異世界の人
ドアが開き傍聴に駆けつけた貴族や国民達はソフィ姫を見て言葉を失った。顔はソフィでも全くみたことのないどう表現して良いかわからない人物が被告として入ってきたのだ。姫であったソフィとはあまりにかけ離れたその姿をみて、その場にいる人たちは唖然とした。
マリアはそんな人々を見てこの作戦が成功したことを悟った。思わず笑顔が浮かぶ。雨雲に覆われていた空が突然晴れ渡ったような爽快感がマリアの気持ちを軽やかにする。
マリアは足取り軽く被告席に向かった。
マリアのいで立ちに驚いた女性貴族は『破廉恥極まりない』と席を立ち出ていく。マリアはそんな貴族を横目に被告席に立った。被告席の目の前の一段高い席に腰掛けているのはエリゼだ。
新王も出席するのだとわかったマリアは益々自分に有利になるとさらに口角が上がる。エリゼは目を見開きマリアを見つめる。
マリアのいで立ちに戸惑ったのかエリゼの瞳が揺れる。マリアはその様子を見つめ笑顔を浮かべ声をかけた。
「あ、エリゼ様こんにちは。昨日はどうも!!私、自己紹介がまだだったことを思い出して。改めまして、マリアと申します」
マリアは満遍の笑顔を浮かべ明るい声を出しエリゼに自己紹介をした。その様子を見ていた人々は唖然とし、場内は静寂に包まれた。
ソフィ姫の変貌に衝撃を受けている上に、被告人が王に話しかけるなど考えられない事態が起きているのだ。
それに敵に容赦しないエリゼに対しまるで友人のように話しかける様子に皆息を呑んだ。
マリアは凍りついたその場の雰囲気に飲まれないようにさらに明るい声を出し本題を切り出した。
「皆さん驚かれますよね?何が起きた?って。うふふ、私、ソフィ姫に似てるって言われますが、全くの別人です。そして、お察しの通り、異世界から来ました!」
マリアはそう言いながら笑顔を浮かべエリゼに手を振った。
(みんな驚いているわ。この調子でいこう。明るく、何も考えていないような子を演じるのよ)
目の前のエリゼは眉間に皺を寄せマリアを睨みつける。その瞳を見るだけでその圧に体に緊張が走る。だが、ここで引き下がるわけには行かない。
このままソフィと誤解されたまま裁判にかけられるわけにはいかないのだ。
マリアは感じた恐怖を笑顔でかくし、天真爛漫な少女のように明るく話し出した。
「うん、えっと、勝手にお話しますが、私、ソフィ姫に似てるって事で昨日身代わりのバイト、、えっとこちらの言葉で言うと仕事の依頼を受けてソフィになりすましたのですが、このタイミングで王様変わっちゃったようですね。それで、今日ソフィ姫と入れ替わる予定ですが、本物のソフィ姫はまだ帰ってこないようですし、いわゆる誤認逮捕?間違って捕まえられちゃって今ここにいるんですが、人違いってことで、そろそろ帰ってもいいですか?」
マリアはそう言いながら立ち上がり出口に向かい歩きはじめる。
「逃すな」
眉間に皺を寄せ聞いていたエリゼが低い声を出した。その瞬間、マリアは兵士に腕を締め上げられた。
「きゃあ!イタタタ、、あの、ちょっと下着が見えちゃいます!恥ずかしいから離して!!」
マリアは腕を掴まれて上に引っ張られてしまいミニスカートがさらに短くなる。慌てて裾を下に引き下げようと暴れ出す。しかし兵士はガッチリとマリアを掴み離さない。エリゼは眉一つ動かさずマリアを見ている。周りの人々も固唾を飲みその様子を見ている
「すみません、暴れないから、この手を離してください」
エリゼの命令を忠実に遂行する兵士たちにいくら声をかけても無駄だが、マリアはそれでも声を出し続けた。
「本当に勘弁してください。どう見ても別人に見えませんか?私がソフィ姫だなんておかしくないですか!?」
マリアの顔に笑顔がなくなった。この理不尽な状況をわかってもらいたい。その一心でエリゼに向って言葉を放つ。エリゼはそんなマリアを黙って見つめていたが、小さくため息を吐き言った。
「被告のソフィは王を殺されたショックで気がおかしくなったようだ。今日はここまで」
エリゼはそう言って立ち上がった。傍聴に来ていた人々も慌てて立ち上がり頭を下げる。マリアは両脇を兵士に抱えられ退出させられそうになった。
「え、?ちょっとまって、全然ショックじゃないです!そもそもその王様なんて全く知らない人ですし、私は至って正常です!」
マリアは大声で叫ぶ。今ここで退出させられたらこの作戦は頓挫してしまう。何がなんでもソフィ姫ではないと認めてもらわなくてはならない。しかし先ほどのエリゼの言葉に会場の人々は安堵しマリアに向かって悪口を言いはじめた。
「やはりあの憎らしいソフィ姫だ。迫真の演技に騙されそうになった」
「ホラ吹きの名に恥じぬ行動ですな」
「え?ちょっと待って……」
マリアは反論しようとしたが、これ以上話ができないようにタオルを口に巻きつけられそのままずるずると退出させられた。その後、馬車に押し込められマリアは城に戻された。




