初心
AIとの共同執筆です。
中堅冒険者レセフにとって、ダンジョン探索はもはや「単調な作業」と成り果てていた。
昨日と同じ廊下、昨日と同じ罠。予測可能な危機を淡々と処理し、素材を回収するだけの毎日。
「……今日の売り上げもまぁまぁかな。」
無事帰還し換金して寝て明日また同じことを繰り返す。
ダンジョンという危険地帯にあってもまた来る明日を彼は深く意識していなかった。ただ、心臓が動くのと同じ程度に、当たり前の「予定」としてそこにあった。
(今日は帰ったら何食うかなぁ。)そんなことを考えながら石畳を歩いていたその瞬間。
カチッという微かな金属音。
「――あっ……」
回避の跳躍も、驚愕の悲鳴も間に合わなかった。側壁から放たれた無数の杭が、彼の計算を、予定調和を、そして肉体を、無慈悲に貫いた。
「ぐはっ!?」
熱い。痛い。肺が血で満たされ、呼吸のたびに鉄の味が喉を焼く。
必死に傷口を抑えながら、彼は絶望的な恐怖の中で「生」にしがみつこうとした。
その極限のなかで、ふと、脳が異様な冴えを見せる。
長年、単調なルーチンに埋没していた「生の質感」が、死への階段という劇薬によって一瞬で鮮烈に蘇った。
(……あぁ、なんだ。この感覚。覚えがある…ああそうだ…冒険者になりたての頃は…毎日が楽しかったっけなぁ…。)
過去が走馬灯のように彼の脳内を駆け巡った。
初めての冒険。
まずは薬草採取から始めたっけ。
初めてのモンスター討伐。
今思えばすげー弱かったけど装備も貧弱で苦戦したっけなぁ。
初めて武器と防具を新調した時は嬉しかったなぁ。
仲間が死んだ時。
あれは辛かった…。
いつも飲む酒場の安酒。
どんな高い酒よりダンジョンから帰ってクタクタの体で飲むあのやっすい酒が…染みるんだよなぁ。
そしていつもエールを運んでくれるあの子。
結局告白しなかったなぁ………
いつの頃からだろう。
オレの心は「慣れ」という穏やかな劇薬を飲み続けることでいつしか枯れていた。
無感動。その言葉がオレの心の大半を占めていた。
(そうか…オレは…きっとこういう高揚感を求めていたんだ…。)
皮肉にも、自分の命を断つ罠だけが、彼から「作業員冒険者」という称号を取っ払い、本物の「冒険者」に戻してくれたのだ。
だが、そんな哲学的な感慨は、すぐに泥臭い本能に塗りつぶされる。
(……いや、でも、やっぱり死にたくねえな。もっと……あの店の女の子と、くだらない話をして笑いたかった…。帰ったら、告白しよう。あそこの屋台の、脂ぎった肉も腹いっぱい食いたかった……そうだ、今日の夕飯は屋台の肉にしよう。でもそんなことより…なんだか…眠く…なっ…てきた…な…。)
高尚な気づきなんていらない。ただ、あの退屈で、凡庸で、欲まみれで、それでいてキラキラ輝いていたあの「続き」が欲しくてたまらない。
「……あ、あ……」
レセフは、自分の中に芽生えた「一瞬の充足」と、それ以上に重い「浅ましい未練」を抱えたまま、どちらの決着もつけられずにただの死体へと成り果てた。
自分が何者で、何を求めていたのか。その答えに指先が触れる前に、レセフという世界は静かに幕を引いた。
誰に看取られることもなく。静かに。
ダンジョンはいつもの静寂を取り戻していた。




