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愛されてはいけない理由  作者: ねここ


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再会

 エリゼは集まった数十万の兵士を全て採用した。そして兵士達の家族構成も把握し、国の住民票を作り上げた。

 これにより公平に税金が徴収できる。ただ戦いの為だけに兵士を集めただけではないのだ。

 これだけの保証をすることは大きな投資だが、その投資は大きな利益を生む。

 

 エリゼは間髪入れず集まった兵士達と共に出陣した。親友クロードはジュスタ王国の公爵家をバルバラに譲りエテル帝国の貴族になった。そしてエリゼと共に戦いに出た。


 衣食住を保証された兵士達はとにかく元気だ。道中エテル帝国を讃える歌を歌い、エリゼ皇帝を賞賛しする。それを聞いた人々が兵士に志願し、その道中でも兵士は増えていく。この調子でチェルラ王国に入り、兵士たちは毎日毎時間元気にエテル帝国を賞賛する歌を歌い続け、エテル帝国の兵士になればこんな保証が受けられると連呼した。


「エリゼ、この戦法は凄いな。戦わずして味方の士気を上げ、敵の指揮を下げる。効果抜群だ」


 クロードは笑いながらエリゼに言う。

「武器で戦うだけが戦いではない。マリアが言う情報戦だ。俺は戦って生きてきたが、武器を持たずして戦う方法をマリアから学んだのだ」

エリゼはネックレスを触りながらクロードに言う。

「実際マリアって凄い子だな」

 クロードもエリゼの言葉に頷き感心する。

「彼女は常に戦っていたんだ……恐らく」


  *


 その後、時間を追うごとに敵国の兵士も国民もエテル帝国の兵士になりたいと言って国を捨て始めた。

 その動向に慌てた両国は国境を封鎖した。国境を封鎖すると流通が止まる。

 その時点でこの両国の敗北が見えてきた。

 そして国境を閉鎖されエテルの兵士として入隊できなかった人々は怒り始めた。さらに流通によって利益を得ていた中流階級の貴族の不満も高まり内部から崩壊し始めた。そしてお互いが疑心暗鬼になった時、両国に忍ばせていたエテル帝国の兵士達にインクロッチとグリエコの国境を互いに攻撃させた。


 インクロッチとグリエコは互いにエテル帝国と戦っている。エテル帝国と睨み合いを続けている間は暗黙の了解で互いの国を攻めたかった。だが、まさかこの二カ国で戦が起こるなど誰も予想していなかっただけに互いの国は大混乱し誰が味方で敵なのか把握できなくなった。

 

「そろそろ良いだろう」

 エリゼはこの混乱に乗じて二カ国に書状を送った。


 「エテル帝国に降伏するか、滅ぼされるか、降伏するなら両国の王と貴族の命は保証する」

 たったそれだけの文章だ。


 インクロッチとグリエコは即日降伏し、エリゼは戦わずして世界を統一を果たした。

 数十万の兵士は雄叫びをあげ、自分たちが選んだ皇帝エリゼを讃えた。

 エリゼは降伏の条件などを確認し、国を管理するための人材と兵士をそれぞれの国に派遣し帝国に戻った。


 帝国はお祭り騒ぎだ。

 エリゼとクロードは大歓迎を受けながら城に戻った。明日は帝国広場で勝利宣言がある。

 それに参加する友好国の王族も続々と城に到着しエリゼ皇帝に挨拶を交わした。


 ソフィの姿もあった。ソフィはバルバナとタチアナ、サンドラと共に現れエリゼに挨拶をした。

 ソフィはエリゼが遠い人になったと感じていた。

 前回会って半年も経たないうちに世界を統一してしまったエリゼは、もう自分だけのエリゼでは無いとわかっていた。

 しかしソフィはエリゼを諦められない。タチアナとサンドラはソフィを複雑な思いで見ていた。


 エリゼは挨拶にきたソフィに話しかける。

「ソフィ、その後、国はどうだ?」

 ソフィは微笑みを浮かべ話し出す。

「はい、今は国の特産である葡萄を使いワインの流通を始めたところでございます。世界統一のお祝いに献上しようと持って参りました」

 ソフィの言葉にエリゼの表情が緩む。

「ソフィ、成長したな。嬉しいよ」

 エリゼはソフィが初めて自分の国の産業について言えるようになった事を喜んだ。

(一歩一歩進めば良い)

 エリゼはソフィを見て優しく微笑んだ。ソフィもエリゼを見つめて微笑みホッとした表情でタチアナとサンドラを見た。二人も満足そうに微笑みソフィを補佐するクロードの従兄弟バルバナも大きく頷きエリゼに頭を下げた。


 エリゼは国土を提供してくれたチェルラ王国の王、ダニロに礼を言った。ダニロ王は首を振り、エリゼに頭を下げ、そのまま跪く。ダニロ国王はエリゼに忠誠を誓ったのだ。

 

 エリゼは突然の行動に驚いたがその思いを受け入れ、共に成長する国を作ろうと握手を交わした。

 エルネスタ姫とファビア姫もエリゼに忠誠を誓った。


 エリゼは二人の姫の手を取り礼を言いながらクロードをお返ししますと言って笑った。

 二人は真っ赤になり下を向いていた。

 クロードはこの二人の心を射止め密かに付き合っていたのだ。もちろんエリゼは知っている。

 エリゼはクロードを呼び二人との再会を楽しめと言って笑った。


 

 その夜エリゼはレオネ執事からマリアの居場所がわかったと報告を受けた。ずっと待っていた報告だ。


 マリアはザノッティ公爵家が建てた孤児院で孤児の世話をしながらそこで生活をしていた。

 明るく優しいマリアは子供達に人気があり孤児院の人間にも愛されていた。


 レオネはエリゼが侵攻している間に調べ、信頼できる職員を孤児院に送り、マリアの動向を探っていた。そして孤児院にいる人間がエリゼが探していたマリアだとわかり、エリゼが帝国に帰ってきたその日、全ての行事が終わってから報告したのだ。エリゼはマリアが見つかったといえば全ての予定を放棄し孤児院に行くと言うだろう。そうならないよう執事らしい調整をした。

 

「レオネ、今から行く」

案の定エリゼは孤児院に行くと言い着替え始める。レオネもすぐに準備し孤児院の職員にも知らせた。


 エリゼは皇帝だとわからないよう簡単な着衣を羽織り深夜遅くに孤児院に入った。そこにはレオネが信頼する職員が既に待機しておりエリゼを案内した。

 

 その職員によるとマリアは時々お気に入りの場所で眠ることがあると言って孤児院の屋上にある時計台を指差した。


 その言葉を聞いたエリゼの心に光が差し込む。マリアらしい行動に口角が上がる。マリアは変わっていない。はやる気持を抑えながら屋上に上がる。そこから階段を上がり時計台の小さなスペースに入った。


 そこで毛布にくるまって眠るマリアを見つけた。


 湧き上がる愛しさと、震えるような喜びが全身を駆け巡る。今目の前に探していた人がいる。全てをかけても良いと思えるたった一人の人。あの日さよならと言って目の前から消えた時、エリゼの心の時間が止まった。

 

 マリアが居なくなってから日を追うごとに当たり前だった日常がどれほど幸せだったのか知った。そんな経験は初めてだった。明るく笑うマリアの顔よりも時々見せる寂しげな不安そうな顔思い出すことが多くなった時、マリアを安心させたい、そのために何をしなければならないのかと考え続け、すぐに行動に移した。

これが正しい方法だったのかわからない。だが、今のエリゼは何があってもマリアを守れると言い切れる。マリアがマリアらしく自由に生きられる環境は整った。


「マリア、迎えにきた」

 

 エリゼは寝ているマリアに近づいた。

 マリアのそばにワインボトルが転がっている。それを見たエリゼは吹き出してしまった。

 

「プッ、マリア、また一気飲みをしたのか?」


 起こさないようマリアを覗き込み顔を見つめる。

 短かった髪は少し伸びている、そして頬には涙の跡があった。


 エリゼは眠るマリアの横に寝転びそっとマリアを抱きしめた。

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