乙女ゲームに悪役令嬢は存在しないらしい
「乙女ゲームには悪役令嬢っていないんだよね」
「はあ」
親友のありさがそんなことを言い出した。
話は数分前に遡る。
「この世界は本当は乙女ゲームだと思ってるの、わたし」
「は?」
私の隣に座ったありさはスケート靴の紐をしばっている。
「あ、乙女ゲームってわかる?」
「わ、わかるけど…」
プレイしたことはない。だけどネット小説の舞台によくなっていたから知っていた。
「私、乙女ゲームのヒロインなんだよね、…あ、頭おかしくなったと思ってるでしょ」
「…ううん、続けて?」
「この世界って、乙女ゲームなんだよね、ほら、物語の中の人間は自分達が物語の中にいるなんて考えないよね、それと同じでみんな、そんなこと気付かないし気にしてないの」
「まあ、そうでしょうね」
「それで、私はこの世界に転生してきたの、ゲームの中に転生ってちょっとおかしいけど、ただにてるだけの世界なのかもしれない」
ありさが靴の紐を結び終わったが、まだ話を続けるらしい。私の方に近づいてきた。
「私ね、高校の時、めちゃくちゃモテたのね、まあ顔も可愛いし、有名だったから。学校でも有名なイケメンたちにね」
「なに、自慢?」
「まあ聞いてよ、それで、その人達みんな聞き覚えある名前だったから、思い出したら、それ、前世プレイした乙女ゲームのキャラだったんだよね」
「なに、前世の記憶ある系だったの、ありさ」
「そーなの、私、前世の記憶があるのよ」
にやりと笑うありさ。
「でね、その乙女ゲームはパラメーターを上げる式の乙女ゲームだったの。RPGみたいに賢さとか運動とかのパラメーターがあって、それにイケメンたちが惹かれてくるの。それで、頑張ればヒロインも何か才能を評価される事ができるの。どんな才能でもね。ヒロインは、金の卵だったのよ」
わたしね、とありさは続ける。
「前世もフィギュアやってたの。でも、結果は出せなかった。少し上手い人で終わっちゃった。努力はしてたわ。だけど、フィジカルが全然足りなかった。これは才能だから。それで、そのまま、病気で早死にして…、ここにいるの。」
悔しそうな表情だった。まるで、本当にそんな経験をしたみたいな表情。
「私は、今度こそフィギュアで頂点を取りたいのよ。だから、ヒロインの体が手に入ったのは願ったり叶ったりだった。この子の体はフィギュア向きよ。顔も小さくて、手足も長くて、間接が柔らかくて…。妖精みたいな体型で…。」
前世の私と全然違うの。と言った。
「私、ヒロインがこの体を返してって言ってももう返せないわ。だってね、どんなに努力しても手に入らなかったものがあるのよ。ねえ、アナスタシア、あなたは、もしそんなことがあったら、自分の体を渡せる?」
「渡せないわ」
だって、それでもここまで頑張ってきたのは自分なのだ。
「そうよね、だから、あなたにこの話をしたの…。」
「ねえ、悪役令嬢はなにに関係があったの?」
「ああそう、それはね…。あなたが本当なら、私のいた学校に来て、ライバルキャラになるはずだったから、悪役令嬢じゃなくてね。乙女ゲームには悪役の女キャラってあまりいないのよ。それに悪役令嬢って用語も伝わったし、あなたも転生者なのかなと思ったから、どう?」
ありさはにこっと笑った。天使みたいな笑顔。だけどその下には悪魔みたいな、競技への執念がある。
「…どうかしらね」
「とぼけるの?まあいいわ、でも私はね、あなたをヒロインのライバルだと思ってるから。氷の上でのね。ちゃんと向き合いたかったの」
私は言い返す。
「ヒロインね、まだ自分をそう思うのは早いんじゃない?私はこれまで互角だった。だけど、今回はそうはいかないわ」
こう言うと、ありさはいたずらっぽい笑みを浮かべて言う。
「ま、そうね。そもそも私、ヒロインとか悪役令嬢とか、そういう観念好きじゃないのよね、だって…。」
「みんな、自分の人生の主人公じゃない?」
そう笑うありさは確かにヒロインっぽかった。
「…そろそろ私の出番だわ」
「あ、そう。頑張ってね、アナスタシア!負けないけど!」
「ふん」
私もスケート靴を縛る。
ここは大きなスケートリンク。舞台はオリンピックだ。私達は今氷上で戦おうとしている。
「本当はね、ありさ」
「なに?」
「私も転生者なの」
「…そう」
ありさと違って好きなのは悪役令嬢ものだったけど。ヒロインが嫌いだったから。だって、恵まれているから。私は前世フィギュアをやりたかったけど、家にお金がなくてそのための機会すら与えられなかったから。だから、ヒロインが嫌いだった。
だけど、ありさに言われて気づいたのだ。誰だって誰かにとってのヒロインだったり、悪役令嬢だったりする。それが視点で変わるだけ。私にとっての悪役令嬢は…、いや。
「私にとってもあなたはライバルよ、ありさ。だけどー、負けない。」
彼女は悪役ではない。ただの対等な、私のライバルだ。
テレビでフィギュアやってて思いついてそのまま書いたのですが、知識がほとんどないので会話劇で終わってしまいました。ありさとアナスタシアはそれぞれ別の国のスケート代表選手で、いまぶつかるぞ!という設定です。分からなかったらすみません。




