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2 ぬるぬるな帰宅/ベタベタな同居

 




「スライムです」






 この一言でまた混乱した俺は、どういうことだ? と聞こうとした。しかし、ちょうど見回りに来た守衛のおっちゃんに屋上から追い出されてしまい、仕方なく帰ることにしたわけだ。


 だがなぜか彼女は付いて来ているわけで、現在に至る。


「なぁ、なんで付いて来るんだ?」


「えっ? それは、こっちが帰り道だからですよ」


「嘘をつくな。こっちには俺の家しか無いはずだ」


「嘘なんかついてないですって。本当にこっちに住んでいるんですよ」


 バカな。じゃあ一体全体何処に住んでいるというのだ。


 そう思って彼女の顔をまじまじと見つめると・・・


「ちょっと、あぁあんまりジロジロ見ないでください。ははは、恥ずかしいですよ」


 そう言って彼女は赤面してしまった。いや、悪気はなかったんだが。


 しかし、改めてに見ると、やっぱりかわいい女の子だな。溶けた印象が強すぎて、あまりよく見てなかったが。髪型は肩にかかる程度のロングヘア。前にも言ったが胸もそこそこある。それ以外もしっかり締まった体型をしている。身長は、俺の肩くらいのところに頭がくるな。ちなみに俺の身長は、全国の男子高校生の平均身長という、まったく面白味のない身長をしている。まぁ、女子の平均身長なんて知らんから、彼女の身長が高いのか低いのかわからないけど。


「・・・いま、何か私に言えないようなことを考えてませんでしたか?」


「いいや、別に何も考えてない、何も考えてないぞ。むしろ頭空っぽなくらいだぞ」


「嘘っぽいです。待っていてください、いまその嘘を暴いてあげます!」


 まずいぞ、この状況は。しかし、どうやって嘘を暴く気なんだ?


「まず、汗をかいてください」


「ストッーーーープ!」


 最悪の方法だった。


「なんですか、これから私がきれいさっぱり嘘を暴こうというところなのに」


「その前に全てがきれいさっぱりなくなってしまいそうだよ! それは特殊な訓練を受けた優秀な幹部だけが出来るやつだから! 誰にでも出来ることじゃないから!」


「えっ! そうなんですか。てっきり魚ノ目君も、嘘をつくなのところで私の汗を舐めにくるものだとばかり思ってました」


「俺をなんだと思ってやがる」


「すぐ叫ぶ人」


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 忘れてくださいぃぃぃ! 急に叫んでごめんなさいぃぃぃぃぃ!」


 結局叫んだ。叫ぶしかなかった。






 ***






 閑話休題、脱線し過ぎだ。


「よし、一旦こっちに住んでいるという主張を認めるとしよう」


「だから本当ですってば」


「しかし、ここから先には俺の家しかないというのも事実だ。一体全体どこに住んでいるんだ?」


 そう、今言った通り学校から上に上がる道の先には、家はおろか建物一つないはずだ。


「えぇと、それはですね・・・」


 彼女が何か言いかけたときにちょうど、


「着いた」


 俺の家に到着した。


 ・・・どうすべきかなぁ、このまま帰っちゃってもいいのだが。しかし、彼女がどこに住んでいるのかが気にならないといえば嘘になる。


「池井さん、ちょっと」


「はっ、はいぃぃ!」


 俺の後ろで様子を伺っていた彼女に声をかけたらなぜか驚かれた。 あと、ちょっと溶けた。


「なっ、なんですか?」


「池井さんの家って、まさかこの先?」


「はっはい、そうですけど・・・」


 まじか、信じられん。この先は昼間でも薄暗く林、いや森になっていて、俺も行ったことがない。もちろん家があるとは思えない。


「・・・信じてませんね」


「まぁ、さすがにこればっかりは」


「・・・付いて来てください」


 そう言うと、彼女はどんどん突き進んでいく。


 ・・・付いて行くしかあるまい。






 ***






 真っ暗だ。ものの見事に真っ暗である。すぐ前を歩くはずの彼女を見失いそうなほどに。


 そういえば・・・


「なぁ、ちょっといいか?」


「えっ、なんですか?」


「さっき俺が声をかけたとき、すごい驚いてたけどなんでだ?」


「えぇと、それは・・・・・・」


 あれ? 俺なんかまずいこと言ったか?


「きゅっ、急に呼ばれたからで・・・」


「えっ、あっ、そういうことか。悪かった、急に呼んだりして」


「ちっ違うよ違うよ、そうじゃなくて、えぇとなんていったらいいんだろう・・・」


 ? なんだか歯切れが悪いなぁ。


「名前・・・」


「名前? 俺のか? 確かに変な名前だがよ、そんな驚くほどの名前か? 下は普通だし」


「べっ、別に変じゃないと思うよ。それと魚ノ目君の名前のことじゃなくて・・・」


 俺じゃない? じゃあ、この子の名前か? えっとだな確か・・・


「流美」


「ほぇっ! ははははいぃぃぃ、ななななんですかぁぁぁぁ!」


「で、合ってるよな、それがどうかしたのか?」


 うんそうだ、池井 流美で間違いないはずだ。他人の名前を間違えるのは失礼だからな。


「・・・・・・合ってますよ」


 あれ、なんか不機嫌になったぞ。あっ、そっか話がそれたからだな。よし戻そう、それで万事解決だ。


「で、結局なんで驚いたんだ?」


「もういいです。教えません」


「えっ、なんでだよ。なんかまずいこと俺言った?」


「知らないです」


 プイッと彼女が前を向く。なぜだろう、どうやら怒らせてしまったようだ。


「ほら、もうすぐ着きますよ」


 彼女が指差す。本当だ、道が開けてきたぞ。どうやら、目的地のようだな。


「ここです」


 彼女に続いて道を抜ける。その先にあったのは・・・






「神社?」


 めちゃくちゃボロい神社がそこにあった。







 ***






 俺は彼女の家に案内されたはずだ。しかし、眼前にはとても人が住めるような状況ではないボロ神社がある。


 ・・・だめだ、わからん。どういうことだ?もちろん導きだされる答えは一つしかないが、理解できない。結び付かない。こんなことが真実であっていいはずがない。


 俺は彼女の方に振り向く。彼女はいたずらがばれたような表情をしている。まるで、見られちゃったとでも言わんばかりに。


 信じられないものを見るような表情をする俺を見て、彼女は口を開いた。


「びっくりしましたよね。あまりにもボロいからあんまり見せたくなかったんですよ」


「あぁ、びっくりしたよ。はっきり言っておまえが溶けたときよりも、はるかにびっくりした」


「ちょっと大袈裟じゃないですか?」


「大袈裟なもんか!」


 また、叫んでしまった。すぐ叫ぶ人と言われてもしょうがないな。反省しなきゃな。


 だが、今だけは叫ばないわけにはいかなかった。だから反省はあとだ。


「一体全体どうやって寝泊まりしているんだ! 普通の人間には不可能だ・・ぞ・・・」


 神社の境内に目を向けると手水舎が見える。あそこだけ手入れが行き届いているためかコケ一つない。


 まさか、まさか、


「あそこで寝てますよ」


 彼女は手水舎を指しながら言う。


「私、寝るときは溶けちゃいますから」


 そうだ、普通の人間では無理。だが彼女ならどうだ。


「あそこだけ水漏れしないんですよ」


 スライムであって(・・・・・・・・)人間でない(・・・・・)彼女ならどうだ。


「うっかり地面に吸い込まれちゃったらどうなるかわからないですからね」


「寝るところがあったとしてもだ、他はどうしているんだ・・・」


 聞いちゃいけない、聞くだけ無駄だと知りながらも、俺は質問を止められなかった。


「お風呂は、大丈夫。私、スライムだから汚れないんです。ご飯については、そこの賽銭箱を見てください。壊れて中の賽銭が溢れていますね。バチあたりかもしれないけど、少しずつ借りてるんです。だから、基本的には一日一食、購買で済ませますね。トイレは・・・聞かないでくれると助かるますね」


 聞いたところで信じられるものじゃなかった。俺が築き上げてきたもの、信じていたものが崩れ落ちていくような感覚がした。


「なんでこんな生活しているんだ! そもそも親はどうした!一体全体何処で何やっていやがる!自分の娘を放っておいて!」


「いないですよ、たぶん」


 はっ?なんだ?今、絶対に聞きたくなかった言葉を聞いたような気がするぞ。


「捨てられたとかじゃなくてですね、最初からいないんだと思いますよ」


「それっていったい・・・」


「私、気がついたらここに倒れていました。その前の記憶とか一切無いんですよ」


「なにをバカなことを言っているんだ。それこそ嘘だろ。汗を舐めれば簡単にバレることだぜ」


「特別な訓練を受けた幹部しか出来ないんじゃなかったんですか?」


 そういやそうだったな。じゃあ俺には無理だな。残念だ。


「嘘じゃないんですよ。最初からこの制服を着てここに倒れていました。そしたら人が来て、その人が『席は用意してある。明日から来なさい。このすぐ下の学校の1年3組だ。ようこそ、池井 流美さん』って言って去っていったです。その人の言葉通りに学校に行ったら本当に転校生として扱われました。それは9月1日のときのことでしたよ」


 そうか、それで俺はこの子を知らなかったのか。転校生だったとは。そして今は、9月の半ば。彼女は2週間近くもこんな生活を・・・


「でも、大丈夫ですよ。そろそろこの生活も慣れてきましたから」


 嘘だ。汗を舐めなくてもわかる。よく見たら彼女はボロボロだ。制服だって、ほつれがひどい。


「えぇと、だからね、最終的になにを言いたいかっていうと・・・・・・気にしなくても大丈夫ですよってこと?」


「そりゃ、ずいぶんと無茶な相談だな」


「本当に心配しなくて大丈夫なの。ねっ、お願い!」


 彼女は両手で合掌を作り、前かがみになってお願いしてきた。世の健全な男子高校生のほとんどが無条件でお願いを聞いてしまいそうな見事なポージングだ。これを意識しないでやっているなら、彼女は大物になるだろう。かく言う俺も、普通のお願いならまずよろこんで聞いただろう。だが、今だけはそうはいかなかった。


「気にしないのは絶対に無理だな」


「本当に、私は大丈夫なの! 気にしなくて大丈夫・・・」


「だが心配はしない」


「えっ? それっていったいどういう?」


「心配をするのはおまえだよ、池井」


 困惑する彼女の前で俺は堂々と言い放った。













「これから一緒に住むからな。ちゃんと貞操の心配をしとけよ」


 彼、魚ノ目 孝助の人生において、おそらく過去最低で、最高にカッコつけたであろう宣言がここに誕生した。



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