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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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別れは突然に


 季節が変わり、大広間の調度品を交換する時期が来た。


 マリアとマリーザは交換作業を手伝っていた。


 飾られているさまざまな調度品を丁寧に梱包し木の箱に入れ保管する。

 大きなものは男の使用人が担当し、小さな物をマリアとマリーザが担当していた。


「この箱に入れた物はどこに収納するのでしょうか?」


 マリアは男の使用人に聞いた。


「マリア様、城の地下に保管倉庫がございます。後ほど案内いたしますのでお待ちください」


「わかりました」


 手が空いたマリアは広間の窓から外を眺めていた。


 庭園にエリゼの姿が見える。太陽の光の下のエリゼはその光に負けないほどキラキラと輝いて見えた。


 氷の公爵と呼ばれていたエリゼだが、確かに公務中は淡々と、飄々とそんな言葉が当てはまるほど表情が変わらない。


 でもそれがまたクールな顔立ちを一層際立たせる。マリアはそんなエリゼに見惚れていた。


 マリアの視線を感じたエリゼが振り返る。


「エリゼ様!」


 マリアはエリゼに手を振った。


 エリゼはマリアを見て手をあげ、そのまま城の中に入ってくる。

 

「皇帝がいらっしゃった」との声が広間に響き、皆が作業を止めた。

 

「マリア、相棒がいたぞ」


 エリゼは先ほどの表情から想像つかないような柔らかな笑顔をマリアに向ける。

 改めてそんな笑顔を向けられ、心臓が高鳴った。


(この笑顔に何度恋をしたのだろう?)

 マリアは赤くなる顔を両手で押さえ平常心を保つ。

  

 エリゼは後ろに控えるレオネに合図し、レオネは木で出来た虫籠をマリアの前に持ってきた。


「?」


 マリアは首を傾け中を覗くと小さなカエルが入っていた。


「カエル? エリゼ様の相棒ですね! こんにちはマリアです」


 マリアは虫籠の中のカエルに挨拶をする。

 エリゼはそんなマリアを愛おしむように目を細めた。


「マリア、蛇に飲まれるところを助けたんだ。後で一緒に逃がしに行こう」


「エリゼ様、それを言う為にわざわざ?」


「ああ、ちょうどマリアがいたからな」


「……なんだか本当に嬉しいです。私は物なんかより、エリゼ様の気持ちが何よりも嬉しいし、幸せを感じます。な、泣きそうです」


 エリゼは瞳を潤ませるマリアを抱きしめ、その額にキスをした。


「愛しているよマリア。後で」


 エリゼはそう言ってまた公務に戻って行った。


 

 エリゼを見送った後、先ほどの使用人が声をかけてきた。


「マリア様、調度品を地下の保管庫に運びましょう」


「あ、はい、行きましょう、マリーザは……先に行きましょうか」

 

 マリーザはレオネに呼ばれ、席をはずしていた。待とうと思ったが、ここにいなければ地下に来るだろうとマリアは使用人の後をついて地下に降りて行った。


 城の地下は薄暗く少しだけ寒い。


「このお城の地下は初めて来ましたが……」


 マリアはふと思い出した。


 地下にはニーナがいる。


 そう思った時、空気が淀みマリアは危険を感じた。

 すぐにここから出なければな何かが起きる。

 体をこわばらせる程の嫌な予感にマリアは立ち止まり踵を返した。


「あの、私、ちょっと戻ります」


 そう言って来た道を戻ろうと歩き始めた時、使用人の男がマリアの腕を掴んだ。

 

「痛!!」

 

 腕がちぎれてしまうほどの強い力に声をあげる。


「は、離して!!!」


 その声に男は動じることなく、そのまま歩き出す。


「や、やめて!! 離して!!」


 抵抗するマリアを引きずるように男は奥へと進む。


 恐怖に体が動かない。

 両足に力を込めこれ以上奥に連れて行かれないよう踏ん張るが、男の力に敵わない。

 靴が脱げ、抵抗しワンピースの袖は破れ、それでも男はマリアを引きずるように奥に奥に進む。 


「誰か……助けて、助けて下さい!!」

 

 言葉に詰まりながら叫ぶが、その声は地上に届かない。それでもマリアは叫び続ける。


「助けて!!!」 


 男は抵抗し、助けを呼ぶマリアを地下の一番奥にある牢屋に引きずった。


 普段なら牢番がいるはずだが誰もいない。

 使用人は手慣れた様子で牢屋の鍵を開け、マリアを押し入れ鍵をかけた。

 

「あっ!! 待って!! 開けて!!!!!」


 鉄格子を握り、去ってゆく後ろ姿に叫び続ける。

 

「マリア」

「!?」 

 不意に名前を呼ばれ振り返ると、暗い牢の中、影が揺れる。

 目を凝らし息を呑む。

 

 そこには鬼のような形相のニーナがいた。


 心臓を貫くような視線に膝が折れ、崩れるように座り込んだ。

 体がガタガタと震え、目の前の恐怖に対応できない。

  

 ニーナは小動物のように震えるマリアを見て口角をあげ、ゆっくりと近づく。


「!!!」


 叫ぼうとするが声が出ない。

 手が震え、恐怖に体がコントロールできない。

 それでも立ちあがろうと、鉄格子を掴み、体を支えるよう両手に力を入れる。


 だが、ニーナに髪を掴まれる。


「ウッ!! ニーナさ……ん、来ないで!!」


 マリアの擦れた声は暗い牢に力無く消える。


 ニーナのその瞳は人間に思えないほど赤黒く光り狂気に満ちている。

 そしてその表情はもはやニーナでは無かった。

 

 ニーナはマリアの腕を掴み鉄格子から引き剥がし、そのまま床に倒した。


 「ウッ!」


 その衝撃に声が上がる。

 

ニーナは仰向けになったマリアに馬乗りになる。

 マリアは両目を見開き、ニーナを見る。

 

「う、嘘でしょ……」

 

 笑みを浮かべ覗き込んでいるのは、幼かったマリアを襲うとしたあの男の顔だった。


「嫌!! 」

 

 フラッシュバックのように記憶が蘇り、抵抗しようとするが、体は金縛りにあったようにぴくりとも動かない。

 

(あの男は死んだはず!!)

 

 そう思った瞬間、強い圧力が首にかかる。

 

「ウ、グッ……」


 両手で首をしめられ、酸素と血流を止められたマリアはなすすべがない。


 苦しい、怖い、そんなことさえ考える間も無くぼやける視界、薄れゆく意識の中でエリゼの声が聞こえた。

 

「マリア!!」


(……エリ……ゼ……様!!)

 

 エリゼの声に一瞬意識を取り戻すが、指一つ動かすことができない。

 マリアは死を悟り薄れゆく意識の中、エリゼに別れを告げた。


 (一緒にいられなくてごめんなさい、ずっと愛しています)

 



 

 


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