生成AIで声優の声を模倣しても削除すれば「逃げ得」なのか!? 声優や俳優の権利は生成AIからどう守るのか?
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は様々な作品で評価が高い人気声優の津田健次郎さんがTikTokの運営会社に対し、生成AIで自身の声を模倣した動画の削除を求めた訴訟で東京地裁は9月30日に「パブリシティー権」で保護されるとの初判断を示しました。
今回はこの裁判の判断についての解説と今後の声優の権利などについて個人的な意見を述べていこうと思います。
◇パブリシティー権について
質問者:
まず前提として津田さんがどういう経緯で提訴したのかがからないんですけど……。
筆者:
TikTokで津田氏の声と限りなく近いような声を無断模倣使したナレーションをAIで使い、都市伝説やオカルトをテーマにした動画を投稿していたアカウントがあったみたいなんです。
そのアカウントでは津田氏の声を使ったと思われるようなナレーションで2024年7月から2025年9月にかけて180本以上の動画を投稿し、フォロアー数は最大21万人、月最大50万円~75万円の収益を受け取っていたみたいなんです。
津田氏が憂慮し、訴訟を提起すると宣言したところ投稿していたアカウントは消滅し、動画も完全に削除されたものの、津田氏は訴訟を提起することをやめませんでした。
投稿者が不詳という事らしいので(TikTokが投稿者にお金を支払っているのであれば特定できないことは無いと思うのですが……)TikTokや投稿者に対して賠償金を請求するのではなく、津田氏は声優業界全体のための「パブリシティー権」のために訴訟を提起されたみたいなんです。
質問者:
その「パブリシティー権」っていうのはあまり聞き馴染みが無い権利なんですけど、一体何なんですか?
筆者:
https://www.businesslawyers.jp/practices/1480 こちらのサイトによると、
『パブリシティ権とは、たとえば、芸能人やスポーツ選手などの著名人の氏名や肖像が、商品の販売を促進する顧客吸引力を有する場合に、このような顧客吸引力を排他的に利用する権利を指します。肖像権は個人の肖像等のプライバシー的な側面を重視した権利であり、パブリシティ権とは保護法益が異なります。また、著作権は創作物の保護を目的とするため、そもそも保護の対象が異なります。』
つまり、著作権は作られた作品に対する権利なのに対して、パブリシティー権というのはどちらかと言うと著名な方に対するプライバシーや人格に関するものに近いようなんです。
質問者:
確かに、「声」に関しては著作物とは関係が無いので著作権では保護されないという事ですか……。
AIが普及し始めた今の時代だからこその争点という事なんですね……。
筆者:
声優の声をAIを使って勝手に使っていいともなれば、司会やアナウンスなどもAIがすることが増えていき、正直なところ仕事は大きく減ってしまう可能性がありますからね。
実際のところNPO法人「肖像パブリシティ権擁護監視機構」が実施した2025年度の実態調査によると、芸能人らの肖像や声を無断利用した疑いのあるSNSの投稿は延べ4万件以上、閲覧回数は約3億3500万回に上り、声優側による経済的損失は約20億〜45億円という試算までされています。
https://www.yomiuri.co.jp/national/20260625-GYT1T00333/
◇判決の内容について
質問者:
この裁判の争点と意義については分かったんですけど、今回の判決はどのような結果なのでしょうか?
筆者:
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUD262B00W6A920C2000000/
上の記事にあるように結果としては「請求は棄却」という判断になりました。
しかしこれはパブリシティー権を主張する側にとって見ると内容としては不利とは言えません。
『声についても著名人の財産的な価値を守る「パブリシティー権」で保護されるとの初判断を示した。』
とありますからね。
しかし、動画削除を求める裁判であったために「既に削除済みであるために棄却」という判断になったのです。
一方で原告側は津田氏の声と混同させて最大月50万〜75万円の収益を得ていたなどとして、不正競争防止法違反にも当たると主張もしていたそうですが、動画の削除について関係なしと見てか裁判所は判断をしませんでした。
ここまで聞くとあまり意味が無い裁判かもしれないと思われたかもしれませんが、現状の権利では守られないために今後新たな法整備や判決が待たれており、今回の判決はその第一歩になると見られているのです。裁判結果で法整備が進むことはありますからね。
◇判決の影響
質問者:
という事は、津田さんの裁判の目的は達せられたという事なんでしょうか?
「棄却」という言い方だと何だか原告側が負けたような雰囲気が出てしまいますけど……。
筆者:
基本的には津田氏としてはプラスと見て良いと思います。
このように訴訟されることを踏まえると勝手に声優の声を使う事に対して一定の抑止力にもなると思います。
ただし、今回の判決は声もパブリシティー権の対象に「なり得る」としただけで、本件のようなAI音声が侵害に当たるとは認定していません。
今回は動画が既に削除されていたため請求が棄却されているために、どこからがパブリシティー権侵害となるかも判断されていません。
またパブリシティー権が認められるようになっても、本人が死亡した後に権利がどうなるのか、死後も権利が認められても程度の期間保護されるのか? についても議論の余地があると思います。
動画を投稿した側は利益を享受した50~75万円の利益に対しては、特定が出来ていないことから損害賠償を請求していないので「勝ち逃げ」がこの判決のままであれば確定してしまうということも意味しています。
質問者:
なるほど……まだまだ課題が多い判決だという事ですか……。
似たようなこととして「絵」や「文章」もあると思うんですけど、それについてもこの「パブリシティー権」で保護されるようになるんでしょうか?
筆者:
それについては少し厳しいのではないかという見解が強いです。
今回の判決文に「人の声は、人の肖像と同様に個人の人格の象徴である」という一文があるんですね。
「絵や文章も、人の肖像と同様に個人の人格の象徴である」と解釈したいところですが、声は生まれながらにおおよそどうなるか決まるものの、絵や文章は後天的に獲得したものと判断される可能性が高いからです。
それなら「声優だって訓練を受けているじゃないか!」という意見もあると思うので、
ここら辺も議論の余地があるとは思いますけど、よっぽど他に無いほど特徴的で、個人とイコールになるぐらい認知されるぐらいのレベルで無いと絵や文章において権利を認めることは厳しいのではないかと言うのが僕の感覚としてはありますね。
少なくともパブリシティー権では保護されないと思いますので、著作権など他の権利になると思います。
それすらも完全マルパクリとAIが生成したものが認められる可能性は低いでしょう。データを読み込ませていることを完全に証明してもそれに基づいたかどうかまで分かりませんしね。
※ちなみに「小説家になろう」においては
『また、こうした外部連携は、前述の通りサービス改善や作品の発見・推薦、分析、商業化支援、クリエイター支援等の目的に必要な範囲で行うものであり、目的外での利用を認めるものではありません。加えて今回の改定は、当社・外部連携先が作品内容・展開を生成AI等に学習させて新たな作品を出力するといったこと等を行うためのものではなく、そういった内容についてユーザの皆様にご同意いただくものでは決してございません。』
https://blog.syosetu.com/article/view/article_id/5139/
とあり、少なくとも26年5月21日の最新の利用規約改定と公式声明では投稿作品が生成AIに活用されることは無いようです。
質問者:
なるほど……絵や文章が権利で保護されることは中々難しいんですね……。
◇今後の声優業界の悪い展望とその対策
筆者:
ここからは声優業界の悪い展望について話していこうと思います。
これはパブリシティー権で有名な方が保護されても厳しいのではないかという内容です。
質問者:
筆者:
まず、パブリシティー権について振り返ると、『著名人の氏名や肖像が』という前提条件があります。
つまり、「無名の声優」については含まれないんです。
そのためにこう言ったことが予想されます。
「新人枠のナレーション案件(単価数万円)」として募集し、利用規約や契約書の片隅に小さくに「収録音声の機械学習利用、派生AI音声の商用利用・二次利用を無制限に許諾する」といった条項を忍ばせるんです。 ※この条項が有効かどうかの議論の余地はあり
こうなると、実績や当面の生活費が欲しい若手声優は、将来そのAI音声が自分の仕事を永久に奪うかもしれないリスクを承知の上、あるいは認識すらできずにサインしてしまう可能性が高いと思うんです。
そうすれば少なくともその声優を使った業者は「AIによる無限使いまわし」が可能になってしまうんですよ。
質問者:
な、なんと……そんなことが起きてしまう可能性があるんですか……。
筆者:
しかし、無名声優とて専門学校を出ている方が多く、「大根役者」もいるかもしれませんが、多くの方は無名なだけで一定レベルの水準はあると思います。
そんな声が自由自在AIで生成できるようになって、しかもバリエーションが豊富になったらどうでしょうか?
今現在のAIの声はおおよそ判別がつきますが、生成AIの技術の精度が上がり、さらにバリエーションも増えたらもう区別が付かなくなると思います。
そうなると有名声優の方々とて安住の地に住めなくなります。
なぜなら、「高い金払うぐらいなら無名の安い生成AIで良いか」という感じになって徐々に有名な方であっても仕事が縮減していくと思うんです。
そもそも「〇〇のアニメに出ているから」という理由で知名度が高い声優の方々も、アニメ自体が「安いAI声優」だけで構成されるようになるかもしれませんしね。
質問者:
なるほど……コストをカットしたいですし、そうなると業界全体が縮小していくことに繋がっていくんですね……。
筆者:
ズバリ声優では無いのですが、肖像権の問題としてアメリカハリウッドでは2023年から「AI俳優」という事が問題になり、エキストラ俳優などが勝手に使われていることがあったそうです。
ハリウッドの俳優の労働組合であるSAG-AFTRAは2023年に賃金やロイヤリティ、年金などの労働条件の改善やAI使用に対する保護措置などを求めて118日にわたるストライキを行い、
バックグラウンド俳優(エキストラ俳優)に対する報酬の引き上げとAI使用に関して、俳優の生死に関わらず「事前の合意と公正な報酬を要求」することが3年間出来るようになりました。(26年11月に協定期限になるためにそれも注目)
これにより、10億ドル(1500億円相当)の価値があると判断されたそうです。
https://www.bbc.com/japanese/67400367
日本も、人格や声を生成AIで使うことは時代の流れによってやむなしとはしても、
AIで使った際に使用回数に応じてしっかりとロイヤリティを俳優や声優本人に支払うといった仕組みを公的なサービスとして事前に作っておく必要があると思います。(勿論違反したAIを作った場合はその企業が罰せられることも必要)
質問者:
確かに勝手に使われて1円も入らない状況だから問題なので、
AIに使われてお金が入ればあまり問題が無くなりますからね。
無名の方も一括で保護できるような形で事前に法整備をしておくことは大事ですね。
筆者:
ただ、日本の法律と言うのは「問題が本格化してから後付けでやる」ことが非常に多いです。
僕のように問題を指摘する人はチラホラ散見されるんですけど、ここまで先回りして国会議員が動いてくれる感じはありません。
今回の訴訟のようにその全然手前の「パブリシティー権が認められるかもしれない」と言ったレベルの非常に低次元な領域なのです。
もちろん、第一歩を踏み出さなければそれ以降もありませんからこの訴訟そのものには意義があるとは思っていますけどね。
質問者:
そう考えると本当に日本って法律関係で遅れていますよね……。
外国人問題も海外で先行して起きていることを参考に全然してくれていませんし……。
筆者:
前々から申していますけど、日本のマスコミは「政府からの指示」でもあるのか知りませんけど、「一定の範囲内」に収まっており、枝葉については報道しても問題の本質について伝えてくれません。
僕はなるべく問題の本質について僕なりに解説していきますのでよろしければ他作品もご覧ください。




