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くつろぎすぎだと思う

 友人は困っているはずです。くつろいでいますが。


 「煉夜?」

 そっと呼びかけても反応の無い友人に苦笑する。

 額にかかる白銀色の髪をよける。

 さらさらとした手触りの髪は日本人の愁には珍しい色あいで極自然に綺麗だと思う。此処では茶髪や赤、亜麻色はもちろん、紫紺や緑、橙など珍しいを通り越して向こうではありえない程、髪色が多彩だ。 それでも、友人贔屓かこの白銀が一番だと思う。

 普段は触れることのない髪を弄りながら息を吐く。

 まさか友人それも男を膝枕する日が来るとは思いもしなかった。それも、なんとなく慣れてしまったのが哀しい。

 今は体の構造上で言えば間違いなく女性と言えるのだけれど。

 2年前姿を消した友人が異世界人で、皇子なんて何処の小説だろうか。おまけに異世界に渡った俺は何故か性別が逆転してしまった。そういった説明を全く受けてなかった俺は混乱を通り越して呆然とした。 力を持たない者が異界を渡る上での負荷がどうとからしいけれど、よくわからなかった。とりあえず理解したのは、此処に居る限り戻らないらしいこと。

 今身につけている服は白い踝までのズボンと膝までの長さがある同色の上着。女性用とも男性用ともいえないデザインだ。実際のところ言いたくないが女性用だ。動きやすいよう馬への騎乗時や、士官している女性が身につけるデザインの服らしい。こちらの女性はスカートというか簡易ドレスみたいな服装が一般的らしいけれど、俺はいつもこれで通している。さすがにスカートを身にまとえる程割り切れていないのと、動きづらいからだ。それでも、周囲からするとどう見ても俺は女性でしかないらしく女性扱いされるのが現状だ。間違ってはいないが、元の世界から俺を知っている友人煉夜の保護者、紫闇さんまで態度が変わっているのは何とも言えない気分を抱かせる。丁寧過ぎると言えばいいのか優しい扱いばかりで落ち着かない。

 煉夜は、はじめ戸惑っていたのか距離を測りかねていたようだが、今は慣れて良いように割り切っている。こちらとしても楽だけれど、体が女だからって、膝枕が気にならなくなるのはどうだろうかとおもうのだが。膝は固くないと思うけれど、所詮中身は男だ。

 異世界に渡る力に、話す獣、王族、身分社会、貴族、騎士。移動手段は馬や徒歩だし、着る服も町並みも中世のようで、向こうとは全く違う。

 そんな場所で暮らすことになって、2カ月たつ。向こうの冬に近かった季節も春へと移ろうとしている。何をするにも戸惑い、失敗していた俺も漸くこちらの生活に慣れてきた。それも一重に今膝の上で寝ている友人の気遣いと、心を砕いてくれる紫闇さん、世話をしてくれる莉黎さんらのおかげであろう。

 眠る友人の穏やかな寝顔を見ていると現状に対する不満や不安はいろいろあるのだが、まぁ良いかと思ってしまうから自分でも不思議だ。

 此処にきて初めて会った時の顔を思い出すとどうしようもなく哀しくなる。

 隙の無い冷静な表情だったけれど、一瞬泣き出しそうな顔をした。それを見たら何故紫闇さんが呼んだのかわかった。

 ここでの自分には何の力も知識も無い。それでも、こうやって彼の息抜きになることは出来るから。


 「愁さま」

 控えめに呼びかけられ顔を上げる。

 隣室から入って来た紫闇さんが二人の姿に瞬く。俺、藤沢愁は今の格好を思い出して膝の上の頭を落としかけ思い留まる。寝不足らしい相手にいくらなんでもそんなひどい事は出来ない。怒られそうだったという理由もある。

 「起こしたほうが良いですよね?」

 出来れば寝台で寝直させておきたいがそういうわけにもいかないだろうと尋ねる。

 「いいえ、そのままで。」

 微笑ましげに言われ、表情が崩れかける。そんな顔で見られても俺は男性ですよ、紫闇さん。わかっているはずの彼の態度に内心溜息が洩れる。

 「何か掛けるものを持って来ましょうか」

 問われて暫し考える。

 「そうした方が良いとは思いますけど、他人が入ってくると起きそうなので」

 この部屋でこういった事態になるのは初めてだが、彼が愁の自室に訪ねて来た時は、世話係の声だけで起きていた。今起きないのも、紫闇さんだからだろう。

 そう捕捉すると彼が笑みを深めた。

 「そうですか。では、私が取ってきます」

 そこまでしなくてもと思ったが、足早に踵を返してしまった。

 もう起こしても良いのではと気安い友人だからこそ愁は思う。

 煉夜をみると、五月蠅かったのか眉間にしわを寄せている。

 寝ている時までそんな不機嫌な顔をするなよと思いつつ、額に触れる。

 「此処で寝るお前が悪いのを分かっているのか」

 そう呟きつつ、額の皺を伸ばしてみる。しばらくそうしていると表情が再び緩んでいくのが分かって思わず笑ってしまう。

 「わがまま」

 そう言いつつ、頼まれたので愁は額から手を離して読みかけの本を開く。

 上掛けを手に帰って来た紫闇が見たのは、そんな二人の仲睦ましい光景だった。




あくまで、健全な友人関係です。煉夜は愁さんの性別が変わったのを幸いに、ぐだぐだしています。愁は複雑な気分ですが、なんだかんだ怒れない。

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