こんな夢を観た「スイカ割り」
湘南の浜辺で、夏の風物詩、スイカ割りを始めたわたし達。
「むぅにぃ、お前の番だ」桑田がバットを渡す。後ろからは、志茂田が目隠しにタオルを巻いてくれる。
「バットを軸にして下さい、むぅにぃ君」と志茂田。わたしはバットを砂地に立てた。「回しますよ、それ、1かーい、2かーい、3かーい……」
「何回、回すつもりさ?」だんだんと目が回ってくる。
「いつもより、多く回していまーす」今日の志茂田は、やけにハイ・テンションだ。
結局、50回も回されてしまった。立っているのもやっとだ。
「スイカはこっちな」桑田がわたしの両肩を持って、正面を向かせてくれた。
「ささ、1歩1歩、進んで下さい」志茂田がスタートの合図を切る。
わたしは慎重に足を運びはじめた。熱い砂がとても気持ちがいい。
「このあたり?」わたしは聞いた。
「まだまだーっ」と2人の声。わたしはさらに数歩、前へ出る。
「ここ?」
「あと、ちょっと」
もう一歩だけ踏み込んで、声のする方を振り向く。「ここかなっ?」
「そうそう、そこだ。一気に行けっ」桑田が大声で促した。
「いまこそ、鉄槌を下すのですよ、むぅにぃ君」志茂田のお墨付きだ、信用してもいい。
わたしはバットを振り上げ、思いっきり叩きつけた。確かな手応えがあり、パッカンと割れる音も聞いた。
それにもかかわらず、周囲からは絶望のため息が漏れる。桑田や志茂田ばかりではなく、浜にいる者すべてから。
「やっちまったな、おい」桑田が慌てて駆け寄ってくる。
「これは、これは。さて、どうしたものですかねえ」志茂田も、さっきまでの調子とはうって変わって、深刻そうである。
何をやらかしたんだろう、とわたしはおっかなびっくり、目隠しを外した。
わたし達のスイカは丸いまま残っていて、そのすぐ脇で、真っ二つになった地球が転がっていた。中から餡こがはみ出してしまっている。
「誰? こんなとこに地球を置きっぱなしにしたのはっ」わたしは文句を言う。けれど、みんなして肩をすくめ、首を振る。
ライフ・セイバーがやって来て、壊れた地球を前に、縦じわを寄せた。
「これ、君がやったのかい? とんでもないことをしてくれたなぁ。地球温暖化どころじゃないぞ、こりゃ」
「すみませんでした。スイカ割りをしてたんですけど、まさか地球が置いてあるなんて思わなくって」わたしは恐縮して言う。「とりあえず、こぼれた餡こを詰め直して、繕いますから、針と糸を貸して下さい」
「そうしてくれるかい? じゃ、そこの海の家で借りてくるから。ちょっとだけ、待っててね」
わたしは地球の前にあぐらをかいて、餡こから砂を払い落とし始めた。
「おれ達も手伝うから」桑田と志茂田も、砂の上にどっかりと腰を下ろす。
ほどなく、さっきのライフ・セイバーがやって来て、裁縫道具を貸してくれた。
「夕暮れまでに終わるかな? ぼくもバイトなもんで、電車に乗って帰らなきゃならないんだ」
「ええ、たぶん、大丈夫だと思います」わたしは答える。裂け目は、太平洋のど真ん中を、北極から南極にかけて、ほとんど一直線だった。ちくちくと縫い合わせていけば、さほど苦労せずに仕上がると思う。
「やれやれ、とんだスイカ割りになったな」桑田は餡こを詰め込みながらぼやいた。
「まあまあ、桑田君。そこだっ、叩けっ、なぁんて煽ったのは、ほかでもない、我々なんですから」そう、大人の対応を見せる志茂田。
「それにしても地球って、なんてあっけないんだろう。これじゃ、毎日びくびくしながら生きていかなくちゃならないよね」
わたしは少しだけ、憂鬱な気分になった。