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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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その心を救いたい


 エリゼは部屋に戻り眠るマリアを見つめていた。


 静かに眠るマリアはこのまま起きないのではないかと思うほど、存在感が無かった。

 


 エリゼは不安になりその存在を確かめるように、眠るマリアの頬に手を伸ばした。

 

 温かい。その温かさに心が落ち着く。

 

 ふぅーと安堵の息を吐いた時マリアのまつ毛が揺れ、目を覚ました。


「……」


 マリアは何も言わずエリゼの顔をみつめている。

 エリゼもマリアの顔を見つめた。


「エリゼ様、おはようございます……昨日は……」


 マリアはエリゼから視線を外し、手元を見つめ話し始める。 


「マリア、何も言わなくていい、何も心配しなくていい。大丈夫だ」

 

 エリゼはマリアの頭を撫で額にキスをした。

 エリゼの優しさがマリアの心に届く。


 何も聞かないエリゼ。全てを受け止めてくれるエリゼ。

 だからこそ、向き合い話したい。


 マリアは覚悟を決めエリゼを見つめる。 


「エリゼ様、話が、話をしなければいけないことがあります」


「何の話だ?」


エリゼもマリアを見つめる。

  

「……私は、元の世界……で、」


 マリアは言葉に詰まりながら話し始める。それと同時に涙がポタポタとシーツに落ちる。

 涙は枯れ果てたと思っていたが、止まることを知らない。


 エリゼはマリアの涙を見て心臓を鷲掴みにされたような鈍い痛みを感じた。

 

「マリア、言う必要はない。俺はお前が悪魔だろうと何だろうと、どうでも良いのだ」


 エリゼはそう言ってマリアの涙を指で拭う。

 マリアは涙を堪えるように唇を結ぶ。 


「マリア、今を生きろ、それがなによりも大事なことなんだ。今が未来をつくる」


 エリゼはそう言いながらマリアを抱きしめる。 


「俺は常にそう思わないと生きてゆけなかった。でもそうだったから皇帝になり、マリアをこの手で抱きしめる事ができた。過去と今と未来は別々にあるのではない。繋がって今があるんだ」


 その言葉にマリアは嗚咽を漏らす。

  

「だから……今のマリアを愛する事は、全てのマリアを愛していると言う事だ。意味わかったか?」


 マリアは縋り付くようにエリゼを抱きしめ、声を殺し泣いた。


「エリゼ、様、ありがとう、ございます……あなたは私を救ってくれた、たった一人の人……」


 エリゼは必死に前を向き生きようとしているマリアを愛しく思う。過去に何があっても関係ない。

 今のマリアがエリゼにとって全てだからだ。

 


「エリゼ様、大好き、です。愛して、います」

 

「俺も愛しているよ」

  

 エリゼはマリアの瞼にキスをした。

 

「マリア、あの女は悪意を持っている。俺はお前が何と言おうとこの先、一度でもマリアを泣かせたらあの女を殺す。これは俺が決めたことでお前の了承は得ない。それだけは伝えておく」

 

 エリゼの言葉にマリアは何も言わなかった。

 

「マリーザ、マリアから離れるな。レオネもだ。マリア、俺は今から用があるから出かける。ゆっくり休め」


 エリゼはそう言って部屋から出ていった。


 * 


 マリアはエリゼが伝えてくれた言葉を何度も繰り返した。


(過去と今と未来は別々にあるのではない。繋がって今がある)

 


 昔、母から虐待を受けていた時、自分がダメな子供だからと、自分自身を責めていた時に気がついた『選択』を思い出した。

 

 人は常に選択をし、生きている。母は娘を虐待しなければならない可哀想な人生を歩んでいた。

 でもそれは母が選択したことの結果だ。だから自分はダメな子供ではない。


 今、目の前の現実は全て自分が選択した日々の結果。 


 今日の選択が明日に繋がり、明日の選択が未来に繋がる。


 エリゼがマリアの全てを愛していると言った理由はそこにある。

 

 マリアはエリゼに出会うことが出来、愛し愛されることが出来た。

 それはそれに繋がる過去があったからだ。


 マリアの心に光が届く。


 頂いたこの命を大切にしよう。

 悲しみの中で亡くなった青年を忘れず、彼の分まで精一杯生きよう。

 そして、悲しみに囚われているニーナをいつか救うことができたら。



 ただ、マリアの中であのニーナは本当に、元の世界にいたニーナなのかわからなくなった。

 何かが違う、そう感じているが、何が違うのかわからない。

 エリゼの言った悪意も気になる。昔のニーナはあれほどの敵意は持っていなかった。


 冷静になると不可解なこともある。そもそもニーナはそばかすがある愛嬌のある顔をしていた。

 だが、今のニーナはそばかすもなく、あっさりした顔つきだ。何か違和感がある。


 マリアは一定の距離を置き、様子を見ようと決めた。

 

 

「マリーザ、ハンカチを水に濡らして持ってきてもらっていい?」


 マリアはベットから起き上がりマリーザに言った。

 

 マリーザは元気を取り戻したマリアを見て口角を上げ、濡れたハンカチを渡した。

 

「ああ、気持ちいい」


 泣いて真っ赤になった両目に濡れたハンカチを当てる。

 溜まった熱が引いてゆく。心のモヤモヤも一緒に消えてゆくような感覚に安堵のため息をついた。

 

「マリーザ、心配かけてごめんなさい。落ち着きました。エリゼ様は精神科医のような人ですね」

 

「精神科医?」


 マリーザはマリアの言った言葉に首を傾ける。 


「心のお医者様? って言うのかな。元いた世界はとても便利で自由な世界だけど、その便利さに比例するくらい心が壊れてしまう人が多いの。便利に成ればなるほど、自由になればなるほど、不自由な人は増えてみんな心のお医者様が必要になってしまう」


マリアは目にハンカチを当て、話続ける。

 

「けれど本当は、心のお医者様って本物のお医者様じゃなくて、近くにいる人だったり、全然知らない人だったり、私のように、愛してくれているエリゼ様(ひと)だったり。本気で自分を想ってくれているその気持ちは心に届く。ゆっくりと確実に。私はエリゼ様がいてくれて本当に幸せです」


「マリア、嬉しいよ。お前にそう思ってもらえるなんて俺はお前にとって皇帝ではなくてたった一人の心の医者なんだな」

 

 その声に驚き目に当てていたハンカチを落とす。目の前にエリゼが立っていた。


 

「エリゼ様いつの間に? 今の、聞いていたのですか?」


 マリアは恥ずかしさを誤魔化すように苦笑いを浮かべる。


「マリア、元気になったようで嬉しいよ」

 

 エリゼはベットの端に腰を掛けマリアの頬に手を当てマリアを見つめた。


 その瞳は優しく愛に溢れている。

 マリアの胸は喜びに震える。

 

(エリゼ様がいてくれたら、いつか自分を許せるかもしれない)

 

 エリゼはマリアの全てだ。

 マリアは明るい笑顔を向けエリゼに言った。


「あの、許されるなら、今私がどれほど幸せなのかプレゼンしたいくらいです」


「マリア、意味がわからないが?」

 

「要するに、エリゼ様を心から愛していると言うことです!!」


 マリアはそう言ってエリゼの胸に飛び込んだ。

 エリゼはマリアを抱き留める。マリアの明るい声に心から安堵する。


「マリアが元気になって嬉しいぞ」


 そう言って力強くマリアを抱きしめる。

 

 マリアは全身でエリゼの思いを感じていた。

 その抱擁から、聞こえてくる胸の鼓動からエリゼの気持ちが伝わる。

 

 マリアはエリゼの深い愛を受け、心を立て直すことが出来た。


 


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