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AIとの共同執筆です。
序章
その夜、十三歳の少年テオにとって、酒場の空気は少しだけ背伸びをした味がした。
初めての依頼を終え、慣れないエールを口に含んで顔をしかめていた彼に声をかけたのは、隣に座った年上の女冒険者だった。
「あら、坊や。そんな顔して飲むもんじゃないよ。酒はもっと、こう……笑いながら飲むもんだ」
彼女は快活に笑い、テオの拙い冒険譚を「へえ、すごいじゃん」と楽しそうに聞いてくれた。
テオはその夜、自分が少しだけ「本物の冒険者」になれたような気がしていた。
最高の日々
数日後、薬草採取の帰り道。夕暮れの酒場に、また彼女がいた。
「おかえり。無事帰ってきて偉いじゃん。今日は何があったの?」
その一言が、親のいないテオにとって、どれほどの救いになったか。
彼女は自分のことは多くを語らなかった。ただ、テオが話す「薬草の生えていた場所」や「途中で見た珍しい鳥」の話を、まるで宝物の話でも聞くように慈しんでくれた。
彼女と他愛のない話をしているうちに、あたりも暗くなり、自然とお開きとなった。
なんとなく名前を聞きそびれていたが、また次に会った時に聞けばいい。テオはそう思っていた。
「じゃあね。明日も早いからさ」
彼女が席を立った。テオは「またね」と手を振った。
喪失
三日後。ゴブリン退治の報酬を握りしめ、テオは勢いよく酒場の扉を開けた。
「あれ…?」
そこに彼女はいなかった。
「まぁ、いつでもいるわけじゃないよな。」
そういうこともある。
そう思い、彼は酒場を後にした。
翌日。
なんの気なしにギルドへ行きちらっと酒場を見たが彼女の姿はなかった。
翌日、また翌日、とテオは酒場に通ったが彼女がいつも座っていた席は、別の酔客に占領されていた。
それから二週間ほどが経った昼下がり。
何も注文せず、ただ入り口で立ち尽くすテオに、酒場のマスターが低い声で言った。
「あんちゃん、ちょっといいか。……お前さん、ここのところ毎日来てるようだが…あの子に会いにきてるんだろ?」
「はい、そうです。僕が前一緒に飲んでた、あの子は今日も来てませんか?」
「すまん。死んだ」
マスターは、テオの言葉を遮るように言った。
「……え?」
「あんたに会った次の日だそうだ。依頼を受けて街を出て、それきりだ。……どう死んだかは知らねえ。現場を見た奴もいねえし、遺体も戻ってこなかったらしいからな。ただ、ギルドの受付嬢からこれを預かってる。あの子、身寄りがなかったからよ…。」
マスターがカウンター越しに差し出したのは、泥で汚れた銀色のプレート、冒険者の生きた証——認識票だった。
そこには、テオがずっと知りたがっていた文字が刻まれていた。
『ミーナ』
たった三文字。
あんなに温かかった彼女の体温も、笑い声も、褒めてくれた言葉も、すべてはこの冷たい金属の板に収まってしまうほど、冒険者の死は小さく、ありふれたものだった。
テオは震える手でそのタグを受け取り、酒場の床にうずくまった。
喉の奥が熱くなり、視界が滲む。
「ミーナさん……」
初めて呼んだその名前は、賑やかな酒場の喧騒にかき消され、誰の耳に届くこともなかった。
G2311V
事案名:登録冒険者「ミーナ」ダンジョン捜索中に行方不明に。その後捜索隊に死体が発見され死亡認定。




