表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

こんな夢を観た

こんな夢を観た「スイカ割り」

作者: 夢野彼方

 湘南の浜辺で、夏の風物詩、スイカ割りを始めたわたし達。

「むぅにぃ、お前の番だ」桑田がバットを渡す。後ろからは、志茂田が目隠しにタオルを巻いてくれる。

「バットを軸にして下さい、むぅにぃ君」と志茂田。わたしはバットを砂地に立てた。「回しますよ、それ、1かーい、2かーい、3かーい……」

「何回、回すつもりさ?」だんだんと目が回ってくる。

「いつもより、多く回していまーす」今日の志茂田は、やけにハイ・テンションだ。

 結局、50回も回されてしまった。立っているのもやっとだ。


「スイカはこっちな」桑田がわたしの両肩を持って、正面を向かせてくれた。

「ささ、1歩1歩、進んで下さい」志茂田がスタートの合図を切る。

 わたしは慎重に足を運びはじめた。熱い砂がとても気持ちがいい。

「このあたり?」わたしは聞いた。

「まだまだーっ」と2人の声。わたしはさらに数歩、前へ出る。

「ここ?」

「あと、ちょっと」

 もう一歩だけ踏み込んで、声のする方を振り向く。「ここかなっ?」

「そうそう、そこだ。一気に行けっ」桑田が大声で促した。

「いまこそ、鉄槌を下すのですよ、むぅにぃ君」志茂田のお墨付きだ、信用してもいい。


 わたしはバットを振り上げ、思いっきり叩きつけた。確かな手応えがあり、パッカンと割れる音も聞いた。

 それにもかかわらず、周囲からは絶望のため息が漏れる。桑田や志茂田ばかりではなく、浜にいる者すべてから。

「やっちまったな、おい」桑田が慌てて駆け寄ってくる。

「これは、これは。さて、どうしたものですかねえ」志茂田も、さっきまでの調子とはうって変わって、深刻そうである。 

 何をやらかしたんだろう、とわたしはおっかなびっくり、目隠しを外した。


 わたし達のスイカは丸いまま残っていて、そのすぐ脇で、真っ二つになった地球が転がっていた。中から餡こがはみ出してしまっている。

「誰? こんなとこに地球を置きっぱなしにしたのはっ」わたしは文句を言う。けれど、みんなして肩をすくめ、首を振る。

 ライフ・セイバーがやって来て、壊れた地球を前に、縦じわを寄せた。

「これ、君がやったのかい? とんでもないことをしてくれたなぁ。地球温暖化どころじゃないぞ、こりゃ」


「すみませんでした。スイカ割りをしてたんですけど、まさか地球が置いてあるなんて思わなくって」わたしは恐縮して言う。「とりあえず、こぼれた餡こを詰め直して、繕いますから、針と糸を貸して下さい」

「そうしてくれるかい? じゃ、そこの海の家で借りてくるから。ちょっとだけ、待っててね」

 わたしは地球の前にあぐらをかいて、餡こから砂を払い落とし始めた。

「おれ達も手伝うから」桑田と志茂田も、砂の上にどっかりと腰を下ろす。


 ほどなく、さっきのライフ・セイバーがやって来て、裁縫道具を貸してくれた。

「夕暮れまでに終わるかな? ぼくもバイトなもんで、電車に乗って帰らなきゃならないんだ」

「ええ、たぶん、大丈夫だと思います」わたしは答える。裂け目は、太平洋のど真ん中を、北極から南極にかけて、ほとんど一直線だった。ちくちくと縫い合わせていけば、さほど苦労せずに仕上がると思う。


「やれやれ、とんだスイカ割りになったな」桑田は餡こを詰め込みながらぼやいた。

「まあまあ、桑田君。そこだっ、叩けっ、なぁんて煽ったのは、ほかでもない、我々なんですから」そう、大人の対応を見せる志茂田。

「それにしても地球って、なんてあっけないんだろう。これじゃ、毎日びくびくしながら生きていかなくちゃならないよね」

 わたしは少しだけ、憂鬱な気分になった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ