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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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逃げられない

「ふざけないで!!」


 タチアナはマリアからシーツを奪いそれを投げ捨て、驚くマリアに平手打ちした。マリアは突然の事態に対応する術もなく、頬を打たれそのままソファーに倒れ込んだ。打たれた頬を震える手で触り、唇を噛む。


「タチアナ!出て行け、これは命令だ!」


 エリゼはドアを指差し強い口調でタチアナに命令した。タチアナはエリゼの怒りに動揺し、声を詰まらせながらエリゼに問いかける。


「な、何で?エリゼ、一体どうしたのよ」


「もう一度言う、今すぐ出て行け」


 エリゼは冷たく履き捨てるようにタチアナに言った。その言葉を聞いたタチアナは黙って部屋から出て行く。

 気まずい空気が部屋を覆う。しかしマリアは気構えない状態で頬を叩かれ、口の中を切ってしまった。口中に溜まる血液と唾液で気分が悪くなる。堪えようとするが、緊張も手伝い堪えられなくなった。 

「血が、気持ち悪い……吐きそ……うっ」

 マリアは立ち上がり洗面所を探すが目の前がすーっと暗くなり意識が遠のきそうになった。このまま倒れるわけにはゆかないとその場に崩れるようにしゃがみ込んだ。

「大丈夫か?」

 エリゼは顔が真っ青になったマリアを見て胸のポケットからハンカチを取り出しマリアに差し出した。

「す、すみません……」

 マリアはそのハンカチを受け取り口に当て咳き込んだ。

「ウッ……ゲホッ」

 咳き込むと血と唾液がダラダラと口から流れ出る。白いハンカチが真っ赤に染まった様を見てマリアは目眩を起こした。

 「ソフィ?!」

 マリアの体が傾きエリゼは慌てて抱き止める。

「血が、ダメ……」

 マリアはそのままエリゼの腕の中に倒れた。


   *

 


「う、あれ?私……」


「ソフィ気がついたか?」

 エリゼが声をかけてきた。マリアはベッドの上に寝かされており、ソファーに腰掛けていたエリゼが声をかける。


「……」

 マリアはエリゼの問いに何も答えず、ポロポロと涙を流した。

 なぜこんな目に遭わなければならないのかマリアには全くわからない。ただ身代わりになっただけで殺されそうになり、裁判にかけられ、頬を打たれた。こんな理不尽を受け入れる度量はマリアにはない。なぜならこんな封建的な世界で生きて来ていないからだ。白いシーツに涙がにじむ。マリアは両手でシーツを握り涙を拭った。

 エリゼは黙ってマリアを見つめている。マリアはシーツを握りしめながらエリゼに向かって話し始めた。


「わ,私、王様は本当にソフィだと思いますか?私は違います。本当に違います……」

 エリゼはその言葉を聞きため息を吐いた。そして少し間を置き穏やかな口調で話し始めた。

「ソフィ、お前がだれであってもソフィとして裁判を受けてもらう」

 エリゼはそう言いながら両手を組み膝の上に置いた。その言葉を聞きマリアは顔を上げる。

「なぜ?なぜ私が?」

 マリアはエリゼを見つめる。強い日差しはレースのカーテンで遮られ室内は柔らかな光に溢れている。だがマリアの瞳にその光は眩しすぎた。希望のない心に無駄に明るく優しい光はより辛さを鮮明にする。暗く深い闇の方がどれだけ救われるだろう?

「ソフィ、この世の中は辻褄さえあえば何でもいいのだ。お前が誰であってもソフィとして裁判を受け、罪を償えばおさまるのだ」

 エリゼは先ほどと同様に穏やかで優しい口調で、マリアを諭すように話しかける。しかしエリゼの瞳に一切の妥協も優しさも見出すことはできない。

 

「たとえおさまったとしても真におさまらないではないですか?そんな国はまともな国でしょうか?」

マリアはエリゼと対照的に語気を強めエリゼに聞き返す。自分の運命がかかっているのだ。必死に食らいつかなければソフィとして殺されるかもしれないのだ。

「ソフィ……本物のソフィは秘密裏で殺されるだけ。だから問題はない」

 エリゼは淡々と言った。


「王様は私がソフィではないと認めているのですね?」

 マリアは先ほどのやりとりの中でエリゼはマリアがソフィでは無いと知っていると確信し聞いた。


「そう言うことになるな」

 エリゼは手短に答えた。その答えを聞いたマリアは心底落胆した。エリゼは辻褄さえ合えばなんでっていいのだ。マリアがソフィとして死刑になっても辻褄さえ合っているのなら気に留めるほどのことではない、そう言っているように感じたマリアはこれ以上話をしても無駄だと悟った。

「……わかりました。もう私がなにを言ってもその筋書きは出来ているのですね。わかりました」

 マリアはそう言って唇を結んだ。声が出なくなるほどの理不尽な答えに怒りは頂点を越し逆に冷静になる。グッと口を結び気持ちを沈めた。


「何がわかったと言うのだ?」

 マリアの答えを聞いたエリゼが睨むようにマリアを見つめる。マリアの『わかりました』がエリゼの心に引っかかったのだ。


「何を言っても何をしても無駄と言うことがわかったと言うことです」

 マリアもエリゼを見下すような視線を送る。心から軽蔑しているとその視線が伝えている。


「そうだな」

 エリゼはマリアの視線を見て眉間に皺を寄せ答え立ち上がった。マリアは部屋を出て行こうとするエリゼを見て嫌味を込め言った。 

「明日からは大人しくします。色々と、どうもありがとうございました」


 マリアはそのままシーツに包まりベットに横になった。エリゼは何も答えず部屋を出て行った。

 外から鍵をかける音が聞こえ部屋の中が静かになった。


(やっぱりバチが当たったんだ。異世界に来て人生やり直すなんて出来るわけない。諦めなきゃ……)


 


 

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