迫り来る陰
木漏れ日が眩しい庭園でマリアはエリゼと共にお茶会に参加していた。
見覚えある顔、全く初めての相手、一通り簡単な挨拶を交わし、用意された椅子に腰掛ける。
エリゼは「大丈夫?」「退屈?」など、気を使い声をかけてくれる。
その気遣いが嬉しく、多少居心地が悪くとも幸せを感じていた。
参加者は貴族と、小国の王族もいた。娘たちは初めて見るマリアに警戒し、一定の距離を保っている。いくらエリゼの愛する人だと言っても、得体のしれない女を易々と受け入れる必要はない。
女たちの視線は鋭く、マリアは逃げ出したい気持ちを堪え、笑みを浮かべていた。
(ソフィ様はいないのかしら?)
マリアはソフィと一度話したいと思っていた。エリゼと愛し合うようになったことに全く罪悪感がないわけではない。だからこそ、向き合い話をしたい、そう思い、隣にいるエリゼの袖を指先で引っ張った。
「どうした?」
エリゼはマリアの顔を覗き込み聞く。通常エリゼにそんな態度を取ることは許されないが、マリアは特別だ。その姿を見て女達がざわめくが、マリアは気が付かない。これが異世界から来た人間の感覚なんだと、誰もが驚いた。
「あの、ソフィ様はいないのでしょうか?」
マリアはエリゼの耳元で内緒話をするように聞く。その様子を見た女達がさらに騒ぎ出す。
恥じらいを知らないと陰口が聞こえそうだが、エリゼの手前、女達は視線で気持ちを伝え合っている。
エリゼはマリアの聞き方に新鮮さを感じ目を細め答えた。
「ソフィは国に帰ったからいない」
仲の良い二人の姿を見た貴族達は「お二人は本当に仲睦まじいですな」といって微笑んでいる。
だが実際は、虎視眈々と自分の娘をエリゼの妃にと思っている連中だ。
マリアを見る女達の視線は鋭く、貴族達の言葉には裏があると伝わる。
「はぁ……」
息が詰まりマリアは思わずため息を吐いた。そのため息にエリゼがすぐに反応し立ち上がった。
「マリアちょっと。悪いが席を外す」
エリゼは徐にマリアの手を取り庭園の中を歩き出した。
「エリゼ様、ごめんなさい、お話していたのでは?」
思わず吐いたため息に、エリゼが気を使ったのだとわかり立ち止まる。
「ごめんなさい。私がため息を吐いたからエリゼ様に気を使わせてしまったようで」
改めてエリゼに謝り戻ろうと促す。
「違う。俺だって同じ人間だからな、皇帝にも我慢の限界がある」
「我慢?」
「そう、我慢」
エリゼはマリアの目の前に立って言った。
「マリアにキスをしたいのを我慢してた」
そう言ってマリアを抱きしめエリゼは優しくマリアにキスをした。
「エリゼ様!? そんな恥ずかしこと、今ここで言って実践できるそのメンタルが羨ましいです」
「まあ、皇帝だからな」
「プッ、エリゼ様、初めて見た時怖かったけど、全く別人ですね」
エリゼの言葉に思わず吹き出す。
だがエリゼはそれに答えることなく突然黙り込み、マリアを強く抱きしめた。
「? エリゼ様?」
エリゼは何も答えない。
(どうしただろう?)
マリアは不思議に思いエリゼを見る。
エリゼは鋭い眼差しを城の方に向けている。
エリゼの変化に嫌な予感がする。マリアも息を殺した。




