悪夢の始まり
広い庭園は完璧に整備され、足元が見えるよう美しくライトアップされていた。
夜でも咲いている季節の花や、珍しい花。
マリアは見たことのない花や植物を触り香りを楽しんだ。
元の世界では自然に触れることがなかった。
無機質なビルと小さな路地が生きる場所だった。
庭園から会場を見上げると幾つものバルコニーがありそこで休憩している貴族達が見えた。
貴族達はこちらを見ていた。このまま無視する訳もいかず頭を下げる。
いつも自由にさせてくれるエリゼ。今日も参加を強要せずそっとしてくれるエリゼの大きな心に、大切にされていると実感ができる。それに甘えず生きなければ、マリアは息を吸い込んだ。
「マリア様、バルコニーにいる貴族の方々はマリア様に気がついております。エリゼ様が愛するお方、どなたも気になっておいでなのです」
「……私だと気がついている。どうしたらいいのかしら」
マリアはマリーザに聞いた。
「後ほど、会場に行かれたら挨拶をなさったら良いかと思います」
「わかりました。そうします」
マリアはもう一度ベランダを仰ぎ見て一礼し、その場から移動した。
マリーザが庭園の奥へとマリアを案内する。
庭園の奥に植えてある月花草をマリアに見せるためだ。
月花草の花は開花して三時間で枯れてしまう幻の花。マリアは目の前に咲く白く儚い花に魅入った。
「三時間だけ咲く花。インパクト大きいですね。あなた受粉不可能じゃないですか?」
マリアは花に話しかけ触れる。花はゆららゆらと揺れ、甘い香りを放つ。
「プッ、マリア様!本当に楽しい方ですね!」
マリーザはマリアの言葉に笑い始める。
「ね、マリーザ、ハサミある? これエリゼ様に見せたいわ」
マリアは心を許し始めたマリーザの笑顔に満足しながら、聞いた。
「少しお待ちいただければ取りにゆきます。ここでお待ちくださいませ」
マリーザはそう言ってハサミを取りに城の中に戻った。
マリアは静かな庭園の中、一人月花草を見つめた。
空には星が瞬き、流れ星も見える。
ああ、あの日流れ星に願った願いが叶った、幸せだと思った時、目の前の空気が歪んだ。
(この感覚!!)
そう思った瞬間、太陽が落ちてきたかと思うほどの強い光が辺りを真っ白にした。
(この世界に来た時と同じ光!)
マリアは眩しさに目を細める。
異世界から誰かが召喚されたのだとわかった。
強い光から視界を取り戻した時、目の前に倒れている人に駆け寄った。
女性だ。
うつ伏せに倒れていた女性の身体を支え仰向けにした。
「?!まさか、ニーナ……さ……ん」
忘れたくとも忘れられないその顔、よみがえる元いた世界の記憶にマリアの目の前は真っ暗になった。




