表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛されてはいけない理由  作者: ねここ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/63

元の世界


 

 

「……まぶし い」



 マリアは強烈な光を感じ目を開ける。見覚えない場所、自分がどこにいるのかわからない。ただ、長い時間眠っていたのか、記憶が曖昧になり何もわからない。


 (何も……考えられない……)


 マリアは再び瞼を閉じた。




 

「お疲れ様です。お先に」


 マリアはオフィスを出て、そのまま公園に向かった。

 マンションに帰る前に立ち寄る公園。都会のオアシスであるその公園は擦り切れた心を癒す場所。


 この世界に戻って三年。

 


 あの日、青年の母に死ぬ事を許してもらえたと感じ、私はビルの屋上から飛び降りた。


 地上に落ちる途中、運良く屋内プールの屋根に落ち、意識不明のまま一年眠っていたと看護師から教えてもらった。


 

 意識不明。


 ……あの日々は夢だったのか。

 


けれど、あの世界が私の夢だったらどんなに良かったか。



 退院する時、貴重品を返してもらった。財布やスマホ、見覚えのあるその中に、エリゼ様がくれたあのネックレスがあった。



 ニーナさんがどうなったのか、なぜあの男がニーナさんになりすましあの世界で生きていたのか、全てがわからない。


 ただ確実にわかることは、この世界に彼はいない。


 こんなどうしようもない私を愛してくれたエリゼ様はどこにもいない。

  

 プラチナベージュの柔らかい髪、エメラルドのような瞳。

 

「マリア、愛しているよ」


そう言いながら優しく抱きしめてくれた力強い腕。


 何年経っても忘れることができない。

 


 最初の一年は毎日泣いて過ごした。


 何を見ても、何を聞いても思い出すのはエリゼ様の事。


 涙が枯れ果て、声が出なくなる、そんなことを繰り返した一年だった。


 二年目も同じ、いや、それ以上にエリゼ様を鮮やかに思い出す日々が続き、切なくて会いたくて苦しい日々だった。


 三年経つと忘れられるかも、と思ったが何も変わらなかった。


 ますます想いは募る。


 

 あの世界に行きたい。けれど、その方法がわからない。


 ただ生きているだけの毎日。



 

 エリゼ様に会いたくて、夢でいいから会いたくて、幻でいいから会いたくて。


 居ないとわかっているのに人混みの中に彼の姿を探している。


 この世界にいないのに。


 もう一度ビルから飛び降りれば、そう思い何度も屋上に立った。


 だけど飛び降りることが出来なかった。


 生きたいわけではない。


 ここから飛び降りれば()()()エリゼ様がいる世界に行けるという確信が欲しい。


 でも確信はない。


 この迷いが恐らくダメだと感じていた。



 あの日、何一つ思い残すことなくビルから飛び降り、エリゼ様のいる世界に行った。そして迷う時間すらないままこの世界に戻ってきた。


考えたらダメだと考えるほど、エリゼ様のいる世界が遥遠くに感じ、絶望に打ちひしがれる。


その度にあのネックレスに触れる。



涙がこぼれ落ちる。

 

会いたくて、会いたくて、一目だけでも会いたくて、家に帰ると孤独を感じ、こうして公園に寄ることが日課となった。


 この空気、空や風があの世界に通じていて、彼もこの空気や空や風を感じていてほしい。

そんなバカみたいなことを考えながら公園のベンチに腰掛けた。


 *

 

「はぁ……」


 マリアはため息を吐いた。かれこれ一時間近く、空な時間、心はあの世界を探し彷徨っている。

 

「……帰ろう」


 マリアは薄暗くなった公園を出て歩き始めた。

 ふと前を見ると、若い母親が幼い子供の手を引き歩いている。

 拙い歩みに歩調を合わせている母親の後ろ姿に、自分の母親のことを思い出した。


 十三歳の時、あの事件以来会っていない。

 どこにいるのかもわからない。

 生きているのかさえわからない。


(私の人生はそんなことばかり。母も、ニーナさんも、そして愛するエリゼ様さえも……)


 

 気がつくとその親子に追いついていた。


 小さな可愛い手はしっかりと母親の手を握っている。

 その姿を見て自分が経験できなかった親子の愛を感じ心が温かくなった。


(どうかこの親子が幸せでありますように)


 マリアはこの親子の幸せを心から祈った。

 

 

 ドーン! ガッシャーン!!!


 突然後方から破壊音が鳴り響く。

 

「!?」

 

 驚き振り向くと制御を失った一台の車が親子に向かって突っ込んで来る!


「あ!! 危ない!!!」

 

 マリアは反射的にその親子を庇った。

 

 ドーン!!


 衝撃が体を貫き、マリアは意識を失った。


 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ