紅の魔女の怪異譚 歌姫の家
音羽視点
音羽が「魔女」を初めて見たのは、四月の終わりだった。
玄関先で母に手を引かれるようにして立っていたその人は、まだ十代のようにも見えたし、もっと年上のようにも見えた。表情がほとんど動かないせいで、年齢がうまく掴めない。前髪の隙間からのぞく目は、値踏みするようでも、何かを諦めているようでもあった。
「今後はこいつに生活の面倒を見させるから。よろしくね、音羽」
母はそう言うと、まるで宅配の受け取りサインでも済ませたような顔で自分の部屋に戻っていった。最近、母はずっとこんな調子だ。前はもっと笑っていた気がするのに、いつの間にか頬がこけて、目の下に濃い影ができていた。忙しいから、と母は言う。歌手のお仕事は大変なの、と。
音羽は九歳になったばかりだった。大人の複雑な事情はよくわからない。ただ、見知らぬ人が急に家に来て、その人が自分の「保護者代理」になるらしいということだけは理解した。
最初の印象は、正直あまりよくなかった。愛想がない。話しかけても「そうですか」とか「別に」とか、素っ気ない返事しか返ってこない。テレビを一緒に見ていても笑わないし、音羽が学校の話をしても相槌を打つだけで、感想らしい感想を言わない。最初の一週間は、少し怖いとさえ思っていた。
でも、何日か一緒に暮らしてみると、少しずつわかってきたことがあった。
この人は、冷たいわけではない。ただ、感情の出し方を知らないだけなのだ。
朝、音羽が寝坊しても怒らずに黙って弁当を作ってくれる。中身はいつも質素だけれど、嫌いなピーマンだけはちゃんと避けてくれていた。音羽が熱を出した夜は、表情も変えずに氷枕を替え続けてくれた。学校で嫌なことがあって黙り込んでいると、理由を聞き出そうとするでもなく、ただ隣に座って一緒にテレビを見てくれた。
母は家にいないことが多かった。仕事、と言えば聞こえはいいが、音羽はいつからか、それが本当に仕事なのか、それとも母が単に家に帰りたくないだけなのか、分からなくなっていた。代わりに家のことをするようになったのが、この無愛想な同居人だった。
そういう小さな積み重ねの中で、音羽はいつの間にか、彼女に懐いていた。「魔女」と呼んでいいのか分からなかったけれど、心の中では密かにそう呼ぶようになっていた。おとぎ話に出てくるような怖い魔女ではなく、ただちょっと不器用な、優しい魔女だと思っていた。
四か月が経った、ある夜のことだった。
音羽が喉が渇いて起き出すと、リビングの方から母の声が聞こえてきた。誰かと話している。夜遅くに来客なんて珍しい。訝しく思いながら廊下を進むと、母の声に重なるように、もう一つの「声」が聞こえてくることに気づいた。
それは、人の声というより――歌だった。
言葉になっていないのに、なぜか意味が伝わってくるような、美しくて、どこか痛々しい歌。耳から入るというより、頭の奥に直接染み込んでくるような感触があって、音羽は思わず足を止めた。
リビングの扉に手をかけようとしたその瞬間。
背後から伸びてきた手のひらが、音羽の口を強く塞いだ。
振り向く前に、体ごと引き戻される。抵抗する間もなく、廊下の暗がりに引きずり込まれていた。
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魔女視点
今回もひどい家に引き取られたな、と私は内心でため息をついていた。
親戚の間をたらい回しにされて辿り着いたこの家で、最初に母親から言われた言葉は「お金は自由にしていいから、娘のことよろしくね」だった。要するに、生活費だけ渡すから育児は放棄させてもらう、という宣言だ。聞き飽きた台詞だが、何度聞いても胸糞が悪い。
娘の音羽は、素直な子だった。母親から愛情らしい愛情をもらえていないくせに、それでも母親のことが好きらしい。健気というより、ただ他に縋る対象を知らないだけなのかもしれない。同情はするが、深入りするつもりはなかった。私の仕事は面倒を見ることであって、この家の問題を解決することではない。
――そう思っていたのだが。
この家に来て一週間もしないうちに、私はこの母親に纏わりつく「何か」に気づいていた。
最初は些細な違和感だった。リビングの空気の密度が、時々おかしくなる。人が立っているはずのない場所に、人の形をした「歪み」が見えることがある。輪郭のはっきりしない、それでいて確かに女性の姿をした何か。
厄介なことに知っている類のものだった。名前までは分からないが、系統は分かる。音楽的な才能と引き換えに魂を刈り取っていく類の存在。世間ではバンシーなどと呼ばれることもあるが、正確にはもっと深い、もっと厄介な系統に連なるものだ。私の神様とは相性が悪い――というより、単純に格が違いすぎる。
母親の経歴を調べてみると、案の定と言うべきか、若い頃に急激な「才能の開花」があったことが分かった。それまで鳴かず飛ばずだった無名の歌い手が、ある時期を境に、業界の誰もが認める歌姫に成り上がっている。周囲は努力の賜物だと持て囃していたが、私には別の答えしか浮かばなかった。
自ら望んで、対価を払ったのだろう。何を捧げたのかまでは分からないが、少なくとも「魂」の一部であることは間違いない。
母親の異常な才能と、日に日にやつれていく体。答えは明白だった。
四か月かけて、確証を集めた。そして今夜、ついにそれが「収穫」の段階に入ったらしいことを、リビングの空気の重さで悟った。
急いで向かうと、案の定、音羽が無防備にリビングへ近づこうとしていた。とっさに口を塞ぎ、廊下の暗がりへ引き戻す。
抵抗しながら振り返った音羽の目を見て、私は一瞬言葉を失った。
この子は、見えている。
リビングの中の「歪み」を、はっきりと視界に捉えている顔だった。九歳の、何の修行も積んでいない子どもが。
厄介なことになった、と思った。
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音羽視点
「あれは、バンシーの呪いと呼ばれるものですね」
翌朝、朝食の席で、魔女はそう言った。いつもと同じ抑揚のない声だったが、音羽にはその声が少しだけ疲れているように聞こえた。
「バンシーって、あの、悲鳴を上げる幽霊の……?」
「近いですが、違います。ヨーロッパ圏で広がっている詩に関する妖精の名前。
正確には、もっと別の名前を持つものです。歌や音楽の才能を代わりに与えて、その分だけ人の魂を少しずつ刈り取っていく。お母さんの才能は、あれのおかげで手に入れたものだと思います」
音羽は箸を止めた。母が特別な歌手なのは知っていた。テレビにも出るし、コンサートホールを満員にする人だと聞いている。でも、それが「化け物のせい」だなんて。
「なおせる……?」
魔女はしばらく黙ってから、短く答えた。
「今のところ、確実な方法はありません。あまり、期待しないでください」
その日から、音羽は自分なりに調べ始めた。学校の図書室、市の図書館、インターネット。子どもにできることは限られていたが、何もしないよりはましだと思った。
そして、学校の図書室の隅で、その本を見つけた。
誰も借りた形跡のない、革張りの古い本だった。棚のどこにあったのかもよく思い出せない。開くと、なぜかその一冊だけ、妙に目が離せなくなる感覚があった。
目当てのページはすぐに見つかった。
『バンシーの呪いの解き方――バンシーは、美しい歌を求める存在である。ゆえに、その者の前でより美しい歌を示せば、呪いは元の場所へと還っていく』
音羽は本を抱きしめるようにして、走って家に帰った。これで、お母さんを助けられる。息を切らしながら玄関を開けると、そこには険しい顔でこちらを見ている魔女が立っていた。
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魔女視点
学校の帰り道、周囲から遠巻きにされながら歩くのはいつものことだった。何かの拍子に「あの子、変わってる」という視線を浴びるのにも慣れている。
プラフェチーノでも飲もうと駅前のカフェに寄り、カウンター席で受け取ったカップを口に運んだとき、隣の席にすっと誰かが座った。
褐色の肌に、銀色の髪。年齢は音羽より少し上、私と同じくらいだろうか。同じ飲み物を注文する声が聞こえた。
なによりその美貌が際立つ、いっそ人間でないと言われた方が納得するような気配をまとった少女だった。
「また大変そうですねえ」
顔を向けずともわかる。また厄介なのが絡んでいる者だ。
「別の私が関わっちゃったんですよね。でも、燃やされると困るので、ちょ~っととりなしに来ました」
「あんたたち、今度は何したのよ」
うんざりした調子で言うと、少女――名は知らないが、便宜上「ナイア」とでも呼んでおく――は、悪びれる様子もなく笑った。
「私たちにとっては、才能って美味しいものなので。particularly、優れたものはね」
この手の存在に理屈を通じさせようとするだけ無駄だ。人間とは感性も尺度も価値観も違いすぎてあまり話にならない。
「あんたの言う『あれ』って、あの家の空間の歪みのことでしょう。母親に取り憑いてる、あの女神気取りの何か」
「厳密には眷属みたいなものですけどね。まあ、大元を辿ればそういうことです」
軽い口調で答えるナイアの目の奥に、一瞬だけ、底の見えない色が覗いた気がした。世間話のような顔をしているが、この手のものが本気で隠す気になったものを、私が見抜けるとは思わない。
「まあ、邪魔しても問題はないので」
ナイアはそう言って、ストローに口をつけた。
「好きに動いてください」
含みのある言い方だった。まるで、こちらが何をしても最終的な結果は変わらないとでも言うように。
私の胸元でペンダントが、微かに、不機嫌そうな熱を持った。私が契約しているのは、あの女とは系統も気質も違う。優劣の話ではなく、単に「気に食わない」だけなのだろう。神様というのは存外、人間くさい部分がある。
「ま、頑張ってください。応援はしてますよ、一応」
その「一応」が何よりも信用ならなかった。私は答える代わりに、残っていたプラフェチーノを一気に飲み干して席を立った。
まあ、言いたいことは分かるので反論をするつもりもなかったが。
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音羽視点
「――やめなさい」
音羽が解呪の方法を見つけたと報告したとき、魔女はひどく冷めた声でそう言った。
「なんで?」
「とにかく、だめです」
理由を聞いても、それ以上は取り合ってもらえなかった。音羽は納得できなかった。せっかく方法が見つかったのに。お母さんを助けられるかもしれないのに、どうして止めるのだろう。
最初は、何か大人の事情があるのだろうと思っていた。でも、日が経つにつれて、そんな悠長なことを言っていられなくなった。
母は日に日にやつれていった。頬はさらにこけ、目の下の隈は隠しきれないほど濃くなり、コンサートの本数もいつの間にか減っていた。今までは音羽に無関心なだけだったのに、最近は些細なことで声を荒げるようになった。テレビのリモコンの位置が違うだけで怒鳴られたこともあった。台所から食器の割れる音がすることも増えた。
音羽は、その全部を自分のせいだと思い込んでいた。自分がぐずぐずしているから、お母さんが良くならないのだと。夜、布団の中で声を殺して泣いていることに、魔女が気づいていないはずはなかったが、それでも彼女は何も言わなかった。
焦りが募っていく。魔女に何度訴えても、答えは変わらなかった。「だめです」の一点張り。理由も、説得も、何もない。音羽の中で、信頼と苛立ちが少しずつ均衡を崩していった。
だから音羽は、約束を破ることにした。
その夜、また例の「歌」が聞こえてきたとき、音羽は迷わずリビングへ向かった。廊下で待ち構えていた魔女に腕を掴まれても、振りほどこうと必死にもがいた。
「離して! お母さんが、お母さんがっ……!」
「だめだと言ったはずです」
いつも通りの声なのに、腕の力は強かった。もがいて、蹴って、それでも解けない。涙が滲んで視界が歪む。
「離してよ!何で、どうして!?」
「……はぁ。」
それはとても疲れたようなため息で、あぁこの人はお母さんの命なんてどうでもいいんだって、その時初めて分かった。
リビングの奥から、母の声が聞こえてきた。
最初はいつも通りの、何かに応えるような声だった。それが途中から、悲鳴に変わった。ヒステリックな叫び。そこから更に――恐怖に引きつった、初めて聞く種類の声に。
室内からは、母親の「裏切ったの!?」という悲鳴と一緒に、音が聞こえてきた。
それは荘厳で、不穏当で、不規則なリズムの、しかし奇妙な調和のとれた笛のような、女性の声のような音楽。
それが今や聞き間違いのない音量で音羽の耳に響いてきた。
頭上から、小さく呟く声が聞こえた。
「あぁ、ひどい音過ぎて頭痛い。」
なぜ?あんなにきれいな音楽なのに。
そう思っていると、その演奏のボルテージが上がっていく。それとともに母親の悲鳴も高まっていく。
音羽が暴れることも忘れて呆然としていると、耳元に小さな声で話しかけられた。
「私を恨んでもいい、憎んでもいい。でも、この音に惑わされてはだめ。よく聞きなさい。これは本当に『きれいな音?』」
そう言われて、反射的に耳を澄ませる。そして、その音は……。
先ほどの印象と違って、店舗外れな、頭蓋を揺らすような、ひどい音だった。
音楽自体は変わっていないのに、なぜあんなに素晴らしいと思ったのかわからなくなってくる。
しかし、それ以上そのことについて考えている暇はなかった。
その前に、曲はエンディングに近づいて行き……終わった。
最後は、絞め殺される鳥のような、短い悲鳴が、奇妙な達成感さえ与えるほど調和していた。
その後、リビングは静まり返った。
「終わったか。」
腕の力が緩んだ隙に、音羽は駆け出した。扉を開ける。ソファに座り込んだ母の姿があった。虚ろな目で、宙の一点を見つめている。
「お母さん……? お母さん!」
何度呼びかけても、母は反応を返さなかった。
音羽は泣きじゃくりながら母に縋りついた。その光景を、魔女は扉の陰から、ひどく痛ましい表情で見つめていた。
けれど、音羽がそれに気づくことはなかった。
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魔女視点
音羽の母親は施設に入ることになった。肉体は生きているが、魂の抜け殻のように、何を話しかけても一切の反応を返さない。医者は「原因不明の緊張病様症状」と首をひねっていたが、私には見当がついていた。
母親のいなくなった家に、九歳の子どもを置いておくわけにもいかず、私もこの家を出ることになった。荷物をまとめて、迎えの車に乗り込む。
実の父親に引き取られた、最後に見た音羽の顔を、しばらく忘れられそうにない。
「――人でなし」
震える声で、そう言われた。
言い返す言葉はなかった。事実、私は音羽の目の前で母親が壊れていくのを、止めるどころか手伝ったようなものだ。
あの子にとって私は、助けられたはずの母を見殺しにした化け物以外の何者でもないだろう。
「まあ、これしかなかったな」
車の窓に映る自分の顔を見ながら、そう独りごちた。
別に反省はしていない。若干心が痛いがそれだって……。
ふと、隣の座席に誰かが座っている気配がした。振り向くと、あのカフェで会った少女――ナイアが、当たり前のようにそこに腰掛けていた。運転手には見えていないらしい。
「いやー、惜しかったですね」
悪びれるどころか、どこか楽しげに笑っている。
「もうちょっとで、次の歌姫が誕生していたのに」
「それをしてたら、今度はあの子が死ぬだけじゃない」
ナイアはくすりと笑った。
「あなたなら、母親の呪だって解けたでしょうに」
それは甘い甘い、はちみつに砂糖を溶かしたような甘ったるい毒のような声だった。
「解いたところで、より悪くなるのは分かりきってたでしょ」
私は天井を見つめながらにべもなく答える。
「まあ、そうなんですけどね」ナイアは足を組み替えた。「あの母親、現代日本基準で言う『毒親』でしたし」
私は黙って続きを促した。ナイアは楽しそうに、種明かしを始める。
「あの『解呪』、正確には解呪じゃないんですよ。呪いの対象を移す儀式です。あちらの女神様――と言っていいのか分かりませんが、あれは美しい歌の持ち主に惹かれる習性がありましてね。より美しい声で歌えば、興味の対象がそっちに移る。母親は一時的に才能を吸い上げられるのをやめられる。でも代わりに――」
「娘が次の生贄になる」
「その通り」
音羽は母よりも、才能があった。それはあのバンシーが見えているあたりで察していた。あの類は感受性……言い換えれば才能、今回なら「音の才能」のある者にしか感じられないし、見えるなんて本当にレアケースだ。
だからこそ、あの女神は最初から、母よりも娘の方に強い興味を持っていた。母への「儀式」を足掛かりとして、移る気を虎視眈々とうかがっていたに違いない。
もし音羽があの場で歌っていたら、母は一時的に回復しただろう。だが同時に、娘の才能が露見する。母のことだ、いずれ嫉妬に狂って過干渉を始め、家庭はもっと歪んだ形で壊れていったはずだ。そして最終的には、音羽自身が次代の歌姫として刈り取られる番になる。
どちらに転んでも、母は救いようがなかった。ずっと前から詰んでいた話だ。強いて言うなら、詰んだのは彼女自身が招いたことだった。若い頃、自分の欲のために魂を切り売りした報いが、何年も遅れてやってきただけのこと。
ただ、娘だけはまだ間に合った。
だから私は、音羽を止めた。説明する時間も、説明したところで九歳の子どもに理解できる自信もなかったから、ただ力ずくで止めた。理由も言わずに突き放すやり方が、あの子をどれだけ傷つけるかは分かっていた。
それでも、真実を話して「じゃあお母さんの代わりに私が」などと言い出されるよりは、恨まれる方がまだましだと判断した。
我ながら、誠実さのかけらもないやり方だと思う。
「あなたにとっては、どうでもいい話でしょうけど」
私が言うと、ナイアは肩をすくめた。
「私からすれば、才能がどっちに転がっても構わないんですよ。面白ければそれでいい。むしろ、あなたが必死に娘を守ろうとする姿の方が、よっぽど見応えがありました」
悪意はない。ただ、心の底から、人間の悲劇も喜劇も同じ重さの娯楽として見ている。それだけの存在だ。
「それより」
私は窓の外に視線をやったまま言った。
「あんた、認識阻害使ってるんでしょ。タバコ頂戴」
ナイアは軽く笑って、どこからともなく高級そうな箱から取り出したタバコを寄越した。運転手からは見えていないはずだ。誰にも見咎められないのをいいことに、口に咥え、指先に無詠唱でわずかな熱を集めて火をつける。「せっかく高級なの用意したのに感慨もなしですか。」とあきれたような声が聞こえてきたが無視した。
煙を吐き出しながら、曇った窓の外の空を見上げた。
結局、自業自得。因果応報。回りまわった呪詛返し。
母親が身勝手な欲で契約した代償を、娘が壊れる形で払わされかけた。それを止めた私は、娘に「人でなし」と罵られる役回りを引き受けた。
それで私が、いつかどこかで同じような報いを受けることになったとしても。
まあ、それはそれ。
なにせ私は魔女なのだし。




