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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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悪女



「エリゼ様、私も一言だけ言わせてください……」


 エリゼはマリアの言葉に首を傾げる。

 その様子を見つめながらマリアは頭を下げ、言った。

 

「あの、ごめんなさい」


 そう言って唇を結ぶ。


「マリア、どうして謝る?」


 エリゼは怪訝な表情を浮かべマリアを覗き込む。

 マリアはエリゼから目を逸らし足元を見つめながら話し出した。


「私が、私が現れなかったら、エリゼ様とソフィ様は結ばれていたんだと思います。そしてそれがみんなが望むかたち」


「マリア、俺は望んでいない」


 エリゼはすぐに否定した。が、マリアはそれでも話を続ける。


「エリゼ様、それは私が今ここに居るからそう思うのですよ。いなかったら……」


「マリア、居なくてもソフィを選ぶことはない。俺は幸せじゃなかった。前にも言った。覚えていないのか?」


「覚えています。私はエリゼ様に幸せになってほしくて……」


 マリアはそう言ってエリゼを見つめた。エリゼは真っ直ぐにマリアを見つめている。


 エリゼはフーッと息を吐き、はっきりとした口調でマリアに言った。


「マリア、今は幸せだ。それはマリアが俺のそばにいてくれて俺を愛してくれているからだ」


「エリゼ様、私も、私も本当に幸せです。けれど、ソフィ様のこと考えると……私完全なる悪女ですね。その路線でいくしかない……」


「路線? マリア、落ち込んでいるようないないような。本当にお前は面白いな」


「エリゼ様、落ち込んでいます。悪女、きっと皆さんそう思っていると思います……あながち、間違っていないかも」


 マリアは力無く言う。

 心に引っかかる思いがある。だが今は、エリゼには言えない。言いたくない。

 

「……マリア、お前は悪い女じゃない。俺にとって幸せを与えてくれる大切な人」


 エリゼは、暗い表情を浮かべたマリアを見て違和感を感じた。

 いつも笑顔のマリアが見せた底知れぬような暗い瞳。

 

 マリアはエリゼの言葉に笑顔を見せる。今はこの言葉に包まれたい。この時間を噛み締めたい。


「私もエリゼ様を大切に思っています。ありがとうございます」


 エリゼはマリアの手を握り大きく頷いた。

 

コンコン

  

「失礼します。エリゼ様レオネでございます」


 エリゼはドア越しに声をかけるレオネ執事の声に我に返る。


「そろそろ、お戻りいただきたいのですが……」


 レオネの遠慮がちな言葉にエリゼは口元を緩めた。

 凱旋を祝うパーティが続く中、エリゼは隙を見て抜け出したのだ。場を取り繕っていたクロードがなかなか戻って来ないエリゼに痺れを切らしたのだろう。

 


「わかった、すぐに行く」


 エリゼは立ち上がり笑顔を見せながらマリアに言う。

 

「マリア、少し席を外す」


 その言葉にマリア我に帰った。皇帝となったエリゼを支えるどころか邪魔をしてしまっている。

 そんなことに気がつけなかったことを恥じるように頭を下げ言った。


「エリゼ様、大切な公務の邪魔をしてしまい、申し訳ありません」


 エリゼは謝るマリアの頭にキスをし、


「マリア、この隙に逃げるなよ」


 そう言って笑いながら出ていった。


  

 優しいエリゼの言葉に喜びと申し訳ない気持ちが交互に浮かぶ。


(気をつけなければ)


 マリアはエリゼの立場を考え行動しなければならないと気持ちを引き締めた。

 

 

 エリゼを見送ったマリアはベットの上に腰をかけ改めて部屋を見回す。


 愛する人の部屋に入れてもらえ、愛する人が眠るベットに腰掛ける幸せ。

そのままベットにうつ伏せになりシーツを抱きしめる。

 

 切なさと喜びで居ても立っても居られないほど胸が苦しくなる。

 

 このシーツになりたい。

 この部屋の壁でもドアノブでも。


 なれるならなりたい。

 バカみたいだけど、そう思えるほど好きになった人。


(けれど本当の私をエリゼ様が知ったら……嫌われる……この世界に来た理由……エリゼ様が知ったら、きっとあの笑顔を向けてもらえなくなる)


 逃げても逃げても追いかけてくる悪夢。


(……考えても仕方のないことだわ)


 マリアは徐に起き上がり、不安になる心を追い出すように歩き出す。



 目についた部屋にある大きな扉。一体なんだろうとその扉を開けた。

 そこはクローゼットという名の部屋だった。


(皇帝の服ってこんなに沢山あるのね)


 初めて見る洋服の数々、エリゼが着ている姿を想像しながら眺めていると見覚えのあるマントがあった。


「これは、あの時の」


 それはマリアが時計台に置いて行ったあのマントだった。


 マリアはそれを手に取りワンピースの上から羽織る。あの日の思い出が駆け巡る。あの日、これを時計台に置いてきた時、涙が溢れた。二度と会えないと後ろ髪引かれる思いで置いてきたマント。


そのままベットに移動し寝転んだ。まるでエリゼに抱きしめてもらっているような気持ちになる。


「エリゼ様、大好きです」


 そう呟き、マリアは目を閉じた。


 *

 

 エリゼは各国の王や貴族たちとこの先の帝国の在り方等を雑談をしながら話をしていた。


 エリゼの家門、ザノッティ一族も参加して接待を手伝ってくれている。


 弟のリディオにザノッティ公爵家を任せ今はリディオが当主として切り盛りしている。


 リディオの婚約者のルーナはチェルラ王国の公爵家の娘で、エリゼも通っていたラビア学園で二人は恋に落ち愛を育んでいた。

 

 穏やかな令嬢だが芯が強くリディオにピッタリな人だ。

 今もリディオの社交に付き合い、サポートをしている。


 

 エリゼはマリアの事を考えた。


 マリアは何もしなくて良い。自由に過ごしてくれたらそれで良い。


 だが、エリゼが愛する人はマリアだと言わなければ虎視眈々と妻の座を狙う姫や令嬢が周りに集まってくる。


 マリアが落ち着いたら、一度公の場で紹介しなければならないだろうとエリゼは考え始めた。 

 

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