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一人と一匹?で

ばらしてしまうと小説タイトルが思いつかなかったため仮題のままなんです。後で変えようかと思ったけど、考え付かない。

もうこのままで良いかな。

今回はファンタジーらしく、人外生物との交流です。


 『何を探している?』

 直接に脳に響くような声で問われる。

 「植物の図鑑がないかと思って」

 目の前に広がる本棚を眺めていた愁は自分の左前やや下に顔を向け答えた。

 『そうか。では向こうの本棚だ』

 そう教えて先導するように前を歩きだしたのは漆黒の黒豹に似た獣。足音なく前を進む彼は、煉夜がつけた幻獣と呼ばれる種族。煉夜と契約により共にあるもので、主である彼の命を絶対とするものだ。

 『この棚のどこかにあるだろう』

 「わかった、有難う」

 案内された棚に収められた本の背表紙を確認しながら、目的の図鑑を探す。意外と早くそれらしきものは見つかり、何冊か手にとってよさそうなものを物色する。挿絵が付いた分かりやすそうなものと、より詳しいものを選ぶ。その間大人しく待っていた幻獣が決まったらしいのを察して呼びかけた。

 『他に見たい本はあるか?』

 それに考えるようにしてから愁は答えた。

 「地理の本が何処にあるか教えてもらって良いだろうか」

 『地理?』

 幻獣が訝しげに問う。

 「各地の気候や山川、海陸、都市や交通などの状態を指す言葉なんだけれど此方では使わないか」

 愁が使う言語や文字に対する知識は、友人である煉夜から記憶の一部を移して貰い受けたものらしい。 そんなこと出来るのかと思うが、実際に煉夜が額を合わすようにして何か言ってから言葉が分かるようになった。そのため信じるしかないだろう。だから言葉が出ると言うことは存在する概念と思ったのだが、愁の世界に居た煉夜だから知っていたのだろうか。

 『いや、我が知らない言葉なだけだ。そういう内容であれば向こうにあったはずだ』

 彼が納得したように頷いて案内してくれる。

 『愁殿は随分熱心だな』

 貸出に必要な作業を終えて自室に向かう道すがら言われ、愁は苦笑する。

 「そういうわけではないよ。ただ暇だから。調べるのも興味があることだけだ」

 ゆっくりとした速度で足を進めながら、回廊から見える庭の景色に眼を細める。

 『そうなのか。時間を持て余すようなら侍女たちが話し相手になってくれるのではないか』

 首を傾げて問われ、どう言えば良いか迷って結局率直に答えた。

 「俺の元居た世界では貴族も王も居なかったから身分制はなかった。傅かれるのは慣れていないんだ。 普通の人は、金銭による等価で何かをしてもらうことはあっても子供以外自分のことは自分でやるものだったし、家事を家族に任せることはあるけれど、服を着るとか風呂までしてもらうことは普通ない。だからあまり彼女たちと一緒にいると疲れる」

 『なるほど。確かにこちらでも貴族や王家以外はそうだ。彼らがいきなり傅かれたら困惑するだろう』

 愁の軽く倍以上を生きる彼は、理解をみせる。

 「そう。それに、今はこんな格好でも元は男だから女性の話はわかりづらい。感性が違うから共感できないし、彼女らが勧めることは大体が俺の興味とは異なる」

 移り変わる話の流れについていけないし、誰と誰が付き合っているという噂話を聞かされてもどう反応すればいいか分からない。お茶だとか髪の手入れや刺繍に興じる趣味はない。愁付きの侍女は莉黎を含め三人居るが、必要最低限に構われたくないと思う。

 『それも分かる気がする。愁殿』

 足を止め呼ばれ、金色の瞳と見つめ合う。

 『やはり今の姿でいるのは苦痛だろうか』

 確かめるように愁を見ながら彼は問う。

 愁は立ち止まって向かい合いながら正直な気持ちを伝える。

 「苦痛を感じないと言えば嘘になると思う。けれどこの姿でいることが此処に居るために必要ならば我慢できる。それぐらいのものだよ。」

 かなり不便だし、問題もあるが割り切ろうと思っている。

 『正直我には愁殿の気持ちはわからない。我に見えるのはそのもの自身の魂の有り様で、性別は大した意味をもたない。けれど、人と我らは違う。形を曲げられれば痛みを感じるものなのだろう。我は愁殿を苦しめたいとは思わないし、主も案じている』

 分からないと告げながらも気遣う言葉にうれしいと思う。最後に言われた友人の懸念には苦笑する。煉夜がずっと気にしているのは分かっていた。会うと時折何か言いたげにこちらを見る。結局何も言わないままだけれど。

 「ありがとう。俺は物好きではないからこの姿になってまで此処に居たいとは思わない。向こうでの生活もあるし冒険心旺盛というわけでもないし。お人よしでもないから俺を必要としているのが煉夜でなければ此処に来もしなかっただろう。だけど、実際は呼ばれた理由はあいつだろう、だから仕方ない」

 友人が困っていれば手を貸そうという思いぐらいは持っている。

 『自身の痛みは我慢してか』

 問いにわらって、屈みこむと同じ目線になる。獣相手ならば危険な行為だが、知性ある主持ちの幻獣にあっては主人の友人を傷付けるはずがない。それに友人を大切に思う相手だから愁も正直に伝えたいと思う。

 「煉夜は俺に傍に居てくれとは言わない。でも帰れとも言わない。だからまだ帰ってはいけないと思う」

 ゆっくりと言葉にしながら考えていることを表す。

 「大丈夫なら帰るよう、煉夜なら言うはずだ。でも言わないから今はまだ離れたくない。弱音は言わないだろうから大丈夫になるまで付いて、時々休ませて、離れて良いと俺が思うまで此処に居る。今は放っておくと危うい気がする」

 何がというわけじゃない。強いて言うなら表情や視線が出会った頃を思い出させる。

 『……そなたが主の友であることに感謝する』

 ぽつりと呟かれた言葉には何も答えず、金色の瞳を見つめる。知性ある金色の瞳は、月に似て冴え冴えと輝いて、見るものに見透かされたような気持ちを与える。彼に『夜』と名づけた友人の気持ちが分かった気がした。




読んでくれる人がいたなら良いと思います。


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