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9 ぬるぬるな秘密/ベタベタなお願い

 






「・・・・・・」


「すーすー」


 ありのまま今起きてることを話そう。起きたら見た目小学生中身JKサキュバスがいっしょの布団の中にいた。なにを言ってるかわからねえと思うが俺自身にもなにが起きてるかわからない。俺の頭がどうにかなっちゃったんじゃないかと思いたいこの状況、ああ催眠術や超スピードであってほしい。


「うっ、う〜ん」


 布団というか毛布の中で、リサが身じろぐ。

 うちのベッドは無駄に大きい。「ベッドは大きい方がいいのよ。なにかとね」という、高校生の息子に話すようなことではないことを語尾にハートマークをつける勢いで以前母親が語っていた。さすがは海外を飛び回る育児放棄金持ちだけあって考え方が違う。


 しかし、今俺が寝ているソファーはそんなに大きくない。完全に2人は密着してしまっている。ベッド役に立ってねえじゃん。


 というわけで、俺は臭気判定師の資格が無くても犯罪臭が漂い過ぎて一発レッドを出されてしまうこの事態から脱出すべく行動を開始しなければ。まずは状況確認と・・・・・・


 と思って俺の腕に引っ付く様にして寝てるリサの方に顔を向けたが、これははっきり言って間違いだった。


「!?」


 俺はあまりに想定外の事態に驚きの声をあげかけた。







 なんとリサは服を着ていなかったのだ。


 え、ちょっと待って下さいよ。これは言い訳とか言い逃れが簡単にできるような状況じゃないぞ。さっきまでがレッドカードなら、こいつは赤ランプの車が直接ピッチに入ってきて即黒い手錠かけられるレベルだぞ。俺は無実なはずなのに。


 いや、まさか。身に覚えなんてないぞ。本当に何も起きてない・・・・・・はず。


 俺はリサの顔に目を向ける。そこには起きてる時のキリッとしたかわいさとはまた違うまるで子どものような、いや確かに見た目も子どもなんだけど、そんなかわいらしさがあった。縁側で横になって寝息を立てているのをを見れば、それはさぞ微笑ましい気分になるだろう。いや、金髪だから違和感もあるけど。


 しかし、その娘が生まれたままの姿で密着状態にあるなら話は別だ。身に湧き上がる感情はほっこりとした暖かい気持ちなどといった生易しいものなんかじゃなく、燃え上がる煩悩の炎だった。


 これはまずい。一刻も早く脱出しなきゃやばい。何もやましいことはないはずなんだけど、このままだと本当にやましい事実ができてしまいそうだ。しかし、俺の腕はその細くすらっと伸びたリサの腕に意外な力でがっちりホールドされていた。一体この細腕からどうしてこんなパワーがでるんだ。まるで絶対に離さないとでも言わんばかりに。


 そうしているとまたリサの腕に力が入り、今度は俺の腕だけでなくシャツまで掴んできた。やめろ、 変なとこ触んな! セクハラ禁止!


 とにかくこの腕を引き剥がすべくついに動こうとしたそのとき、リサは寝ぼけ言葉で、しかしはっきりと呟いた。





「パパ・・・・・・、ママ・・・・・・」


 そして頬を伝う一筋の涙。


「・・・・・・リサ、お前」


 忘れかけてたが、こいつは家出少女だ。誰の助けも借りれずにここまでひとりぼっちだったんだ。もしかしたら、ちゃんとしたとこで寝たのも久しぶりなのかもしれない。いや、ソファーなんだけど。


 俺は体を起こし、せめて涙くらい拭ってやろうと思ってリサの顔に手を伸ばして・・・・・・







「魚ノ目くん、リサがいないんですけど知りませ・・・・・・」


 池井が起きてきた。わーお、生活リズムが整ってますね。


「・・・・・・朝から裸のリサに覆いかぶさってなにをしてるんですか?」


 池井が光を失った瞳で見つめながら聞いてくる。あれ? あなたこういう時は慌てるキャラじゃありませんでした?


 しかしなるほど手で涙を拭うなら、片腕が使えない以上体を回転させて反対側の手を使うしかない。これを途中でやめると、今にも襲いかかろうとしてるように見えるわけですか。この様な誤解が生まれても仕方ありませんな。うーむ、納得、納得。


「・・・・・・んん。なんだってんだよ朝から、ってうわぁっ!」


 今の池井の声でリサも起きてしまった。


「おっ、おお。すっ、すまん今退くから」


 俺は慌ててリサの上から退こうとする・・・


 が、慌てすぎてソファーの下に転げ落ちてしまった。


 毛布といっしょに。


「・・・・・・あっ」


 そこには、今度こそ正真正銘生まれたままの姿のリサがいた。しかし、うまい具合に背中にはえた羽が大事なところをカバーしてる。


「リサごめっ、」


 羞恥によって顔を真っ赤に染めたリサに謝ろうと縋りかけた俺に対して、


「孝介のバカ野郎!」


 全力のビンタが飛んで来た。


 ・・・・・・今回は俺悪くなくね。あと羽さんマジナイス。


 そんなことを思いつつ、例によって俺の意識は遠のいていった。



















 ***
























「夜中になると羽を広げるクセ!?」


「ああ、クセっていうのはちょっと違う気もするけど、ほぼそれであってるぞ」


 俺はソファーに座りながら、なんとも奇妙な言い訳を聞いていた。ちなみに頬はまだちょっと痛む。


「へー、不思議ですね」


「うん、わたしらサキュバスの羽は外に出てるのがディフォらしくて、夜になると自然と出てきちゃうんだよ」


「でもなんで夜なんだ?」


「あれじゃないですか、夜は力が増す! みたいな感じなのかもしれません」


 池井は両手を大きく広げて説明してくれた。ファンタジーの世界とかで夜に魔力が増加するってのはテンプレ中のテンプレだからな。


「うーん、夢を壊すようで悪いけど、単に無意識だかららしいぞ」


 違うらしい。スライムとサキュバスな時点で夢としか思えない気もするけどな。


「へー、つまりボーッとすると羽が出てしまうってことですか」


「池井とは逆だな」


「そうですね。私はいつも落ち着いてますからね」


 そういってふんす!と、胸を叩く池井がさっきまで「ほへー」とかいう顔をしつつ、ちょっと溶けたりしてたのは内緒である。結局どっちでも溶けてるな。


「ん? でもなんでそれが俺が寝てるところに裸で潜り込むって結果になるんだ?」


「そっ、そんな言い方はやめろ! わたしが変態みたいだろ!」


「そうですよ魚ノ目君、セクハラですよ」


 普通に聞いたのだけなのに、指を差されてメッ、ってされてしまった。


「・・・はだ、いや服を着てなかったってのは、羽を広げるときいっしょに脱げた・・・んだと思う」


「え、じゃあリサはつい脱いじゃうクセを・・・」


「違うわ孝介! ちゃんと最後まで聞け!」


 リサは顔を真っ赤にしながら否定してきた。そんなに怒らなくても。


「普通に考えて、背中から羽が生えたら服が破れるだろ!」


 なるほど、確かにそうだな。今リサが着ている、肩ひもが細くて背中が大きく露出しているタイプのワンピースとかじゃなければ背中側の生地は破けちゃうだろうな。そういえば、今説明したこの服や現在池井が着てる服は大手ネット通販サイトMiturinn(ミツリン)で購入してさっき届いたやつなんだよなあ。


 俺は昨晩のことを思い出していた・・・








 ***








「魚ノ目君、なんですかこれ?」


 リビングに置いてあるパソコンを指差して池井が聞いてきた。


「え? 池井パソコン知らないのか?」


「学校にあるやつですか? こんな薄いのもあるんですね」


「そうだな、ノートパソコンって言うんだ」


「へー。で、これはなにができるんですか?」


「色々だよ、調べ物したり、表や文書を作ったり、動画を見たり、買い物を、した・・・り・・・・・・」


「急に黙ってどうしたんですか、魚ノ目君?」


「これで買えばいいじゃん!」


「急に立ち上がってどうしたんですか!」


「なんで思い付かなかったんだ! くっそぉぉぉ!」


「なんで思い出したように叫ぶんですか!」


「・・・まあ、詳しく理屈は後で説明するから、とりあえずこれで買おう。リサも呼んできて」


「はあ、そうですか・・・(魚ノ目君、急にやつれました?)」








 ***










 回想終わり。




「急に黙り込んでどうしたんだ、孝介?」


「いや、池井は機械オンチだなぁと思っただけだ」


「突然罵られました!?」


「そういえば、もう一個疑問があるんだけど聞いてもいいか、リサ?」


「しかも放置ですか!?」


「いいけど、まだなんかあんのか?」


池井、リサにもスルーされてる・・・


「いや、羽だけだと俺の毛布の中に潜り込んだ理由がわからないんだが・・・」


「あっ、そういえばそうですね。なんででしょう?」


「羽を開く理由と、開くときに邪魔だから服が脱げちゃうのもわかった。でもなんで俺の毛布の中に・・・」


「・・・・・・」


 あれ、黙っちゃったぞ。もしかして地雷踏んだ? サキュバス一族の触れちゃいけないところを踏み抜いたちゃったか・・・






 そうやって俺が身構えてると、リサは目をそらしながら口を開いた。


「・・・ぐっ、偶然じゃないのかな」


「・・・・・・は?」


「そっ、そうだな、きっとそれだ。寝ぼけて飛び回っちゃったんだよ。で、たまたま孝介の上に落ちたんだな」


「いや、リサそりゃいくらなんでも無理があるって・・・」


「いーや、きっとじゃなくて絶対そうだな! これ以外考えられない! それ以外の理由があるはずがない! だろ!」


 ガッとリサが詰め寄ってくる。


「あっ、はい。ソデスネ」


 勢いに押されてつい頷いてしまった。まあ、別段深く追求することでもないし、まあいっか。






「それじゃあ、例の神社にそろそろ行くか」


「そーだな! すぐに行こう、今から行こう、とっとこ行こう!」


 リサ、それじゃハム太郎だ。


「よし、じゃあ準備とかしないとな」


 そういって、俺はソファーから立ち上がって準備を始めたが、池井の小さなつぶやきまでは聞き取れなかった。


「・・・リサ、もしかして・・・・・」










 ***












 私、池井流美は準備をするリサに話しかけました。


「ねえ、リサ」


「ん、流美どうかした?」


 魚ノ目君が「神社に行く前に色々用意する物がある」と二階に消えたので、私とリサはふたりっきりです。


 だから聞いてみることにしたんですけど。


「魚ノ目君の毛布に潜り込んだ理由、本当はあるんでしょ?」


「!!」


 あ、ギクッとしました。


「・・・なっ、ないよ〜」


 目をそらしてます。口調も普段と違います。怪しい・・・


「リサ、それじゃあるのがバレバレですよ」


「・・・むー、だってあんまり言いたくないんだもん」


 ああ、頬を膨らませてしまいました。


「魚ノ目君にも?」


「あいつに言ったら絶対笑いやがる」


「じゃあ、私はダメですか?」


 そう問い掛けると、少し下を向いて黙ってから・・・


「・・・・・・えっと、耳貸して」


「はい、どうぞ」


 私はリサの身長に合わせて屈みます。


「・・・自分から言っといてなんだけどさ、耳の部分だけ貸すとかするかと思ってたから、しなくてびっくりした」


「ちょっと! 私をなんだと思ってるんですか!」


 スライムにも常識くらいあります!


「冗談だって。えっとね・・・」


「・・・ふむふむ・・・ええ!?」


「しー! 声が大きいぞ!」


「ごっ、ごめんなさい。でも、ほんとなんですか、それって?」


「うん、どうやらサキュバスの生態みたいなものらしいんだ」


「へー、不思議ですね」


 まさか、夢を見ている異性に寄っていく性質があるとは。淫夢を見せるのはサキュバスの特徴のひとつですけど、夢そのものにも寄ってくんですね。


「絶対孝介には言うなよ。どうせあいつのことだから、『金髪合法ロリのうえに無意識型ビッチとか属性盛り過ぎだろ!』とかわけのわかんないこと言い出しそうだ」


「あー、それは・・・」


 なんか納得しちゃいますね。というか、無意識型ビッチってなんですかね? 自動操縦型の親戚ですかね?


「流美、別にわたしは夢にのみ向かうんじゃないぞ」


「弱点もありそうですからね」


「ともかく! この話は秘密だぞ!」


「はい、秘密にしますよ。特に魚ノ目君には喋りません」


「絶対!」


「はい、絶対」


「・・・なんでそんな嬉しそうなのさ」


「えー、だってふたりだけ秘密とかなんか嬉しいじゃないですか」


「まあ、そうなるけどさあ・・・」


「大丈夫ですよ。私の秘密も今度リサに教えてあげますから」


「うーん、それなら・・・」


「ほらっ、私たちも支度しましょうよ。魚ノ目君が降りてきますよ」


「なんか丸め込まれた気がするなあ・・・」


「・・・それに、この秘密を魚ノ目が知ったとしても、きっと大丈夫ですよ」


「ええー。それじゃ、さっきと矛盾してんじゃん」


「まあ、最初は色々いうかもしれませんけど最後はカッコつけて、守り通す!とか言い出します。だから大丈夫ですよ」


「そんなに意気込まれても困るけどな・・・」


「そもそも、私たちそのものっていう大きな秘密を彼は守ってくれてますからね」


「それもそうかもな。あっ、だからってバラしちゃダメだからな!」


「はいはい、わかってますよ」


「ほんとだよなあ・・・。というかさっきより近くないか?」


「秘密を隠し通そうとするリサを見てたらなんかかわいく思えてきて、えい!」


「わわ、急に抱きしめんな!」


 おお、なんだか楽しくなってきました。


「なんだか魚ノ目君の気持ちがわかる気が・・・」


「あんな奴の気持ちなんか分からなくていい!」


 リサがジタバタして逃れようとします。


「・・・なんか、仲良くなってんな」


 魚ノ目君が二階から降りてきました。


「あっ、魚ノ目君」


「今だ! とりゃ!」


 私の意識か魚ノ目君にいったスキに、リサは私の腕の中から脱出しちゃいました。


「準備終わりましたか、魚ノ目君」


「あっ、ああ。じゃあ、行こうか」


「はい、行きましょう!」


「今度はリサじゃなくて池井の方がテンション高くなってる? なんでだ?」


「まあまあ、気にしないでレッツゴーですよ」


「孝介、わたしは疲れたぞ・・・」


「いやなんで出発する前から疲れてんだ?おぶってやろうか?」


「子ども扱いすんにゃー!」


 リサが両手をあげて立ち上がります。ネコが獲物飛びかかるポーズにそっくりです。


「あ、復活した」


「ふふっ。ほら、二人ともふざけてないで出発しますよ」


「色々持ってきたからな。山だからなにがあるかわからんし」


「まあ、いざという時には魚ノ目君が守ってくれるんですよね」


「ああ、そりゃ・・・」


 そうです、魚ノ目君には色々と守ってもらわなければ。


「・・・・・・貞操とかね」


「ん? 池井、なんか言った?」


「いいえ、なにも!」


「そうか? じゃあ、神社に向かって出発だー!」


「「おおー!」」






 お願いしますね!









密林だったりアマゾンという言葉を聞いて、漢字の「木」を四つ並べてジャングルというジョークを思い出したりしてましたが、最初に密林で思い浮かんだのはモンハンの2ndGでした。


ちなみに、作者の中のアマゾンは地名やサイトではなくトモダチです。



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