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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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エリゼの興味



(ま、まさか牢屋に入れられる?!)

 マリアはエリゼに抱かれながら恐怖に震え始めた。シーツに包まれたのは動けなくするためかもしれない。そう考えるだけで血の気がひき息苦しくなる。

「お、王様!エリゼ様!牢屋は勘弁してください、逃げませんからお願い……」

 

 マリアは顔をあげ体に巻きつけられたシーツを手で払のけた。両手が自由になりそのままエリゼのシャツを握り締めキスができるほどの距離でエリゼに縋り付いた。エリゼは腕の中で暴れ出したマリアを見つめていたが、突如笑い始めた。

「ハハハ!ソフィは王が殺されてから性格が変わったようだな!なかなか元気があって、裁判のやりがいを感じるよ」


 エリゼはそう言ってマリアの瞳を見つめた。

 マリアは目の前のエリゼを急激に意識した。周りの景色が霞む。胸の鼓動がエリゼにも聞こえてしまうほど大きくなりマリアはゴクン、と生唾を飲み込んだ。

 スッとした切れ長の瞳が優しくマリアを見つめた瞬間、一気に体温が上がった。そんな自分に戸惑いつつも、エリゼから目を逸らせない。ずっと見つめていたい。けれど今自分が置かれている立場を思い出し、今度は一気に青ざめる。


「さ、裁判?やりがい?ひ、人違いです。エリゼ様、私は全くの別人で、あの本当、嘘みたいですが私、異世界の人間で遠いところからきたのです!」


 マリアは気が動転し目の前のエリゼに話し始める。ある意味で今が最大のチャンスだ。直接エリゼに誤解を解くチャンスがやってきたのだ。ブルブルと震える両手はエリゼのシャツのボタンを引きちぎる勢いがある。

エリゼは笑顔を浮かべたままマリアに向かって言った。

「フフフ、ソフィは嘘がうまい。皆その嘘に騙されて悲惨な人生を歩まされた」 

「わ、私も騙されて今ここに居ますから、その言葉、強く共感できます、ほんとあの人は!!!見たことないけど……」


 マリアは自分が何を言っているのかわからなくなったが、とにかくソフィではないとエリゼに理解して欲しく必死に話す。

 エリゼはそんなマリアの言葉を聞き吹き出しそうになったが、わざとらしくため息を吐き、ニヤリと笑い言った。

 

「ソフィは面白いな」

 エリゼはそう言いながらマリアの頭に自分の頭をゴツン、とぶつけ「顔が近いぞ」と言って笑った。


「いったぁ……」

 マリアはぶつけられた額をさすりながら顔を赤くしエリゼの視線を避けるように俯いた。

 よくよく考えてみれば王が容疑者を抱き抱えて歩くなど考えられない行動をエリゼはしている。その理由はわからないが、マリアはどこかくすぐったくも心地よい感情に胸を締め付けられた。

 

「ん?」

 急に黙ったマリアの変化にエリゼは不思議に思ったのか首を傾ける。エリゼのベージュの髪がサラサラと動く様子を間近に見たマリアはますますエリゼを意識する。何をいって良いのかわからなくなりマリアは小さな声で謝った。

「すみません。あ、あの、王様の顔を見るって失礼ですよね、それにこうしてどこかに運んでもらうこともそうそう無いのでは……そう考えると申し訳ないような気がして」


 マリアはそう言って視線を床に落とした。


「なんか調子狂うな」


 エリゼはボソっと呟くように言い、城の南の端にある一室にマリアを連れてきた。部屋に入り抱いていたマリアを備え付けてあるソファーにそっと降ろしテーブルを挟んだその向かいに腰掛けた。その所作は貴族らしく美しい。

 長い足を組みマリアを見つめるエリゼは威圧感もあるが、それ以上に堂々としたその態度が上に立つものだけが持つ唯一無二のオーラがあった。マリアは緊張と少しの恐怖と大きなトキメキに背筋がピンと伸びた。


 

「ちょっとエリゼ!!聞いたわよ」


 タチアナが勢いよく部屋に入ってきた。マリアはポカンとした表情を浮かべタチアナを見る。先ほどのエリゼの言葉にどう反応して良いのかわからない中、タチアナが乱入してきたこの現状に対応できない。

 

「何だ?」

 エリゼは先ほどと違いクールな表情をタチアナに向けた。マリアは二人を交互に見ている。


「エリゼ、ソフィを抱き抱えてここに来たそうね!大騒ぎよ!王がソフィにシーツを巻き付け誰にも見られないように部屋に運んだって。エリゼが誘惑されたって噂されているのよ!」


 タチアナはマリアを睨みながらいった。その言葉を聞き、マリアの胸はときめく。エリゼはマリアを拘束するためにシーツに包んだ訳ではなく、ミニスカートを履いたマリアを運ぶときに下着が見えないように気を配ってくれたとわかったからだ。 


「あながち嘘ではないな、俺はソフィに興味を持った」


 エリゼは表情を変えずタチアナに向かって言った。その言葉を聞きまたもや体温が上がる。エリゼが興味を持ったということは、この状況を打破できるかもしれない。マリアはすかさず二人に向かって話しかけた。


「あの、私、誤解だということで、解放していただけませんでしょうか?」


 マリアは言った。両手を握り不安な気持ちを隠す。だが、不安を表に出すのは危険だ。つけ込まれてしまう。気にしていないよう言うことが生還への道だ。

 

「解放?馬鹿じゃない?」


 マリアの言葉を聞いたタチアナがうんざりした表情を浮かべマリアに突っかかる。しかしマリアも負けずタチアナに言う。

 

「王様はソフィ姫に興味あるのでしょう?私はマリアです。ソフィは私じゃないから……」


 そう言ってマリアは立ち上がり、シーツをたたみ出した。

 


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