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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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バイト

 エリゼが皇帝になって八ヶ月、穏やかな日々が続いている。


 柔らかい光が差し込む部屋でマリアは手紙を書いていた。

 ソフィーの替え玉だった頃に世話になった洗濯係のミケーラ、この世界の母親的存在。

 ミケーラとは頻繁に手紙のやりとりをしていた。


 『お母さん、今私は幸せです。また会いにゆきます』


「あ、もうこんな時間! 遅刻しちゃう」 


 慌てて部屋を飛び出した。

 

 マリアはバイトをはじめた。

 お金を貯め、ミケーラに会いに行きたいと思っている。

 

 エリゼは、そんな事をしなくても欲しいものは何でも手に入れられる立場だというが、

 手に入れたいものは、自分の努力をもって手にしたい。


 気持ちと努力があるからこそ手にしたものは特別な物に変わる。

 欲しいものは『物』ではなく、そこにある『価値』なのかも知れない。

 


 それに、エリゼの努力で今生活をしている。この現状に甘んじることは出来ない。


 マリアは自分のために、バイトを始めたのだ。

 

 しかし人づてに探した給与の良いバイトを見つけても、エリゼの反対にあう。

 ようやく城の中で調度品などを磨くバイトに落ち着いた。


 城には様々な調度品が置いてあり、広間や廊下、エントランスなど置き場も様々だ。


 マリアはマリーザの指導を受けながらバイトに励んでいた。


 皇帝の住む城の調度品は一級品ばかり。花瓶一つでも邸宅が建てられるほどの物もあり、マリアは慎重に扱い、物の価値について学んでいた。


「この置物の猫ちゃんは高そうですね〜、私の一生分のバイトでも買えませんね!」


 マリアは陶器で出来た置物の猫に話しかけながら乾いた特別な布で拭きあげる。


「この耳のところの小さなリボン、可愛いですね!ここもきれいにしましょうね」


「うふふ、マリア様、この猫ちゃんお気に入りですか? ずっと話しかけてますね」


「だって可愛くないですか? 耳にリボンですよ! しかもピンクのちっさいの!!」


「マリア、楽しそうだな」


 突然背後からエリゼに声をかけられた。驚きのあまり磨いていた猫を落としそうになる。


「キャー」


 慌てて拾おうとし猫の耳の小さなリボンが台座に当り欠けてしまった。


「あーーーー!!! ど、ど、どうしましょう!!! リボンが!!!」


 マリアは慌てて欠けた小さなリボンを拾い青ざめた表情を浮かべエリゼを見た。

 


 マリーザも青ざめ硬直してる。打首レベルの失態。


「あははは!! マリアすまないな、俺が急に声をかけたせいで。気にするな」


 エリゼは衝撃に震えるマリアの頭を撫で言った。

 

「そ、それはいけません。私は大切な国宝を……」

 


「マリア、俺が良いといえば良いのだ。この世界はそんなもんだ。幸いこの事実を知っているのは俺とマリアとマリーザだけだ」


「マリーザ、糊を持ってきてくれ」


 マリーザは道具箱の中から糊を取り出しエリゼに渡しす。 


「ほら、こうすればわからないぞ、マリア,マリーザ。三人の秘密だ」


「エリゼ様……適当すぎませんか? やるなら徹底的に!」


 マリアは小さな破片も拾い集め糊でくっつけた。

 

「これで完全犯罪成功ですね。」 


「マリア、お前はさっき泣いていなかったか?」


「……立ち直りも早いのが長所です。猫ちゃんごめんなさいね」


「ハハハ、マリアが笑ってくれて良かったよ」


 エリゼはマリアの頬にキスをし「夕方に会おう」と言って公務に出かけて行った。



 

「マリーザ、お互い気をつけましょうねって、私が気をつけてという資格はりませんね」


「うふふ、エリゼ様は本当にマリア様を愛しておいでですね」


「え? 完全犯罪手伝ってくれたからですか?」


「いえ、いつもエリゼ様はマリア様のことよく見ておいでです。その眼差しはお優しく、愛に溢れております。エリゼ様がそんな表情をされるなど正直驚きました」


「なぜですか?」


「エリゼ様は滅多に笑うことはありませんでしたし。氷の公爵様と異名があるほどのお方でしたから。マリア様が現れてから、こんなにエリゼ様が優しく笑う方だと知りませんでした」


「私も、少しは役に立って居るのでしょうか……」


「少しだなんて。マリア様の存在はとても大きいです。私たちにとっても」


「マリーザ、ありがとうございます」



 三時ごろ仕事を終えマリアは部屋に戻り着替える。

 

 バイト中は使用人の制服であるワンピースを着ようと思っていた。

 しかし、エリゼにダメだと言われ、特別に仕事用のワンピースを作ってくれた。


 仕事が終わると普段着のワンピースに着替える。

 普段の生活はドレスよりも動きやすいワンピースを好んでいる。


 夕方になりエリゼが戻ってきた。


「エリゼ様!おかえりなさい。お疲れ様でした!」


「マリア、今日は色々あったな!」


「思い出すと胸が痛みます」


 マリアは申し訳ない、という表情を浮かべエリゼを見た。

 エリゼは美しいグリーンの瞳を輝かせ、「その顔も可愛いな」と言ってマリアのほっぺを優しくつねる。


「あー! 久しぶりの感覚。前やられましたね! 痛かったんですよ!」

 

「フフフ、マリアが可愛いからついいじめたくなるな」


「私も仕返ししたいです。だけどどう考えても無理」

 

「フフ、マリアおいで」


 エリゼは両手を広げた。


 マリアはエリゼの胸に飛び込み「大好きです」と言って胸に顔を埋めた。


 エリゼもマリアを抱きしめ、穏やかな幸せを噛み締めていた。


 

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