フィニッシュ・アザー
「おい、マーサはどの女神に選ばれたい?」
放課後、親友と呼ぶほどではない前の席の少し仲の良いオトミチ君に話しかけられる。
この年、僕らは18歳。18歳になると神社で女神様から様々なスキルを授かることができる。問題はどの女神様からスキルを貰えるかは『運』次第というところだ。
僕は目を輝かせながら答える。
「日の国65柱のアマテラスがいいな」
「お!いいね!!確かアマテラスのスキル『太陽』は体温が1℃上昇して風邪になりづらいとか!」
「それだけじゃないよ!レベルアップすればイーター(小さな太陽)でモンスターを殲滅できるんだよ!」
アマテラスを単なる風邪予防のように言われて少し腹が立つ。
「あれ?マーサは『ハンター』志望だったっけ?てっきり実家の食堂を継ぐものかと思ってたよ」
「あんなラーメン家は継がないよ……」
僕の実家は流行りの家系ラーメン屋である。
「だって、直系店で有名だろ?」
「違うよ!正確には直系ではないよ!父さんは本家を破門された王家家のシミーの元で修行してから独立したから家系四天王にも入っていないって……そんなことはどうでもいいの!!」
「お、おう……なんか、すまん」
家系ラーメンの歴史は複雑なのだ。
「あ、先生が来た!」
オトミチ君が慌てて前を向く。
教壇に立ったオータ先生は30代前半の美貌が武器の絶賛独身先生だ。
「はい、いよいよ明日は『スキル授与の儀』です。いつも言っているようにスキルはあなた達の人生を決める重要な儀式です。私のように女神ビーナスから『美貌』のスキルいただいても幸せになるとは限りません」
オータ先生はその美貌で数多の男性から想いを寄せられたらしいが、いまだに独身なことは学校の七つの怪談のひとつとして語り継がれている。
「まったく!このスキルのせいで男どもは全員フニャフニャになってしまうのよ!!どこもかしこもフニャフニャよ!!まるで使い物になりゃしない!!メデューサのスキルでもあったらカチカチだったかもね!!情けないったりゃありゃしない!!フニャフニャのチクワはお呼びでねぇ~っての!!!!」
激昂するオータ先生を怯えながらも学校の七つの怪談のひとつが解明されようとしていた……。
【次の日】
神社での『スキル授与の儀』は先着順で、規定時刻に着いた僕はすでにできた長蛇の列の最後尾に並ぶ。先に受けた方が良いスキルを貰えるわけではないが、レア級のスキルはそう出るものではない。要は一等、特賞は1個しかないのと同じだ。
僕は浮かない顔のオトミチ君を発見した。
「あ、オトミチ君!!スキルなんだった?……あれ!?オータ先生?」
何故かオータ先生がオトミチ君に腕にしがみついて離さない。
「オトミチ君、私は君を離さないわよ……うふふ」
「ま、マーサ!これは……その……お、俺のスキルさ……メデューサって言われて……」
「……あっ」
僕はオータ先生に腕を組まれてカチコチになっているオトミチ君を見て咄嗟にフォローを試みる。
「オトミチ君……年上好きだったから、よかったね……」
「そうなの!?やった――!!オトミチ君、続きは先生のお部屋でお話しましょうね~。ルンルンルン、オットミチく~ん、オトミチ君はカッチカチ~、ここもあそこもカッチカチ~」
オータ先生がオトミチ君の胸板を指でツンツンしている。
「マーサ……運が良ければまた会おうな……あばよ」
謎の歌を唄うオータ先生に引きずられながら、大切な何かを捨てる覚悟をしたオトミチ君の眼差しに僕は(……おめでとう)と心の中で呟いた。
オトミチ君の男らしい背中を見送った僕は、いよいよ儀式を待つ列に並んだ。
並んだ列が少しずつ進み、いよいよ神社の中まで足を進める。
「こちらへ」
「あ、は、はい!」
厳格な扉の前に立っていた巫女さんに案内される。
巫女さんの衣装が神事に携わる者の純潔さを表すがごとく透け透けなので別の意味でドキドキしてしまう。
部屋の中央には台座に水晶が置かれていた。
「こちらに両手をついてください」
僕は言われるがままに水晶に両手をついた。
僕の意識が光の中に吸い込まれる!
《我の名は堕女神アザー、世を引き当てるとはソナタは本当に運がよいな。人にスキルを授けるなど2000年振りよ》
僕の意識に何者かが語りかけてきた。
「え?……堕……女神?」
堕女神って、天界で悪さをして魔界に落とされた女神じゃないか!?
《まぁ、そう悲観するな。我の分身をソナタにつけよう。》
《よろしくね~》
手のひらぐらいの大きさの天使が現れる。右の羽は真っ白だが、左の羽が真っ黒だ。
それよりもティッシュを紐で結んだような服に目のやり場が困る……。
「う……あ……」
意識が現実に戻される。
ザワザワ……、周囲が騒がしくなる。
『あれは精霊?あの子、召喚士なの!?すごいわ!』
『間違いなくSランクのスキルだ!いや!SSランクかも!?』
巫女さんが僕に恐る恐る話しかける。
「あ、あの……おめでとうございます。精霊付きのスキルはSランク以上、勇者パーティーへの同行が義務付けられます」
「え!?ゆ、勇者パーティー!?」
驚く僕に精霊(?)が話しかける。
《当たり前よ!なんたってアタシがついているのだからね!アタシの名前はハレーム、よろしくね!》
「こ、こちらこそ……よろしくお願いします」
こうして、僕の意思とは関係のない猥褻な物語が始まったのである――。
【次回予告】
僕が当たったのが堕天使アザー
この世界では最後に敵を倒した者に経験値が入る
僕は経験値プレゼンターとして勇者パーティーに同行していた。
「マーサ!あいつの弱点はどこ!?」
この赤髪の美女は勇者『フェリーラ』
「えっと……!わかった!魔核がへその背中側に見える!属性は……『火』!スキル『弱点特攻』!!」
『ぐわぁぁぁ――!!』
マーサの攻撃でオーガの体に赤い紋章が浮かび上がる!
「オッケ―!そこが弱点ね!!ブリザード!!」
この黒髪ショートの眼鏡っ娘は魔法使い『チッパ』
「よし!固まった!聖剣エックスカリパ――!!魔核が見えたわ!!」
この青髪ロングの美女は剣聖アンナ。
「今だ!!勇者降臨!イナキデンマガ!!」
【その夜】
「あっ!イイ!マーサ!!一緒にイこ!!」
《マーサ、あなたのスキル『アザー』は『最後を他人に託すスキル』そのままフェリーラに出すと、あなた死ぬわよ》
「え!ハレーム!?で、でも、もう出ちゃうよ!!」
「もう!!バカマーサ!!だったら最後は私の口に出せばいいでしょ!!」
「あ、アンナ……」
「私の中でもいいよ」
「チッパ!ああ!!どっちに出したら……」
「マーサ~!!イクぅぅ~!!」
<次回、『出したのはどっち?』お楽しみに!!>
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