は歩いても10分、自転車ならなんと5分かかるかどうか、といった具合の近さだ。まっ、当然といえば当然かもしれないがな。経緯が経緯だけに。


 そんな我が家にだ、一人ばかしお客が来ている。いや、この場合なら両方とも正確な表現とはいえないな。なぜなら、その当事者である彼女は、スライムなので人でなく、さらにこれから同居するのでお客でもない。


 ・・・なんだ、あれだな。あんな宣言したからなにを言っても大丈夫な気分でいたが、本当に同居するんだな、俺。


 ところでなんでさっきからずっと一人で喋っているかって? 簡単な話だ。















 彼女こと池井 流美が、絶賛入浴中であることに他ならない。









 ・・・本当にこれからどうなるんだろう。




 ***





 時間は少し前、神社の境内にて俺があの宣言をしたところまで遡る。



 俺は高らかな宣言を終え、彼女の方を見る。


 ・・・うん、めっちゃ引いてる。至極真っ当、当たり前デスヨネー。


「・・・えぇと、どういう意味かな? 喜んだ方がいいの? それとも通報した方がいいのかな?」


「お願いします!後者だけは勘弁して下さい!」


 一瞬で俺は膝を折り、頭を地面につける。そう、俗にいう土下座の体勢をとった。我ながら素晴らしい速度である。初めてやったがこれならば、日本代表くらいになれそうだ。そして、これだけ綺麗に決まった土下座だ、きっと許してくれる。そう思って彼女の方を見ると・・・


 さらに引いていた。ドン引きとかいう次元じゃなかった。もう通報したって無駄だろという目をしてる。


「・・・池井さん?」


 呼びかけた俺に対して彼女は、なにかブツブツ言いながら考え込み始めた。


「・・・えぇとね、魚ノ目君」


「はい! なんでしょうか!」


「とりあえず話しを聞くことにしたから・・・」


「はい!ありがとうございます!」


「まずはその体勢をやめて、言葉使いをもとに戻して下さい!」


 デスヨネー。ちょっとふざけ過ぎたな。


「というか、普通に言って、普通の体勢なら、普通に聞きましたよ。なんであんな言い方したんですか?」


「そこは若気のいたりってやつだな」


「えっ? それって具体的にどういうこと・・・」


「お願いです。それ以上聞かないで下さい。心の奥にそっとしまっておいて下さい」


 今度こそ本気で土下座してでもやめてほしかった。もうはっきりいって涙目である。


「・・・わかりました。で、ちゃんとふざけないで最初から説明して下さいよ」


 彼女は半分呆れながら言ってくる。やれやれ、やっと本題に入れるな。


「誰のせいだと思ってるんですか!」


 バカな! 今、ナチュラルに心を読まれたぞ。


「年ごろの女の子なら誰でもできます」


 知らなかった。女子、恐るべし。


 しかし、一体どんな判別方法を使って・・・


「何か考えているようですが無駄ですよ。私が質問すれば簡単に分かります。まるで、サーモグラフィーのようにですね・・・」


「はい! そこまでー!」


 やっぱり最悪の方法だった。


「なんですか、負け惜しみですか」


「ちゃうわ! 認めるか! 魂を人形に詰められたくないちゅーねん!」


「・・・なぜ急に関西弁」


「まあ、エセだがな」


「とにかく! 説明して下さい!」


 なんか浮気して、問いただされてるような気分になってきた。


「よーし、まず最初にだ」


「最初にですね」


「うちに来い!」


「それは結論でしょうが! 説明を求めているんです!」


「まぁ、まて。まずは家に来ないと始まらんだろう」


「なにも始まりませんよ! ちゃんと説明して下さい!」


「よいではないか、よいではないか」


「だめに決まっているじゃないですか! あなたは、正月の酒の席で飲ませようとする親戚のおっちゃんですか!」


「ちなみに俺は押し切られて飲んじゃうタイプだ」


「だめじゃないですか!」


 まぁ、まだ薦められことそのものがないから飲んだことないけど。


「来ればわかる!」


「ショッピングモールのCMですか!」


「いまなら、無料サービス付き」


「いままでにないくらいの怪しさ! 絶対行かないですよ、そこ!」


「なにが無料になるかは、当日までのお楽しみ!」


「なんですか、その恐怖のサプライズ無料キャンペーンは! 絶対にヤバいものを掴まされる気がします!」


「安心しろ、葉っぱと薬がメインだ」


「ダイレクト! もろアウトじゃないですか!」


「気分が落ち着いたり、元気になるって評判です!」


「お巡りさ〜ん! 助けて〜!」


「英語で言えばヘルプ!」


「あなたは、ギルティーです!」




 閑話休題、収拾つかなくなってきた。




「だからちゃんと説明して下さい!」


 はっきりいって振り出しに戻った気分であるがしょうがない。説明しようではないか。


「だからさぁ」


 といって俺は上を指差す。


「? 上がどうかしたんですか?」


 そして今度は手を開いて手のひらを上に向ける。そして、手のひらの上に落ちるものは・・・












「あっ、それって」


「ついに降り出したか」


 雨が降り始めた。別に最初からそれだけである。








 ***






 その後、とりあえず濡れるのはまずいということで、元来た道を引き返し、また我が家に帰って来た。ほんでもって、身体が濡れた彼女にシャワーを貸している。そして、現在に至るというわけだ。


 ・・・気付いていたなら最初から言えってか。それこそ若気の至りってやつだろ。


 若気の至りと言えば、この家には俺と年ごろの女の子しかおらず、その女の子は今、ちょうどシャワーを浴びている真っ最中なわけである。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 今この家には、微かにシャワーを浴びる音以外はなにも聞こえない。


 ・・・ふう。うーん。さて。よし。そうだな。















「無理に決まってんだろ!こんちくしょー!」


 ご近所さんごめんなさい(いないけど)。また、盛大に叫びました。はいはい、どーせヘタレですよ、俺は。あんな宣言しといてな〜んもできないガキですよ。笑いたければ笑うがいいさ。


 ・・・俺、ひとりで何やってんだろ。ほんと悲しくなってきた。なんかよ、みんながよ、生きてりゃいいことあるって言うけどよ、そんな都合良くいいことがよ、転がってるわけな・・・













「どうしたの! 大丈夫? 急に叫んだりして」



 転がってるもんだわー。神様ありがとう、生きてて良かった。だって思わないでしょ、まさかそのまま飛び出してくるなんて。


「どうしたのそんな顔し・・て・・・」


 彼女は自分の現状に気付いたみたいで、赤面して身体を隠すと、キッとこっちを睨み付けて・・・


「なにか、言い残すことはありますか?」


 おやおや、激おこのようですね。言うこと? そんなのひとつしかあるまい。


「我が人生に一片の悔いな「心配してあげたのに! 最低!」」


 俺の渾身の最期のひとことは、彼女のスナップのきいた実にいいビンタで遮られた。


 ・・・せめて最後まで言わせて。最期だけに。そんなくだらないことを思いながら俺の意識は薄れていった。





 ***





「はっ!」


「気が付きましたか?」


「ここはどこ? 俺は魚ノ目」


「なんで名前は覚えてるんですか」


「軽いジョークだ」


「本当に忘れたらシャレにならないんですから、やめてください」


 彼女は申し訳なさそうに言った。


 ・・・ふん、ここをベタにするわけにはいかないようだな。まぁ、記憶喪失は頭を強く打ったときと相場は決まっているし、大丈夫だろう。


「大丈夫ですか? 顔、痛みませんか?」


 そう言われて俺は頬をさする。まだちょっとだけ痛いが、これなら許容範囲だ。


「大丈夫だ。いや、あんなの俺が完全に悪かったんだから、気にすることないって」


「でも、勝手に飛び出して来たのは私だし・・・」


「いやいや、それだって俺を心配してのことなんだろ。だったらその気持ちだけで充分だよ。ほんと心配してくれてありがとう」


「そんな、お礼なんて」


「いや、当然だって。だからな、この話はもう終わりにしようぜ」


「はっ、はい。なんか、ありがとうございます」


 彼女は満面の笑みを浮かべてお礼を言って来た。


 ・・・なにこのいい子。えっ、あれですか、俺はこの子のを見たんですか。この子に対して邪なことを考えたんですか。神に感謝したんですか。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


「どうしたんですか! 急に! 大丈夫ですか!」


 また、叫んだ。俺もうこのキャラ定着しつつあるな。


「なんか生きててすいません」


「一体全体どうしたって言うんですか!」


「気にしなくていいよ。そのまま、真っ直ぐ育ってくれ」


「急にお父さんみたいなこと言い出してどうしたんですか」


「いいんだいいんだ、ちょっとばかし神をぶん殴ってくるよ」


「ほんとにどうしちゃったんですかぁぁぁぁ」


 なんか最終的に彼女の方が叫んじゃった。




 閑話休題その2。

 実は脱線そのものはしていないというのになぜこうなる。



「でもこの家広いですよね」


 確かにその通りだ。はっきり言ってひとりで住むには有り余る広さだ。


「部屋も腐る程あるしな」


「へぇ〜」


 この家の間取りを説明すると、まず1階にでかいリビングと用具の揃ったキッチン。ひとりで入るには充分過ぎる風呂場等、他洗面水回り。2階には、個人で使える部屋がいくつもある。あと、トイレが各階にひとつずつの計2つ。さらに、屋根裏部屋まである。うちの両親は旅館でも始めるつもりだったんじゃないかってくらい、この家は広い。


「だから、ひとりやふたり人が増えたくらいでは、別にどうということはないんだ」


「えっ、でも親御さんは?」


「どうせ、滅多に帰ってこない。現にこの家が建ったときもだ、最初の確認のとき以外足を踏み入れてすらいないんだぜ」


「そうなんだ・・・」


「そういうこと」


「でも、そのわりにはよく掃除されてるよね」


「親が家にいないと子供の家事スキルは上がるもんだ。それに、俺結構ヒマだしな」


「そっか。でも、やっぱり迷惑なんじゃ・・・」


 彼女は顔をうつむけてしまった。


「・・・・・・かもな」


「!! ・・・そうだよね。やっぱり迷惑・・・」


「あのまま、あそこに住まれるとすごい迷惑だな」


「・・・えっ?」


「あんなところに誰か住んでいるって考えたら心配で夜も眠れねえ。だからすごい迷惑だな」


「・・・魚ノ目君」


「だからここに住めよ。遠慮なんていらねえぞ。家に部屋は有り余ってるし、うちのバカ親は金だけは持っていやがる。だからな、なにも心配する必要はねえぜ」


 そう言うと彼女はクスッと笑って、


「嘘付き、心配することあるでしょ」


「えっ? なんだそれ、なにかあるんだったら言ってみろよ。俺に出来る範囲でなんとかするぞ」


「じゃあ、お願いしちゃおっかな。今回だけ」


「今回だけなんて言わないで何回でも頼んでいいんだぞ。で、なんなんだ?」


「じゃあ、お言葉に甘えて」


「よし来い!」


「お願いします、守ってください」


「え? なにを?」


「そんなの決まってますよ」


 あれ? もしかして、まさか・・・















「貞操です♪」


 はは、やっちまった。こんなの、


「はい、っていうしかねえじゃねえか。こんちくしょーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」


 まーた叫んじまった。ほんと叫びキャラ確定じゃねーか。でもよ、案外叫ぶのも悪くない。そう思えてきたぜ。



 ともかく、俺の家に奇妙な同居人が誕生したってわけだな。



 これからどうなるのやら。やれやれだぜ。






 ***





























 夜の街。現代においてもそれは未だに妖艶な輝きを魅せる。


 そんな情景を高いビルの摩天楼から見下ろす少女がいた。きっと彼女を見た人々は、なぜそんなところに、という疑問を真っ先に口にすることはないだろう。


 こう言うはずである、「何者だ」と。


 その理由は彼女の見た目にほかならない。


 彼女の背中には一対の羽が生えている。


 彼女は笑う。


「見つけた」


 求めていたものを探し当てたよろこびゆえに。


 彼女は再び夜の街に文字通り飛び立って行った。







作者はギャグパートは真面目な顔で、シリアスパートではニヤケ顔で書く天邪鬼です。


なので、最後のシーンはほとんど爆笑しながら書きました。

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