ソフィ姫の罪
「ソフィ、俺は自分の幸せよりも人の幸せを願える人に心惹かれる。今のソフィはそういう人間だと言えるのか?……俺はジュスタ王国を治める気はない。ソフィに言えることはそれだけだ」
エリゼはそれだけ言って部屋を出て行った。クロードとタチアナ、サンドラ、そしてバルバナが心配そうに廊下に立っていた。
エリゼはバルバナを見て言った。
「お前はソフィを支えられる自信はあるか?」
「はい、エリゼ様、ソフィ様を支えてを立派な王国にする事をエリゼ様に誓います」
「ありがとう、頼むぞ」
エリゼはそのままクロードと会場に戻り、それを見送ったタチアナとサンドラは部屋に入りソフィを慰めた。
「エリゼ、ソフィ様は悪気がない。ただ世間知らずなのだ」
クロードはソフィを庇った。
「クロード、それはわかる。父の道具としてずっと歩んできたソフィがそうなったのはわかる。だけどな」
「だけど、なんだ?」
「ソフィは甘んじてその全てを受け入れてきたのだ。一度も拒否をせずに。俺はその度に傷ついた。一度でも彼女が嫌だと拒否したら、俺は全てを捨ててソフィを連れてゆこうと思っていた。その為に嫁いだ先にも行きソフィを助けようとした。だけど、彼女は俺の助けを拒み全て受け入れたのだよ」
「それしか方法がなかったんじゃないか?」
「違う、俺は、俺を信じてくれらたどんな方法を使ってでも成し遂げる。だがソフィは違ったんだ。それに、マリアを初めて見た時に、あの瞳を見た時に気がついた。マリアは例え死んでもあなたには屈しない、そんな目をして俺を見たんだ。死ぬとわかっていながらも……あの瞳を、あんな瞳を持った人間に初めて会った。惹かれないわけがない」
「そうか、エリゼ、お前ソフィ様に対しそんな覚悟をしていたのに……お前は悪くない。世界中がエリゼはソフィ様を捨てた酷い男だと言っても俺はお前の味方だ。よく頑張ったなエリゼ!」
クロードはエリゼを抱きしめた。エリゼの苦しみを垣間見たクロードはエリゼの選択は間違っていないと理解している。その言葉どうり、クロードはエリゼの味方であり続けようと決心した。
「俺は男に抱きしめられたくないが、今回は嬉しいな」
エリゼも笑いながらクロードを抱きしめる
「お前の気持ちはわかった。一緒に世界統一目指そう」
「ああ、クロード、ありがとう」
二人は共に戦う事を誓い合った。
「エリゼ様」
背後から名前を呼ばれ振り向くとチェルラ王国のエルネスタ姫と、ファビア姫が微笑みを浮かべながら立っていた。
「ああ、エルネスタ様、ファビア様、楽しんでいらっしゃいますか?」
エリゼは笑顔で話しかけた。
「はい、エリゼ様、素晴らしいパーティーですね」
エルネスタ姫は答えた。
「紹介しよう、クロード、チェルラ王国のエルネスタ姫とファビア姫だ、こちらはジュスタ王国の公爵家のクロードで俺の友人だ」
クロードはスマートな身のこなしで二人の姫にそれぞれ挨拶をする。
「この世の宝石と見間違えるほど美しいお二人にご挨拶できるとは幸せでございます」
クロードはプレイボーイらしくスマートに挨拶をする。その姿に二人の姫は顔を赤らめクロードを見つめている。
その様子を見たエリゼは口角をあげ、この二人はクロードに任せようとクロードに目で合図を送り退席した。
一方エリゼの家門ザノッティ一族は二つの王国の主要な貴族と交流を持ち、ビジネスの話や情報交換し、友好関係を作る上の土台作りを始めていた。その筆頭はエリゼの実弟リディオだ。信頼できる一族と仲間にエリゼは感謝し、パーティーは無事終わった。
全ての行事が終わり部屋に戻ったエリゼはマリアがくれたオリーブの枝を見つめていた。
胸に挿していた小さな枝も小さな花瓶に入れて執務室に飾った。マリアのくれたものはエリゼにとって宝だ。大切にしたい。
(マリア、お前はどう思った?)
エリゼはマリアの言葉を想像した。エリゼが国王を放棄しジェスタ王国から去り、ソフィを突き放した行動の意味。そしてなぜ突然皇帝になったのか。
(マリアはきっと笑いながら『皇帝様が考えていること、全然わからないですね』と言うだろう)
エリゼはネックレスを見つめた。キラキラと輝く金色。あの日見た夕日に輝く海を思い出させる。
(マリアはこの城までオリーブを持って来てくれた。近くにいてくれた。この俺の国の空の下にいて、俺を見つめてくれていたんだと思うと今すぐにでもマリアを探しに出て行きたい。一日でも早くマリアを探し出し、また一緒に夜明けを見よう)
エリゼは翌日に残りの二カ国とも国交を樹立した。そしてその結果、エテル帝国に対立する敵国が明確になった。その二カ国とはインクロッチ帝国とグリエコ王国だ。
インクロッチとグリエコは友好国チェルラ王国の両隣に位置し、互いに牽制し合っている。言い換えれば友好国のチェルら王国は常にこの二カ国に挟まれている状態だが、エテル帝国と国交を結ぶことによりチェルラは両国を牽制できるのだ。
エリゼは友好国チェルラ王国に滞在する許可をもらった。チェルラ王国に出陣し、対立する二カ国を潰すのだ。その間チェルラ王国の人間はエテル帝国に滞在してもらう。戦争に巻き込むわけにはいかないからだ。だがチェルら王国はエリゼと共に戦いたいと言った。だが、エリゼは言った。チェルラ王国にも大きなリスクを背負わせる。チェルラの大切な国土で戦争を仕掛けるのだ。だから万が一エリゼが負けたとしてもダニロ王にこの帝都を渡すと伝え、その誓約書も渡した。
しかしチェルラ王国のダニロ王はエリゼの能力を侮っていない。この皇帝はやり遂げるとわかっている。だから自分の国をエリゼに好きにさせようと決めたのだ。ダニロ王はエリゼ皇帝を尊敬し、本気で娘を娶ってもらいたいと思っている。その信頼にエリゼは感謝を伝え、早速戦争に向け動き出した。
エリゼは兵士を募集した。希望者全員を採用し、万が一戦死した時は家族の生活を保証し、戦いで怪我をした者も同様の保証を約束した。そしてその期間の本人の給与と同額を家族にも支給する。エリゼの召集に数十万の人間が応募してきた。




